▼ 望まぬ勝利
60話で話題に出た真選組の3人とご飯に行くお話。プール行った後くらいの時期です。
本編最終話読んでからがオススメ。
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「こんばんは、お疲れ様です!この度はお誘いありがとうございますっ!」
「おぉ名前ちゃん今日大人っぽいなぁ!似合ってる!」
「ふふ、ありがとうございます。近藤さんも男前ですよ、怪我も無いし。」
「今日はボディ狙いだったからな!」
あ、身体には怪我あるのね。
「いつもと化粧変えてんの? 顔ちげぇな。」
「土方さんそうゆうの気付かない人かと思った、意外と見てくれてるんですね?」
「お前ちょいちょい失礼だよな。」
「褒めてるんですよ。不恰好な女連れてると思われら大変なので、少々気合いを入れて来ました。」
「んな事気にすんじゃねぇよ、見た目上品にしたって直ぐ脚出んのは変わらねぇだろ。」
「いや出しませんからね? でも上品と言うフレーズが嬉しいので、まぁ良いです。」
「なに目線だそれ。」
「土方さんに女心求めんのは無駄でさァ。行きやしょう名前さん。」
「イケメンにエスコートされる日が来るなんて。」
出された腕に手を添えたら笑って歩き出す沖田くん、と言うかこの面子贅沢過ぎない? 銀さんは面子が面倒だから行かないと言って来なかったけど、面倒処か凄い綺麗所の集まりだよ。私今ハーレムじゃない?
案内されたお店はとても高そうな敷居で、気合い入れて来て良かったと心底思った。
本当は着物にしようと思ってたけど土方さんにやめた方が良いと言われ、理由を聞いても着慣れない服だと人抱えるの無理だろ、と意味の分からない返答だったから理解するのを諦めた。
「美味っしいですね!」
「じゃんじゃん食べてな!」
「おい、飲ませ方に気を付けろよ。」
「分かってますって、空になったら注ぐんですよね? 肝に命じてます。」
「つーかアンタ別に酌しなくて良いんですぜ。嬢じゃねぇんだから。」
「名前ちゃんがキャバ嬢かぁ! きっと人気者になると思うぞ! でも俺はお妙さん一筋だからなぁ、よし、トシ貢いでこい!」
「何で俺が嬢に貢がにゃならねんだ。」
「土方さんは既に名前さんに貢いでやすよね。」
「そうなのか!? それは知らなかった、万事屋も名前ちゃん狙いなんだろ? 俺はトシを応援するぞ、どうだろう名前ちゃん! トシ男前だそ!」
「あらやだ近藤さん、まだお酒残ってますよ? お酌させて下さいなっ。」
「名前ちゃんに酌してもらったら格別酒が旨いな!」
「本当ですかぁ? お妙ちゃんの方が美味しーとか思ってるんじゃないです?」
「いやいや名前ちゃんも充分魅力的だぞ! ほらどんどん酒が進む!」
「わぁ凄い、もう飲んでくれたんです? 嬉しい! じゃあはい、次どーぞ。」
「飲み屋でバイトしてるだけありやすね、飲ませ方が上手い」
「……マジでキャバ嬢なれんじゃねぇのか。」
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「よし、っと。」
毛布完備してあるなんて親切なお店だな、借りてきた二枚の毛布を近藤さんと沖田くんに掛ける。
近藤さんはまぁ置いといて、沖田くんは一定量飲むと眠くなるんだろう、途中からどんどん眠そうになってきて遂にテーブルに突っ伏した。
「悪いな」
「いえいえ、お二人どうしましょう? 」
「放っておけ、いつもの事だ。」
「いつも土方さん一人で介抱するんですか?」
「面倒な時は山崎呼ぶ」
「あぁ、なるほど。」
「まだ飲み足りねぇんだろ? 気にせず飲めよ。」
「んー、……じゃ、遠慮なく。」
ここお酒も料理も美味しい。しかも個室ってVIP席なの? 流石局長、私じゃ絶対来れない場所だよ。
「はー、美味し、お肉凄く柔らかいですよね。」
「お前は本当に旨そうに食うよな。」
「だって美味しいですもん。マヨかけ過ぎて他の味分からなくなりました?」
「マヨネーズにも合う合わないがあんだよ。」
「あっ、そうでしたか、掛ければ何でも美味しく感じるのかと思った。てか何本持ち歩いてんですか?そこに空一本ありますけど、それどっから出したんです?」
「店にストック置いてる」
「わぁお、マヨと煙草無いと土方さん生きて行けないのでは? もし全区域禁煙になったらどうします?」
「違う星に探しに行ったよ」
