トリップ 番外編B | ナノ
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▼ 当たり前じゃない日常



最終話翌日のお話です。



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人肌で逆上せそうなくらい暑い。

銀さんの体温が高いって言うのもあるんだろうけど、どうして足まで使って抱き寄せるのかな。運動した直後みたいに汗だくだよ、喉も渇いたし早く起きたい。

上を向いたら可愛い寝顔が直ぐに見え、すやすや聞こえる寝息すら可愛い。だけど残念、干からびそうなくらい暑いからもう無理。


「銀さん、お水飲みに行きたい。腕と足ほどいて?」

「……んー。」

「暑くて喉乾いたよ。」

「……すげぇ汗かいてんじゃん、あちぃの?」

「そう暑いの、離れよ?」

「やだ。」


ヤダと言いながら更に抱き付かれ、私は干物になってしまうかもしれない。喉が乾いた、お水が飲みたい、シャワーに入りたい、暑い。


引き剥がそうと抵抗したって無駄なのは分かるから、銀さんの背中をシーツに押し付けるように転がり私が上に乗った。やっと力が弱まりまるで銀さんを押し倒しているような格好になったけど、じゃれてる時じゃないの。下着のままだから早く起き上がりたい。


「良い眺め。疲れんだろ、乗って良いよ。」

「嫌だよ。」


ニヤニヤしながらお尻撫でられたから早く逃げなければ、可愛い銀さんはもう居ない。


ベッドから足を下ろせば後ろで起き上がったのが分かったけど、落ちてる浴衣を拾おうと腰を浮かせると後ろから肩にシーツを被せられ布の上からお腹に片腕が回りベッドに腰が戻る。
何事かと振り返ろうとすれば直ぐ目の前に銀さんの顔が来てて気づいた時には唇が触れていた。

軽く重なるだけのほんの一瞬で「シーツ持ってっていーよ」と自分は二度寝するのかまたベッドに仰向けに転がり始めた。
ドキドキを隠すように胸元でシーツを両手で握り、口元まで引き上げ堪らず隣に逆戻りしてしまう。

だってほら、おはようって言うの忘れちゃったから。
朝の挨拶は大事だよ。


「おはよぅ。」

「え? 何で戻って来た? いや良いんだけどね、おはよ、一緒に二度寝する?」

「んーん、起きる。」


シーツにくるまったまま隣に倒れたら不思議そうな顔されたけど、仰向けに転がりながらも私の乱れた髪を指で直してくれたからお顔が見やすくなった。

でも寒そうね銀さん。


「やっぱりシーツ返すね。」

「こんままダラダラしてぇな。つかマジで痩せたなお前、腹抉れてんじゃねぇの。」

「抉れてないよ、でもこれくらい凹んでるとスタイル良く見えるかなぁ?」

「痩せてりゃスタイル良いと思ってんのって女だけだろ、俺に良く思われてぇならこんなガリガリ嫌なんだけど。太るのは良いけど痩せないで。」

「太るの良いの? 」

「日々の活動力から見て極端に見た目が変わるほど増える事なんざあり得ねぇだろ、肉付きづれぇ体質なんじゃねぇの?」

「頬とお腹に来るよ、食べたらお腹膨らむ。」

「誰だって食ったら膨らむわ、戻んだから良いじゃねぇか。」

「寝る前には戻って欲しいんだもん、銀さん直ぐ触るから。」

「つかそもそもお前そんな食わねーじゃん、抱き心地は大事だぞ。」


ベッドを降りて浴衣を着てたら人の身体を見ながら文句が沢山降ってくる。顔は不健康そうとは自分で思ったけど身体は思わなかったな、細い方が男の人は好きなんじゃないの? あとお胸おっきい人。

けど食べたら普通に戻ると思うよ、お腹はまぁ肋が浮いてるのは怖いよね、食べたら吐くから精神的におかしくなってたんだ。


身体がだるすぎて私もダラダラしたいと思ってしまう、早く体力を戻さねば。手足に力が入らないし直ぐに疲れる。シャワー入って歯磨きをして着替えとお化粧をする、それだけで重労働でもしたかのような疲労感。


