トリップ 番外編B | ナノ
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▼ 【蜜柑】



お登勢さんに貰ったミカンを剥きながら隣に居る銀さんを眺めていても、魂でも抜けちゃったのかなってくらい人形みたいに動かない。

頬をテーブルにぺったり引っ付けて顔はこっちを向いてはいるし目も開いてるのにボーッと宙を見たまま全然動かない状態がもう30分は続いてる。

新八くんは、まるで銀さんが居ないかのように私と会話をし、今出掛ける準備をし始めた。
寝てるのかとも思ったけど瞬きしてるから多分起きてるんだよね?


「ん、甘いミカンだ。食べる?」


返事は無かったけど試しに1粒だけ銀さんの口にゆっくり近付けてみたら、唇に引っ付ける前に開き、そして食べた、ちゃんと咀嚼もしてる。

今度は2粒近付けてみたらそれも食べた、やっぱり近付けただけで勝手に口が開くから寝ながら食べてるわけでは無く見えてるらしい、つまり起きてるのね。
無くなっちゃったから新たなミカンを剥き、次は4分の1の大きさを近付けても食べるし半分でも食べた。

凄い半分でも一口で食べたよ、しかもまだ入りそうな余裕もあったから急いで残った4分の1を自分の口に入れて再度新たなミカンを剥く。

ざっと大きな筋だけ取って丸々1個そのまま近付けたら口は開いたけど入らなかった、残念だと諦めようと思いきや口が大きく開き、まさか入っちゃうのかとそっと押したら収まった。


「凄い、入っちゃった。」

「……ッ、……、んぐ、」

「でもとても苦しそう」


1回咀嚼する度に口の端からミカンの汁が出てきちゃってる。流石に丸々1個は大き過ぎたみたいで口元を拭いてあげてもお鼻で頑張って呼吸しながらモグモグ口を動かして食べ終わった頃には「ケホッ」と噎せちゃってて可哀想。


「まだ食べるかな。」

「……」

「あっ、そっぽ向けられちゃった。」


意地悪したから嫌がられちゃったかな、顔が向こうに動き後頭部しか見えなくなった。
でも私は座ってるから上から覗き込めちゃうけどね。


「ミカンもう要らない?」

「……」

「銀さん今日元気無い日なのね」

「……」


新八くんが出掛け、本当は私も一緒に行く予定だったけど何だか離れがたくて止めてしまった。

ミカンの皮を片付けて手を洗ってから戻って来ても後頭部を向けられたままの体勢から何も変わってない。
さっき意地悪しちゃったけど、そっと頭に手を乗せてみても嫌がられなかったからフワフワして気持ちいい髪の毛をひたすら撫でても無抵抗。

上から覗いてみたら目を瞑っているから寝てしまったんだと手を止めて立ち上がれば、パチッと目が開きまたボーッと宙を見つめてやっぱり動かない。毛布を取りに行こうと思ったけど心配になり正面に回り込んで眺めても表情が無いように見える。


「……元気無いね」


頬を撫でても何処を見てるのか視線は合わないしされるがままで動かないよ、瞬きはしてるけど撫でてたら段々と瞼が閉じて行き眠いのかなって思っても手を止めたらまた目が開くのに私を見てはいない。

身体を無理矢理引き寄せて頭を抱き締めても、コテンと鎖骨に倒れて来るだけで本当に人形みたいだよ。


「銀さんどうしたの?」


何も言ってはくれないから取り敢えず、ぎゅっと抱き締めて直ぐ下にある頭に頬を乗せ引っ付いてたけど元気は一向に回復はせず終いには新八くんが帰って来てしまう。

ご飯の支度があるし少しバトンタッチして貰うべく新八くんに頼めば「ご飯は僕が作るので相手してあげてて下さい」と言われ、じゃれてるわけでは無く元気が無いのだと説明しても構って貰いたいだけですよと言い残し台所へ行ってしまった。



「……そうなの? 元気無いんじゃなくて?」


身体を少し離して見ても変わらず動かないけど、チューする?って聞いたら「うん」と普通に返事があり、さっきまで返事処か動きもしなかったのに背中に両腕が回されて寄り掛かるように胸元にあった銀さんの顔は私を見上げるように動き視線がしっかり重なった。


「元気無いわけじゃないの?」

「元気無ぇよ、お前最近アイツらばっか構って俺と一緒に居ねーじゃん。」

「えぇ? そんな事無いよ、夜は毎日一緒に居るじゃない。」

「直ぐ寝んだろ、もっと俺も構えよ。」


酔ってるの?ってくらい素直な感情をぶつけられ、怒られそうだけど胸に顔引っ付けて抱き付いて来る姿さえも可愛らしく見えてしまう。
銀さんは元気が無かったわけでは無く拗ねていたらしい、私はまだ全然ダメだね、気付いてあげられなかったよ。


顔は隠れちゃったから見える頭に唇を寄せれば、チラリと目線が上がり見えた額にも唇で軽く触れたら顔ごと上を向いてくれた。
鼻筋にも唇くっつけたら驚いたのか目がしっかり開かれ、頬骨には軽く食むように唇を沿わせると見えなくても口元が笑ったのが分かるし両手で顔を捕まえて頬にもたっぷり唇をくっ付けていると、短く笑い声上げながら体重を掛けられて銀さんを乗せたまま後ろに倒れる。


「全然気付けなかったよ、ごめんね。」

「一緒に留守番してくれたからいーよ。」

「でも銀さん そっぽ向いたよね?」

「お前がミカン丸ごと口に突っ込んで来るからだろ。止めてくんない? ちょっとワクワクした顔して来んの。」

「え、もしかして頑張ってくれたの?」

「せめて小せぇの選んで欲しかったけどな。何であんなデケェのでチャレンジしようと思ったよ」

「ごめん大きさとか全然気にしてなかった」


呆れた顔されたけど、じゃれるように抱き付いて来る銀さんはさっきまでと違い楽しそうに笑ってるから小さいミカン剥いて食べさせてたら新八くんにミカン全部没収されてしまった。




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