「行った? 過去形? え、行ったの?」
遠い目をしながら煙草の煙を吐く土方さんは、目的の為なら何だって出来るんだろうな、面倒だから禁煙にはならないんだ。
「あれからどうなんだよ、アイツと。」
「特に何も無いですよ? 落ち着いてくれてます。」
「言ったのか?」
「……何をですか」
「お前がウダウダやってる理由だよ。」
「そんなの、最初から知ってますもん。私はいずれ消える人間なんです。」
「アイツは俺とは違ぇだろうよ。」
「…………知らない。そんなの知らないもん。」
「どうせ手離さねぇとか言われてんじゃねぇの?」
「もう、何なんですか、何でそんなグイグイ聞いてくるんですか、恋バナしたいんですか? だったら土方さんのタイプでも教えて下さいよ。」
「どんなに口で言おうが実際離すのなんて簡単だもんな、ただ握ってる手を開けば良いだけだ。」
…………その通りだ。与えられる温もりに甘えてるだけの私は、それが無くなればもう終わり。でも例え私が掴んだって、そんなの簡単に振り払える。
「けどな、開かせねぇ方法もあんだろ、それ以上の力で握れば良い。まァお前の場合、開かせようとしたって無駄だろうけどな。」
「……何それ。凄い無理矢理じゃないですか、……簡単、…では無いにしろ、開きますよ。目的の為なら開く、そしてもう握る事は無いです。」
「いや、開かねぇな。」
「どうしてそんな事言い切れるんです? 人の考えなんて所詮想像でしかない、本人じゃないと本心は分からないんですよ。」
「くくっ、分かってんじゃねぇか。お前がウダウダ考えてるそれも勝手に作り出した想像だろ。本心はヤツしか知り得ねぇ。けど何も見ようとしてねぇお前よりまだ近ぇだろうよ。手離せるような目ェしてお前の事見てねぇよ。」
「……だけど……、ちょっとした事でも傍に置こうと、しない、……私が自分のせいで怪我したり危ない目に合わせるのが、怖いんだと思う、……だから、もしその時が来たら…………、」
「だから大人しく留守番すんのか」
「関わらせたく無いみたいなんで、それであっちが安心出来るなら良いとも思ってますけどね。大半は私が怖いから。離れて行くルートをわざわざ自分で選ぶ必要も無いかなと。」
「アイツに対しては随分臆病なんだな。」
「臆病にもなりますって、あんなべったべたに触って来て、甘やかして来て、離れられなくしてから突き放すんですよ。こわっ。こわくないです? あっ、これがドSなのか。」
「突き放すのはお前が勝手に想像してるだけだろ。」
「でも事実ですもん。その時はいつか来ます。」
「頑固なヤツだな。ならどうすんだよ、その時が来たら。」
「取り敢えず色んなパターンを想定してます。一番可能性が高いのは冷たく突き放すパターンです、自分の事を嫌いにさせて思い出して悲しんだりさせないように。だから私は絶対に泣かない、嫌いになんてなってやらないし、一瞬でも傷付いた顔なんて見せてやるもんか。どうせその顔いつまで忘れないんですよあの人、記憶力良いから。」
「……お前は、筋金入りのアホだな。」
「喧嘩売ってるんですか。」
「良くもまァそんな後ろ向きな考えでそこまで拗らせられんな。」
「はい? 甘く見ないで頂きたい、現在パターン5まで考察、脳内シミュレーションを終えた所です。台詞、表情から声のトーンまで抜かり無く。」
「アホ過ぎで返す言葉も無ぇよ。」
「酷い。」
そんな事言ったってちゃんと脳内シミュレーションしておかないと、いざって時に出来ないもの。
「それ全部言やいいだろ。」
「いや馬鹿ですか、否定して来るに決まってます。その時が来るまでずっと腹の中に隠してるんですよ。本人自身気付いてない、その時が来て初めて、やっぱり傍に置くべきじゃないって思うんですよ」
「お前大丈夫か? 何でそんな病んでんの? 自分の中で想定し過ぎだろ。」
「何言ってるんですか、土方さんなら気持ち分かるんじゃないですか? 散々甘やかしてコロっと態度変えて突き放す気持ち。」
「……根に持ってんな」
「あーもー、土方さんなら遠慮なく言えるのに。」
「お前ナメてんの?」
「怖くて仕方無いんですもん、どんなに脳内でシミュレーションしようと、その時が来るのが怖くて仕方無い。たけど、その前に消える方が早いかも分からない。せめて例えどんな終わりが来ても悔いが残らないように、今ある温もりを何とか記憶に残し続けたい。」
「……」