「完全に病人だろ、真っ直ぐ病院行くからな。」

「やだ。」

「ヤダじゃねーよ、また倒れたら困んだろ。」

「やだぁ点滴。針太いもん、絶対痛い、やだ。」

「おいウロチョロしてねぇで座ってろよ、フラ付いてんだろうが。」


忘れ物無いか確認してただけなのに腕を引っ張られてベッドに座らされた。朝も取りあえず何か食べようと思ってお団子1つ食べたら気持ち悪くなったから止めた、眉間に皺を寄せる銀さんに見られたけど悲しくなるからそんな顔しないで欲しいよ。

横になると楽だからベッドに転がったら眠くなってくる、全然眠たくなかったのに元気になった証だね。早めに準備したから時間はまだある、銀さんの準備は早そうだけど少し目を瞑っても良いだろうか。



どのくらい寝てたのか自然に目が覚め無意識に手を目元に持って行ったら手首を掴まれ擦る前に止まった、ゆっくり目を開けると着物姿の銀さんが同じベッドに腰かけて座ってる。


「化粧取れんぞ。」

「……ん、ありがと。」

「具合大丈夫か? スクーター危ねぇ気ィすんだけど車呼ぶ?」

「んーん、大丈夫。」

「ホントかよ、俺は後ろ乗せんの怖ェんだけど。タクシー呼べば?」

「大丈夫、後ろ乗せて貰う。」

「つか行きは? こんな所まで歩いて来たのか?」

「んー、歩いてたら具合悪くなったから…………うん。」

「何だ、うんって。総一郎クンに送って貰ったのか?」

「……んー。……ん? 電話だ、フロントから?」

「時間まだ早くね。」


ナイスタイミングで会話を遮ってくれた。

受話器に向かう銀さんの背中にごめんなさいと思いながらもホッとしてしまう。


タクシーは高くてね。でも歩くのも億劫だったの。




「は? 何でテメーがここの場所知ってんだよストーカーか? 」




…………声色的にナイスタイミングでは無い電話だったようだ、いや寧ろ絶妙なタイミングなのか。もしかしてお迎えに来てくれようと電話してくれたのかな、でも部屋に繋げて貰う事も可能なの? 警察だから??

チェックアウト何時だって聞かれた気もするしホテルの名前も言った気がする。聞かれた事にだけ答えてボーッとしてたからあまり記憶が定かじゃない。


「あー、いやスクーターだと危ねぇからそっちの方が良いわ。悪いな。」


いやぁあ!? 銀さんに謝らせちゃった……!


