トリップ続編 | ナノ
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頭が痛い、完全に二日酔いだ。
目が覚めたら布団の中だし起きても名前は既に出勤後、起こしてくれたらしいが全く気付かず爆睡し、見送りも出来無ェ俺を心配しながら仕事に行ったと聞かされた時のこの気持ちは、誰にも分かりゃしねぇよ。


「あー、味噌汁がうめぇ」

「何で名前はこんな酔っぱらいの世話させられて、朝ごはんまで作って仕事に行かなきゃならないアルか。可哀想ヨ。」

「オメーもその朝ごはん食ったんだろーが。」

「私はちゃんとお見送りしたネ」

「……あいつ今日何時に帰って来んの?」

「何も言ってなかったので普通じゃないですか? 」


店行こうかな、けど行ったらあいつ自分の金使って団子やら何やら出してくれんだよ、俺は奢らせに行くのか? それはそれでおかしい。
一番は自分の金で会いに行く事だが「社員割引してくれるから大丈夫」と言いながら断られるし終いには家賃の為に貯金箱に入れろと言われる。半分払ってくれてるの知ってる手前頷くしか出来ねぇが、お前が入れろと言った時しか入れてねェから精々お高いアイスが買える程度しか貯まって無いだろうな、何かごめんな。

まぁ、多分その辺は端から期待なんざされちゃいねェだろ、自分の稼いだ金で自分のモンやら神楽達のオヤツやら買ってるし元々自立してたせいか器用に節約もしてる、人柄的になのか ちゃっかりしてんだか物を貰って帰って来る事も多いし。

けど、なんか旨ぇモンでも食わせてやりてぇな。


「つかあいつの好きなモンって何だ。何でも旨そうに食うからいまいちコレっつーのが分かんねーな。」

「銀さんのグラタンじゃないですか?」


…………そうなの? そりゃ旨そうに食ってくれるしすげェ喜んでるのも知ってる。
なに俺グラタン作りゃ良いの? けどそれ俺の感謝の気持ちとか伝わんのかな、寧ろ謝罪の時に作った時の方が多いだろ。

にしてもグラタンって、


「安上がりな女だな全く。」

「名前の良い所ネ、その辺の女みたいに何でも欲しがらないアル」

「自分の持ってる物を大事にしようとしますからね、毎日ご飯作って大変じゃないですかって聞いたら皆と食べるの楽しいから苦にならないんですって」

「高いモノが良い物なんて限らないネ」

「……ホントだな。」


無性に会いたくなってきた、やっぱ今日行こう。











「行って来ますね!」

「うん、気を付けて行って来てね。少し遠いからこれおやつに食べて」

「わぁ! ありがとうございますっ!」


おやつ付きの配達なんて贅沢だよね、自販機でお茶買っとこうかな。


「名前?」

「え、銀さんっ! ビックリした、具合大丈夫なの!?」


自販機目指して歩いてたら後ろから聞こえた声に驚いて振り返るとやっぱり銀さんだった。今朝全然起きなかったから多分二日酔いなんだとは思ったけど心配してたんだよね、普通に歩いてる所を見ると大丈夫なのかな。