「ふふ、暗っ。折角のお酒が不味くなりますね、さぁ、仕切り直して飲みましょ!」
「俺が勝ったら酒奢ってやるよ。お前の脳内シミュレーションとやらは無駄に終わる。」
「何で勝った方が奢るんですか?」
「勝った祝い酒。」
「突き放されたら私の勝ちですか? そんな嬉しくない勝利ってあります?」
「お前の頭にはそれしか無ぇんだろ。」
「そうですけど。じゃ、私が勝ったら沖田くんのお仕事お供します。」
「お前が言えば働くもんな。つか何で総悟の傍には普通に居れんの?」
「だって沖田くん突き放したりしない。」
「随分信頼してんな。」
「そりゃもう、私の一番の理解者ですからね。」
直ぐ隣で突っ伏してる栗色の頭に手を乗せれば、サラッサラの髪の毛が指から滑り落ちる。
「一番? アイツじゃ無ぇのか。」
「銀さんもそうですけど、でもそれはずっと近くで見ててくれてるから、私の気持ちを考えて寄り添ってくれる。私がウダウダしても道を照らしてくれる。理解しようと傍に居てくれるんです。沖田くんにはエスパーなのって思うくらい、私の心の中に隠してる部分まで気付かれちゃうんですよ。」
「何だそれ、惚気かよ。」
「それはどっちに?」
「両方だろ、ドSホイホイ。」
「もうホイホイでも良い気がしてきたー。」
「アイツにもそれくぇ緩く考えりゃ良いものを」
「ムリムリ、だって沖田くん私を傍に居させてくれる為に特訓してくれてるんですよ? それでも足手まといにしかなら無いのに何度だって傍に来てくれる。そんな事簡単に出来ます? 手離す人間を特訓してまで傍に置きたいなんて普通思わないですよね?」
「思わねぇな、ましてや総悟だぞ、あり得ねぇ。」
「なのにそれをしてくれてるんです。銀さんとはまた違う、特別な人。前世双子か何かだったのかな、一卵性双生児。」
「……否定できねぇな。」
「ふふっ、」
「お前帰りどうすんの? 迎え来んのか? 」
「いえ、時間分からないから断りました、歩くと怒られそうなんでタクシーで帰ります。」
「ならそっち回ってやるよ、こっちもタクシー拾うし。」
「ありがとうございます、ご飯のお金やっぱり私も払いますね、途中で近藤さん寝ちゃったし。」
「良いっつの。つか潰したのお前だろ。」
「面倒な絡み酔いしてたので」
「金払って来るから、総悟タクシーに乗せといてくれるか」
「あ、はーい、ありがとうございます。」
起きるかな? いや起きないな。揺すっても全然起きない。
「沖田くん爆睡なの? おんぶする?」
「……ん、」
凄い抱き付いてくる、でも正面から抱っこは無理だよ私は。
「おんぶにしよう、」
「……あるく」
「歩く? 歩けるの?」
「へい」
「よし、じゃ肩貸すから頑張ろ。」
「へい」
「んしょ、……っ、ちょっ……本当に自分で立ててる?だんだん傾いてない?」
「へい」
「待って待って、寝言じゃないよね?」
「へい」
「うっ、最初からおんぶすれば良かった……っ、おき……え、」
急に支えていた重みが一気に消えた。
「……、何で、」
「迎えに来るっつったろ」
「え、だって、時間分からないから、」
「その辺で潰すくれぇ出来るわ。」
そう言って沖田くんをタクシーに運ぶ銀さんの後ろ姿を呆然と見つめていたら、会計を終えて近藤さんを背負った土方さんが来た。
「お前は甘いんだよ。じゃーな、俺が奢る時は何とかヤツ撒いて来いよ。」
「……勝つ気満々ですか、……っあ!ご馳走様でした!後日近藤さんにお礼伺いますのでお伝え下さい!」
「おー、」
タクシーが出発するまで見送って隣を見れば銀さんが居る、ちょっと眠そう。飲んでたのかな。
「沖田くん運んでくれてありがとう。……後、迎えに来てくれて、ありがとう。」
「楽しかった?」
「え? うん、楽しかったよ?」
「ふぅん。」
「……今度、飲みに行こうね、二人で。」
そっぽを向いてる銀さんにそう言ったらニヤニヤしながらこっちを向いてきた。
何処にニヤ付く要素あったんだろう。
俺と二人で行きてぇのって? 行きたいよ。そんなニヤ付かなくても行きたいって前にも言ったよね。
「何ですか、お顔ニヤニヤしてますけど。」
「気付いて無ェって所がまた。なァ?」
「何が、なぁ? なの。酔っ払ってるの?」
「んな飲んでねぇよ? んじゃ帰りますかー。ちゃーんと腕掴んどけよ?」
……言われて気付いた、何で私銀さんの腕掴んでるの? いつから? いつ掴んだ?