やっぱり迎えに来てくれようとしてたんですね土方さん、具合が悪いなんて理由で朝っぱらから呼び出して足に使った私を、……ごめんなさい、もう皆にごめんなさい……。



「迎えに来てくれるってよ。」

「…………はい、……ご、ごめんなさい、」

「副長をタクシー代わりに使ってんのな。」

「……す、すみません。」

「干渉して来ねぇから楽なんだろ。総一郎クンだとホテルまで付いて来そうだしアイツならお前が頼んだ事だけして帰ってくれるから都合良かったんだろ。」

「……そ、そうね。頭あんまり回って無くて、朝っぱらから呼びつけて……、なのに文句も言わず遠いのに送ってくれた。」

「普段コキ使われてんだから良いだろ、そのまま病院送って貰えば? 俺もスクーターで行くし。」

「いや病院は大丈夫。」

「俺が言うから良いわ。」

「病院は大丈夫です! お家に帰りたい、病院行かない。」

「だめ。」


ホテルから出て待ってる間も病院は行かないと主張しても無視され、土方さんに直接言えば良いかと思ったのに来てくれたパトカーに乗ってるのは沖田くんだった。

「終わったなお前」と鼻で笑われたけど、それ以前に沖田くんに会うのはもう少し先が良かった。


「おはよーごせぇやす。」

「お、おはよう沖田くん、……沖田くんが来てくれたのね、ありがとう。」

「病院直行しやすからね、土方さんだとアンタ行かねぇでしょう。」

「……そう、ね。」

「旦那も結局は甘ぇから嫌がられる限り無理矢理も連れて行けねぇだろうし、適材適所って奴でさァ。」

「んじゃ俺先に家帰ってるから。」

「え!? 一緒に来てくれるんじゃなかったの!?」

「昼には神楽達帰って来るしな。総一郎クンからは逃げねぇだろ?」

「逃げないんじゃなくて逃げれないんだよっ!待って待って、本当に大丈夫だよ、昨日より元気だし!ね、銀さんもそう言ってたでしょ?」

「言ってねーわ。」

「言ってよ! 何で病院なんて行くの、大丈夫だよ。」

「大人しく病院行くのとドライブ中俺の愚痴聞くのどっちが良いですかィ。さっき偶然土方さんが電話してんの聞こえたから問い詰めて知っただけで、こんな所まで来てんの初耳なんですが。毎日会ってても俺には大丈夫しか言わねぇのに。」

「…………」

「頑張って来いって、お昼にオムライス作って待っててやんよ。」

「……はい。」


……大丈夫しか言わないって銀さんにも言われた気がする。
でも凄く心配してくれてるの分かるからこれ以上心配かけないようにと思って言っただけで、頼りないとかそう言うのじゃないんだよ。
なんて今言った所で何の説得力も無いよね。

そして手料理作って沖田くんに会いに行こうと思ってたから、早過ぎる再会に何も用意してないし言葉すらも準備出来てないよ。


結局運転中も、何か食べれたのかとか寝れたのかとか確認だけで、さっき言ってた愚痴的な話題は出されず病院に付いても一緒におりてくれて保護者にも見えて来た。

銀さんとちゃんと話せたのかとかも、何も聞かないんだね。



「……沖田くん。」

「何ですかィ、終わるまで見張りやすからね。」


スタスタ病院に向かう背中に何度助けられた事か。
私に戦い方を教えてくれた、身を守るだけじゃなくある程度戦えるようにって剣道擬きを叩き込んでくれて実際危険な所にも連れて行ってくれた。


銀さんの心配してくれる気持ちも本当に嬉しいの、大事にしてくれてるのが分かる。

でも、一緒に居たいと思う私を連れて行ってくれたのは沖田くんだけだった。当たり前だけどお母さん達がお仕事に連れて行ってくれる筈も無いし、お婆ちゃんだってお仕事だから私はお留守番。銀さんだってお仕事なんだからお留守番は仕方無い、なのに沖田くんだけはお仕事なのに連れて行ってくれたの。土方さんに駄目だと言われてたの知ってるよ、今では土方さんも何も言わないけれど、最初は危険だから止めろと何度も言われてたでしょ。それを無視して私を連れて行き実際必要の無い怪我を負わせてしまった事もあるし、私が捕まった事もある。それでも彼は連れて行く事を止めようとはしなかった。


「……、お、沖田くっ、……っ」

「は? えぇ? 泣くほど嫌なんで? マジで?」


立ち止まったままの私に目を大きくして驚いた顔で戻って来てくれる。ありがとうなんかじゃ足りないくらい感謝してる、ありがとう以上の言葉って無いのかな。

少しの距離だし助走無しの飛び込みだけど、全身で感謝を伝えるには抱き付く以外に思い付かない。
「そんなに?」と病院を嫌がってると勘違いしてるであろう沖田くんに弁解をしたいけど、情緒不安定なもので嗚咽しながら泣きすぎて言葉が出ないよ。


「点滴が嫌なんで? けど多分脱水起こしてるし免疫力も極端に低下してるし自然回復待ってる間に死んじまいやすよ。」

「ん、でも違くて。……、ありがとう、沢山沢山ありがとう。沖田くんが居てくれたから、私は強くいられた。銀さんの事となると、ちょっと別だけど、でも沖田くんが私を連れて行ってくれたから、私は邪魔じゃないんだって思えた。行動で教えてくれたのは沖田くんだけだった、……本当に、ありがとうっ。」