「悪ィな、今朝見送り出来なくて。」

「それは大丈夫だよ、具合はどう?」

「まぁ午前中はアレだったけど、流石に抜けたわ。」

「そっか、なら良かった。どのくらい飲んだのか知りたいから帰ったら教えてね?」

「どのくらい? 」

「ふふっ」

「いや何だ、ふふって。つか仕事は? 配達行くの?」

「うん、終わったら帰るね」

「じゃあ俺も行くわ、する事ねーし。」

「えっ良いの!?」


1人で行っても苦では無いけど一緒なら楽しいが付いてくるから一気に気分が上がる、帰りにお饅頭一緒に食べよ、お茶2つ買っとこうかな。


「あ、お茶より甘いやつの方が良い?」

「……うん、いやお茶で良い。つかさ、電話してくれりゃ良いじゃん、配達あるって言ってくれれば俺いつでも来るし。」

「え? 急にどうしたの?」

「だってすげェ喜ぶから。」

「……別に寂しいとかじゃないもん」

「もん」

「やっぱり1人で行く。」

「じょーだん。ほら荷物寄越しな、持ってやんよ。」


意地悪だ、昨日あんなに可愛かったのに。でも一緒に来てくれるなら丁度良いや、今聞こう。何をどのくらい飲めば昨日みたいな酔い方になるのか是非教えて欲しい。


「場所は?」

「んっと、んー、先ずは、」

「ちょっと待て何だその地図は!? 」

「これね、買ってくれたの。」

「いやそうじゃねぇよ!書き込み具合半端ねぇだろ!? どんだけ大事なポイント押さえてんの!?」

「え、だって一回行った所チェックしといた方が次行きやすいかなって。」

「……けど、お前、これ、右にあるって……何が? 自分が何処に居てそれが右にあるのか後から見てちゃんと分かんのか?」

「うん。これはね、黄色い綺麗なお花が咲いてた所を右に曲がったら右にあるの。ほらこれお花の絵描いた、花弁大きくて凄く綺麗だったんだよ!」

「……花って、……嘘だろ、」

「嘘じゃないよ、本当に綺麗なお花咲いてたの」

「じゃなくて、お前はその花が年中咲いてるとでも思ってんのか」

「いやそんな事無いよ、お花だからね。」

「……」

「なに?」


嫌なんだけどそんな絶望したような顔して見られるの。別にそのお花を目指して向かう訳じゃないもん、書いておけば、この辺にお花咲いてたから右だなって思えるじゃん。


「また馬鹿にしてるんでしょ、言っとくけど私行き時間掛からないからね。ちゃんとすんなり行けるから。」

「そりゃーなぁ、こんっな事細かな手書き地図まで貼ってあんじゃん。これ書いて貰ったやつ取っといてんだろ? 帰り逆に進めば良いだけなのに何で迷う?」

「迷って無いし。」

「ふーん、まぁ良いや。取り敢えず行こうか、先ずはどっちだって?」

「角のお花屋さんを右」

「お花屋さんどっち?」

「右」

「どっちだって?」

「左」

「……」

「左。」


1人だったらちゃんと地図見てたもん、でも銀さんの方見てたから間違って言っちゃっただけ。お花屋さんとか滅多に行かないから覚えてないよ、皆もきっとそうだよ。だからそんな目を細めて見ないで欲しい。




───────




「昨日はどのくらい飲んだの?」


街中から離れ、後は道なりを真っ直ぐ進むだけだからもう地図を見なくても大丈夫。私が地図を見てても横から口出しもしないで黙ってついて来てくれた銀さん、最初は馬鹿にして来たけど見守ってくれるらしい。


「んー、どんくれェだろ。んなガバカバ飲んでねーけどな。」


……それか。私が注ぐのがいけないんだ、だから程好い時間が無いまま寝ちゃうのか。銀さんが飲みたいペースで飲んで行けば昨日の酔い方になるの?


「わりーな、誰運んでくれた?」

「自分で歩いてくれたよ」

「え? マジで? 覚えてねぇな、俺自分で帰ったのか。」


時間はかかったけどね、階段に座り込んみ、ふにゃふにゃした顔して腕を広げて来るから、落ちやしないかと心配しながら抱き付いてを繰り返して玄関についたから。

シャワーなんて入らせてくれないし、せめて歯を磨かせてと布団に置き去りにしようとしたら眉を下げて悲しそうな顔して見上げてくるから連れて行った。ついでに銀さんの歯も磨けたから良かったけど、大きい子供みたいに膝に転がって歯磨きされてた記憶も無いんだろうな。

そして多分着替えた記憶も無いんでしょ? 私が銀さんの服脱がせて着せてあげたんだけど、私を脱がせたのは銀さんだよ。ボタンを外せず頭もフラフラしてたから手伝いはしたけど脱がせて抱きついてきた。因みにそのまま銀さん寝ちゃって動けなくなったから私は寝間着を着れなかったんだよね、覚えてないだろうけど。