パッと離してそっと見上げるとニヤニヤしたお顔と目が合う。
原因はこれだったんだ、全然気付かなかった、まさか無意識? ……いや、酔ってるのかな、
「……ごめん、ちょっと酔ってるのかな」
「前に言ったろ。お前無意識に俺の腕触ってる時あるって、分かった?」
「っ、……よ、酔ってるんです。」
「ふぅん? ま、良いけど、んじゃはい。」
「……なに、」
「何じゃ無ぇだろ、手ぇ繋げっつってんの。あ、絡ませる方な。」
「……」
今日は良いやって、頭では思ってるのに言葉に出ないの何でなの。
絶対ニヤ付いてるの分かるから顔上げたくないし、私今顔ヤバイかもしれない、こっ恥ずかしい。
赤くなってたらどうしよう、普段お酒で赤くならないからそのせいには出来ない、どうしよう、どうしたら、
「恥ずかしい? 俺は腕組まれんの嬉しいけどね。俺に無意識で触んの嫌?」
「……嫌、じゃない。」
「なら良いじゃん。でも今は酒飲んでるし危ねぇから手な。」
私が繋ぎやすいようにか、下げてる手の近くまで下ろしてくれた。ちょっと動かすだけで重ねられる。ゆっくり指の間に差し込むように重ねると、ぎゅっと握られた手。
それ以上の力で握れば良い。
握られた力より力を込めて握り返す、銀さんが手を開いても私だけ握ってれば離れない。……でも、やっぱりそれも続かないよ、ずっと一人で握り続けるのは疲れる、やがて緩んで、そして離れる。
「っん!った、……痛い!握り過ぎ!!」
「何だ握って欲しいのかと思った。」
急に潰される勢いで握られた手に痛すぎて見上げたら、緩く笑いながらそう言って来る銀さん。
握って欲しいよ、今だけじゃなくて、ずっと握ってて欲しいよ。
負けじと力を込めたら更に力が加わって少し涙が出た。
何してんのって聞かれて手が離れないようにって答えたら、お互いちゃんと握っていれば別に力は入れなくても離れないんだって、そんなの知ってるけど片方が離そうとする場合を想定して言ってるんだよ。
「なら縛ればいんじゃね?」
「え?」
「手首縛んの」そう言って私の髪を結んでいたリボンをほどき、器用に繋がってる私の右手首と自分の左手首に八の字を描くように回して結ばれた。
「ほら、これで手ぇ離しても離れねぇ。」
何だこれ、どうゆう事?
2人とも手を離しても離れない? どっちかが握ってなくても繋がってるの?
「でもこれ、……離れる時どうするの?」
「だから離れらんねぇの。ざーんねん、捕まっちゃったな?」
「……ならこんなリボンじゃ駄目じゃん、ハサミで切れるよ。」
「ピアノ線でも買って来るか? 外そうもんなら手首落ちんぞ。」
「ふっ、あはは! 銀さん凄い、ふふっ、」
全部否定してくる。知らない筈なのに、全部否定して遮ってくる。
「ふふっ、ピアノ線かぁ、でもいざとなったら手首落としてでも離れそうだなぁ。」
「ホラーだな、つか何の話よ。」
「繋いだ手がずっと離れない方法?」
「ふーん。首にも巻いとく?」
「首! あははっ、それはもう逃げれないね、死んじゃう!」
「絶対ェ離れらんねぇぞ。」
「ふふ、良いね、じゃあ首に巻いて手綱引いとこうかな。」
「は? 自分の首には巻かねぇの?」
「だって引っ掛かったら痛そうじゃん」
「ふざけんな狡ィだろ。」
「銀さんならどうする? ピアノ線の首輪プレゼントされたら。」
「良いぜ? 付けてやるよ。ただし、その手綱離そうもんなら次はお前に付けるからな。俺は自分にもちゃんと付けてやるから安心しろ、首処か全身縛り付けて一瞬も目の前から居なくなんねぇように。」
「……いや、何処に安心要素が……、こわっ、え、こわい、ピアノ線で笑ってる私頭おかしいなって思ったけど、銀さんもっと凄い。今の冗談? 」
「さぁ、どうだろうな。」
笑いながら引かれた手は未だリボンで繋がったまま、手を握り、手首まで繋がっている。
ゆっくり繋いでる手を開いてみたら横目で見てきた銀さんの目が、ギラリと光った気がして慌てて握り直す。
いやいや離すのは私じゃない、銀さんだよ、……うん、そうだよ。
もしかしたら離されないんじゃ、と重なった目を見て思ったけど、それはまだ今がその時じゃ無いからだよね。
たけどピアノ線なんかより銀さんの目の方がよっぽど拘束力あるんじゃないの?
だってほら、私はもう離せない。
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