自分を必要としてくれる存在が良く分からなかった。我儘を言えば困らせ負担を掛ける、そうすれば無理をして状況は悪化。私が良い子でいればお婆ちゃんはお爺ちゃんのお世話と仕事を優先出来て笑えるようにもなる、そうすれば時間がある時ゆっくり出来る。

銀さんは私を必要としてくれる、でも危ない時は置いて行く。二人を連れて「行って来る。」と私に言い、私が笑えば困ったように笑って行ってしまう。

私の存在が必要無いわけではない、でもその依頼だけの話をするならば、私だけは必要無い。別に考える必要も無いんだよね、だって当たり前なんだもん。二人は戦力になって場馴れもしてる、対して私には戦力も無く場馴れもしてないんだから邪魔でしかない。


多分そう言う所なんだろうね、お互い腹割った話をしようと言ってた銀さんの会話からするに、私のひねくれたこの思考が含まれるんだ。

沖田くんが連れて行ってくれたから私の足手まとい加減が現実的に良く分かったし身を持って知った。そして銀さんに当てはめて段々と怖くなりいざ一緒に行くかと言われても、もう無理だった。


「……俺は、どこでも末っ子だから基本大人に守られて生きて来やした、可愛がられたし優遇もされた。けど、いざって時に頼りにされるのはいつも俺じゃない、俺に弱さを見せる事も無ければ揉め事があっても戦力外。だから強くなるしか無かった、誰よりも強くなってやりゃァ今度は頼みの綱は俺になる。守りてぇモンを守れるようにってのも勿論ありやすけど、そう言った野心が俺にはありやした。黙らせるには力が無いと駄目なんだとハッキリと分かりやしたよ。」

「努力の賜物だったんだね。」

「まぁ腕だけじゃなく頭使って動くのも手ですけどねィ。名前さんが初めて俺が人を斬ってるのを見た時、当然怯えんだろうと思ってたのに血を浴びた俺を見て離れて行かない処が触れて来る程の異常さ。俺はその異常さも踏まえて好きだったんですがね、後々に俺の刀捌きに興味あんのかと分かりやしたよ。他の隊士が刀振るってても直ぐ飽きたように顔そらすのに俺を見てる時だけ真剣なんで益々側に置きたくなりやすし、なのに年上ぶって俺を甘やかそうとしてくるから乗ってればまんまと落とされやした。」

「ふふ、落としてないよ、沖田くんが甘やかすから私が落ちたんだよ。」

「どのみちもう元には戻れやせんよ、俺は一生アンタを離すつもり無ぇんで。旦那に止められようが連れて行きやす、監禁されてようが誘拐しに行きやすからね。」

「銀さん監禁してもお世話しないから誘拐し放題だよ、繋いで放置するタイプみたい。」

「かっ拐われるとは微塵も思ってねーんでしょうね、今度コッソリ拐ってみやすか。」

「はははっ、銀さんどうするんだろう。」


駐車場でいつまでも立ち話してたら銀さんが待ちくたびれてしまう。沖田くんへのお礼は後日ゆっくりするね、神楽ちゃんと新八くんにもお礼しなきゃだし土方さんの所にも行かないと、暫くはお礼巡りかな。

銀さんにももっとちゃんとお礼言いたいけどお礼より行動で示さないと、銀さんが何処に行ってもちゃんと信じて待てるようになるんだ。銀さんは強い、銀さんは死なないらしい。


手を引かれながら病院に連行されつつ脳内で現実逃避の如く思考を巡らせた。
病院は嫌い、好きな人居ないかもしれないけど自分が受診するのも嫌だ。でも大人だから勿論騒がないし無言で診察室に入ったよ、採血すると言われたけど針が細いやつだったからこれは大丈夫、他の検査も痛くない。だけどやっぱり点滴はするらしく刺された、これは痛かった。涙が出るほどでは無いけれど普通に痛いよね、終わるまで時間が掛かるから寝てて良いと言われても針刺さったままなんだから気になって寝れないよ。片腕は微動だに出来ない。