「私注ぐのまだ早いのかな」

「んー、や、注ぐのっつーか、飲むペース早ェじゃん。」

「私が飲むペース?」

「そう、隣でんな飲まれたらやっぱほら、ちょっとはムキになっちまうモンなんだよ男ってやつァな。」


私に合わせて自分のペースで飲めてないんだ。
なら私が銀さんのペースで飲めば良いのね、分かった。


「じゃあ、次はゆっくり飲むから二人で飲もう?」

「おー、なんだ珍しいな二人でって家で飲みてぇの?」

「うん」

「……俺昨日なんかした? 酔って良い思い出なんざ無んだけど、ただ俺と飲みてぇだけ?」

「ふふ、」

「いやだから何なのそれ!? 絶対ェ何かやらかしたろ怖いんだけど俺なにしたの!? つか、何か喋った? そうだ、アイツ俺に何か喋らせようとしてたろ」

「それは私知らないよ、ただお酒のつまみが欲しかっただけだって。」

「悪趣味な奴だな。けど何かした事には否定しねェつー事は、やっぱやらかしてんだろ俺。」

「ちょっとも覚えてないの?」

「んー、…………うん、ダメだ思い出せねぇ。」

「それが良い、ちゃんとゆっくり飲むからそんな感じで飲んで?」

「いや何言ってんだお前と飲んで潰れなかった時なんざほほ無ェだろうが。」

「違う違う、潰れるんじゃなくて酔って欲しいの。私が飲むの早いから潰れちゃうんでしょ? 次はゆっくり飲むから大丈夫。」

「何が!? おい待て待てどうゆう意味だ、何が大丈夫? え、俺マジで何した、しかも何、お前が好む酔い方を俺はしてたっつー事なの?」

「うん、好き」

「え、どんな? それどんな酔い方? すっげぇ気になんだけど俺何したよ」

「あっ!あそこだ! ほらついたー、ね? ちゃんとついたでしょ?」

「そうね、偉い偉い。で? 俺何をしたの?」

「ちょっと待っててね」



・・・




俺の手から荷物を受け取り走って行ったあいつはとても元気だし機嫌も良い、対して俺は心拍が乱れてるんだが、マジで何をした。けどあいつが好む何かなら良かった、前みてぇにやらかしたワケでは無いらしい、でも何かはしたんだな。


「お待たせー!お菓子貰っちゃった。あっちに公園あるんだって、ちょっと休憩して帰ろ?」

「おー」


そこでしっかり聞かせて貰おうか。




「おじさんに貰ったお饅頭食べよう? お菓子は持って帰って皆で食べようね。はい。」

「サンキュー、つかさっきの話。俺何したの?」

「えー、嫌だよ教えない」

「何で!? 」

「えー、だってぇ、ふふっ」


だから何なのその笑いは!? 何か楽しそうだけど何思い出してんの!?
悔しいが全く覚えてねぇ、思い出せる気もしねぇわ。


「気になる、何したよ。」

「お饅頭美味しいね?」

「いやダメだって、気になって夜寝れなくなんじゃん」

「大丈夫、目を瞑ってればその内寝れるよ。」


何も教えてくれる気が無ェなコイツ、仕方ねぇこうなったら切り札使うしかねぇか。


「何か食いてーモンある? たまには外食でもするか」

「何で? お金かかるじゃん」

「たまには家事休んで羽伸ばしてーだろ、別にお前の金使わせたりしねぇからへーきだって。何食いてぇ?」

「私大変だと思った事無いよ? 」

「俺らが休ませてぇなってだけ。ほら何食いてーの?」

「外食かぁ、特にコレと言って食べたい物無いから皆が食べたい物で良いよ」

「外食じゃ無ぇならあんの?」

「えっ、……え、…………また、銀さんのグラタン食べたいなって。」


何で照れたの? 今の照れる所あったか?
これで言って貰えなかったら悲しいとは思ったけどそんなモジモジしながら言われるとは思わなかった。つかそんな食いてぇなら言えよ、んなモンいつでも作ってやるっての。


「……んじゃァ明日グラタンにすっか」

「え!? 作ってくれるの!?」

「食いてーんだろ?」

「食べたいっ!」


おーおー満面の笑みじゃん、グラタン1つでそこまで喜ぶヤツなんざお前くれェじゃねぇか。


「楽しみー、私明日も仕事だし今日買い物して帰ろっ!」

「そうだな、そう言やお前結構飲んでたのに朝具合悪ィとか無かったの?」

「無いよ? 銀さんは? 寝てる時暖かかった?」

「は? ……いや、分かんね、けど、……え、どうゆう意味?」

「ふふっ」


切り札が不発に終わった。いやすげェ喜んでくれたからそれは大満足ではあるけどよ、いつもグラタンでやたら機嫌良くなるから口滑んねぇかなと思ったのに、あっちの方が一枚上手だったわ。

どうゆう意味なんだ、俺1人で寝たの? いつもの温もり無ェけど寝てたらから?


「……思い出せねぇ、なに、俺1人で寝てた?」

「ううん、私と寝てたよ、服は着せて貰えなかったけどね。」

「……なに? 」

「銀さんは私が着せたからちゃんと着てたでしょ?」

「え、……え? お前脱がされたの? 俺に?」

「着替えさせてくれようとしたんだと思うけどね? でも着る前に抱き付いて来てそのまま寝ちゃったから着れなかったの。」

「へ、へぇ、」


何てこった、何故覚えてねんだ俺は勿体ねぇな。
つまり下着のまま俺と寝てくれたんだろ? さぞ良い夢見ただろうな、それも覚えちゃいねぇけどよ。


「あと歯磨きもしてって言うからしてあげたよ」

「はっ、歯磨きィィ!? いやいや俺何してんの!? どんなプレイしてんだよ!?」

「そろそろ行こっか、歩こ?」

「つか、え、お前の好きな酔い方ってそれなの? んなモン日頃から出来んじゃん今日脱いで寝れば?」

「はは、変態め。私の好きな所は教えてあげないよ、知りたかったら自分で思い出せば?」


ベーっと舌を出してベンチに座る俺を置き去りに歩き始めた後ろ姿も楽しそうだな。今聞いた事だけで頭を抱えたくなるんだが、他に一体何したってんだよ。肝心のあいつが好む酔い方とやらは結局教えてくれねぇまま「早くー」と笑顔で片手を伸ばし俺を呼ぶ声に諦める事にする。