「腕上げたら血液逆流しやすから気をつけてくだせェよ。」

「何それ怖い。これ抜く時も痛いのかな、飲み薬じゃ駄目だったのかな。」

「ちゃんと食って寝てりゃ点滴されずに済みやしたよ。」

「ですね、すみません。居て貰っちゃってごめんね、お仕事大丈夫?」

「名前さんが元気ねぇと土方さんの隈が増えやすからね。つーかもし土方さんが病院連れて行くっつったら逃げれやす? 選択肢与えて来そうなんで行かないだろうと思いやしたけど、思ったより顔色酷かったし土方さんでも連れて行ったかも。」

「今は体力が無いから誰からも逃げられないけど、通常の場合でも本気で土方さんが連れて行くと言うのなら手錠はめられそうだから無理かな。行き先が病院で私の心配ならば全力で逃げようとも思えないし。」

「何だかんだ結構名前さんの事気にしてやすよね、旦那これから忙しくなるんじゃねーですかィ? 今までは悩みの種だったにしろ旦那が頭ん中占領してたのに、これからは何が占領するんだか。成長したいと張り切るのもほどほどにしねぇと旦那に拗ねられたら俺とも居れなくなりやすから気を付けてくだせぇよ。」

「本当だね、焦る必要は無いしゆっくり頑張る事にするよ。でも銀さん病院付いて来てくれるって言ったのに来てくれなかったし沖田くんを信頼してるよね。私を絶対に病院連れて行ってくれると思ってる、森であんなに沖田くんにヤキモチ妬いてたのに。」

「あれは旦那が悪いんでさァ、まだ名前さんを可愛いだけの一般人だと思ってる。俺が真剣に教えてるってのに一般人で居られるわけが無ぇでしょうに。」

「え? 私一般人じゃないの?」

「一般人と剣道したら余裕で優勝レベルですぜ。周りが隊士やら攘夷志士やら旦那だから押されるってだけで場数も踏んで捕まるのも慣れたし、的確に対応出来るくらいの知識も技術も身に付いてやす。ただ旦那の傍でそれが発揮出来るかどうかは名前さんだけの問題じゃねぇんで何とも言えねぇですけどね。」

「私そんなに成長してたの? お稽古して貰ってても全然手ごたえって無いんだよね、常に押されてるし重いし竹刀飛んで行くし、何なら私も飛んで行くし。」

「手ごたえは感じさせねぇようにしてんでさァ、心へし折れるギリギリで飴にしようと思ってたから。なのに今だに出番無しで鞭ばっかりですぜ。」

「沖田くんが真剣に相手してくれてるのに心が折れるわけないじゃない、それに遠慮無くぶつかって大丈夫って思えるから楽しいよ。」

「ホント折れねぇですよね、流石に少しくらいキツイって言うと思ったのに。」

「身体動かすの楽しいし沖田くんの動き凄く綺麗だから凄いなぁ良いなぁって思って見ちゃうの、それを私に向けてくれるのなら全力で応えたいよ。何度飛ばされても見離さないでお稽古してくれるんだから、折れるわけがないよ。」

「旦那にもそうやって素直にぶつけりゃ良いのに、つってもそれが出来れば苦労しやせんか。」


会話をしてるのに段々と眠くなってきた、私の身体はまだ疲労しているのだろうか。ベッドの横で椅子に座りお話してくれてるのに寝てしまいそうだ、点滴を見てもまだ半分も残ってるよ。


「これからは、お互い頼って行こうねって話になったよ。」

「俺はお互い自由にやるのが良いと思いやすよ、頼り慣れてねぇ二人が頼ろうとしても結局考えてから頼らなきゃならなくなる。多分二人とも元々は自由気ままだったんでしょう、気遣いの能力はありやすしもう少し相手に縛られ無いで自由に生きたらどうですかィ。」

「……私、結構自由気ままにしてるよね? でも銀さんは遠慮してる所あるからそうして欲しいわぁ。」

「俺に気にせず寝て良いんですぜ? 元気になったら遊びに行きやしょーね。」

「ふふ、うん。何か横になったら眠くなっちゃうの、」

「身体が正常に戻ろうとしてるんでさァ、ゆっくり休ませてやってくだせェ。」

「……ふふ、私を?」

「そうでさァ。散々酷使して肉体的にも精神的にもボロボロですぜ。」

「ふふ、拷問じゃん、可哀想に。」

「笑い事じゃねーや。良いから寝なせェ。」

「……うん、じゃあちょっと、寝ようかな、ありがと。」


少しだけ眠らせて貰おうと目を瞑ったら一瞬で数十分が経過したらしく、起こされて目が覚めたら腕から点滴の針が消えていて何もかも終わっていた。


点滴のお陰なのか気分の悪さがなくなり、家まで送ってくれた沖田くんに別れを告げ、何だかとっても久しぶりに感じる万事屋の玄関を開ければ3人が並んで立っていて驚いた。

「おかえり」と笑って言ってくれる3人は、私を待っててくれたんだ。血が繋がって無くても家族になれるのは分かる、だってこの3人は家族だもの。私の事を家族の一員に入れてくれてるのも分かってた、でもそれは皆の優しさであって実際に家族になれたと思える事は無かった。家族みたいだとは思えても突然降って湧いた私が家族になれるわけがない、入って良いわけがない。私の家族はもう皆死んじゃった、私だけを残して、誰かと過ごす日常は当たり前なんかじゃないとずっと前に知った。


「……、た、……ただいま、っ」


当たり前じゃない日常だけど、一緒に居るのが当たり前なんだと思っても良いのかな。
病み上がりの銀さんを差し置いて何で私が出迎えられてるんだろう、何で好き勝手家を出たのに迎えに来たり笑って出迎えたりしてくれるんだろう。

玄関前で泣く私は昨日からずっと泣いてるよね、そろそろ体内の水分無くなるんじゃないだろうか。


「おかえりヨー、銀ちゃんがご飯作ってくれてるアルよ。名前の好きな人参いっぱい飾ってるからネ。」

「お登勢さんが元気になったら快気祝いにってお酒沢山買ってくれてるそうですよ、まぁ暫くは禁酒ですけどね。絶対飲ませませんよ。」

「暫く1人で散歩も禁止だかんな、常に何処に行くか誰かに伝えてから出掛けろよ。当分自由は制限されると思え。」

「ふふ、暫くはお礼に回りたいから忙しいよ私。」

「なら監禁しまーす。今回は警備厳しいぞ、家ん中3人と外から総一郎クンの監視があるかんな。脱獄成功率0パーセントの超難関システムだ、そう簡単に逃げられると思うなよ?」

「私は刑務所に捕まるんだ、罪状は何ですか?」

「家族を心配させ過ぎた罰だな。」

「因みに家の中の3人に銀さんは含まれてませんからね、僕と神楽ちゃんと定春ですから。銀さんも名前さんと監視される側ですよ。」

「え?」

「家族を心配させ過ぎた罰なら銀ちゃんも同じアルよ、2人仲良く檻の中に入ってるヨロシ。」

「こんな可愛い子と閉じ込められるんなら寧ろラッキーだわ、お互い受刑者なワケだし看守の代わりに俺がお仕置きしといてやるよ。」

「そんな体力が残っていれば良いケドな。銀ちゃんの看守は私ネ、懲罰房で だらけきった根性も治してやるヨ。」

「皆で仲良くお家で過ごそうか。刑務所なんざ物騒な話はやめてご飯にしよーぜ。」

「アンタが言い出したんでしょうが。」


「さぁ行くぞ」と逃げるようにリビングに向かう銀さんと呆れた顔してそれを見つめる新八くんに、もう興味を無くしたのか私の手を握り顔色を見てくる神楽ちゃん。思わず抱きしめれば笑って抱きしめ返してくれるしリビングに行けばご飯が並んでてまた涙が出そうになる。


家族だと思ってくれてるのに疲れたの一言が言えない時点で遠慮なのかも知れない。

少しずつ直して行こう、当たり前みたいに一緒に居てくれるんだから。





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