思ったより早く終わったな、正直もっと迷うのかと思ったらホントにすんなりついたしな。








が、その考えは甘かったと直ぐに気付かされた。



「別に違うから、喋ったらもう銀さんと配達行かないからね」


何も言ってねぇのに発言権を奪われたが、俺は端から口出す気なんざ無ェよ。そもそもお前がおかしいと気付く以前から既に知らねぇ所歩いてたんだからな。何処から間違ったか聞きてぇか? 公園出て直ぐだよバカタレが。

なのに何故足を止めない? 気付いてんなら止まれよ、止まって地図を開け。どうして知らない道を迷い無く突き進むんだお前は、バカなのか。


「あっ、こんにちはっ!」

「おぉ、名前ちゃん配達かい?」

「そうです、これから買い物して帰るんです」

「なら人参持って行かないかい? 昨日沢山採れたんだよ。」

「えっ良いんですか? 欲しいです!」


急な方向転換で手が引かれる、大人しく付いて行くが人参を貰った後はさっきまでの方向とはまた別の方へ向かい出した。
だけどこっちはあってる、偶然じゃねぇな。どう考えても顔馴染みのあの爺さんと会ったらこっち行きゃ帰れるって覚えたろ? お前会わなかったらどうすんだ、どんだけ歩き回れば気が済むんだよ。


「……、先帰っても良いよ」

「うっせェよ、手ェ離したらグラタン作ってやんねーかんな」

「……だめ。」


こっからは多分分かるんだろう、一切振り向きもせず発言権まで奪われたのに解消されたらしいからな。しかも急に弱気になり始めた。何が先に帰ってもだ思ってもいねぇ癖に、けど流石に手を離す程 意地っ張りでは無ェか、何か落ち込んでっけど。


「毎回さっきの爺さんと会うのか?」

「んーん、たまにね。」

「……会わねぇ時どうすんの」

「どうもしないよ」

「……」


こんッの意地っ張りがァ! 何なんだ、ねぇ何なのこの子!? やっぱり意地っ張りだよね!?
どうもしない? なら更にぐるぐる歩き続けんのかお前は、言葉を無くした俺にチラリと目線だけで見上げプイッと背ける頭を鷲掴んでやりてぇわ。落ち込み一瞬かよテメーふざけんな。

何よりもだ、俺に聞きやしねんだよ、隣に居んのに何も聞かず歩き続ける。聞きゃ良いだろ、どっちだっけって一言聞きゃ手ェ引いて歩いてやんのにコイツはホントに可愛くねぇったら全く。


「迷ったなら素直にそう言や良いだろうが。」

「迷ってませんけど。てか喋ったら銀さんともう配達行かないって言ったよね。」


ハァァァァ? なんッなのこの子、腹立つんですけど。お前、さっきシュンとしながら先帰ってもとか抜かしてなかったか? もういっそ そのまま落ち込んで反省でもしてろよ。


「あっそ、なら俺先帰るわ。すっげェ歩いて疲れたし。」

「うん、買い物は私がして帰るから。」

「手ェ離せよ」

「何で? 握ってるだけなんだから自分で振り払えるでしょ?」

「……」


何コイツ、何で今日こんな生意気なの。
足を止めれば "どうぞ?" と言わんばかりの顔して見上げ来やがる。俺が振り払えねぇとでも思ってんのか? 払えねぇよふざけんな離せるワケが無ェ。
だって握ってんじゃん、お前が手ェ開いてんならまだしもしっかり握ってんじゃねぇか、それをどうやって振り払えつーんだ。意地っ張りな上に狡い事までして来やがる、可愛くねぇわホント。


「はぁ。」

「ふふっ」

「なに笑ってんだお前、今日は随分生意気なのな。」

「嫌い?」

「……」

「私は銀さんのそーゆう所大好き。ほら、結局はこうして離さないで繋いだままなの、……はは、……ごめんね、足疲れたよね。」

「……んなヤワじゃねーつの、俺の体力ナメんな。」

「……うん、ありがと。」


見上げて少し申し訳無さそうに笑って来る顔に文句なんざ消し飛び、ぎゅっと指に力が入って握られる手には反射的に握り返しちまうんだ。



可愛くねぇ所まで可愛く見えちまう。
俺の手を引き当然のように道を間違えようが、それに気付いて一瞬首を傾げた癖に何故かそのまま進むバカな所も、すれ違う犬に呑気に手を振ってる姿も、グラタン楽しみだと繋がる手を振り回して機嫌良さそうな顔してんのも。何もかも全部。


もう、どうしようもねんだよ。






惚れた弱味ってヤツか



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