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▼ 怒ってるなら口で言って



「失礼します。コーヒーをお持ちしました。」

今日は1人で来れた。と言っても山崎さんが朝、食堂から副長室までの道を一緒に歩いて教えてくれたからだけど。

本当に親切な人。


「1人で来たのか。」

「はい、1人で来ました。」

「朝念入りに教え込まれた甲斐あったな。」


知られてた……


「今日も煙部屋に籠るんですか?」

「煙部屋ってなんだ。俺だって見廻りしてるわ」

「副長さんも見廻りあるんですね、なら良かった、沢山酸素吸って来て下さいね。」

「……嫌みがどんどん増してきたな。」

「土方さんが固くならなくて良いって言ったんじゃないですか、それに攻撃には防御が必要なので。」

「反撃してるけどな。」


そもそも土方さんが先に攻撃してくるから悪いと思う。

コーヒーを置き軽く会話を交わし立ち上がると、突然襖が開いて近藤さんが顔を出した。


「トシ―、名前ちゃん来てるか?」

「近藤さんお疲れ様です。私に何かご用ですか?」

「おぉ、名前ちゃん!お疲れ様!とっつぁんに言われてな、真選組のイメージアップの為に一緒に見廻りお願い出来ないかな?」

「私が見廻りするんですか?」

「そうそう。女中の仕事は今日休んで大丈夫だから、どうかな?」

「あ、それなら大丈夫です。上司の方からの指示なんですか?」

「そうなんだよねぇ、警察庁長官命令だから断れなくてなぁ。ごめんな。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

「あ、これ、とっつぁんから預かった制服、着替えて貰ってもいい?」

「はい、分かりました。」





渡された紙袋を持って空いてる部屋を借りたまでは良かったけれど、中に入ってたのは見覚えある制服では無かった。

一応着替えはしたけど、これ何?女性用?

上はリボン付いてたりするくらいだけど、下が短い。太腿半分位しか隠れない。短いスカートみたいだけど、中はパンツスタイルになってて捲れても大丈夫っぽい。でも短い。
しかもニーハイって……。膝上までのニーハイだから足は殆ど隠れてる。太腿10センチ位しか見えないけど、何なのこの格好。これで外出るの?


取り敢えず副長室に戻ると、2人とも私を見るなり一瞬固まった。


「えぇぇ!? 名前ちゃん!?」

「おい近藤さん!なんつーもん着せてんだよ!!」

「え!? いや俺じゃないよ!? とっつぁんから渡されたやつそのまま渡したからね!? 」


「土方さん、私どうすれば良いのでしょう……」

「こっちが聞きてぇよ。」

はぁ、と眉間に皺を寄せながらため息を吐いている土方さん


「しかしとっつぁんの命令だからな。君の安全は俺達が守るよ!!」

「近藤さん鼻の下伸びてんぞ」



やっぱり行くのか外。でもお偉いさんの命令なら仕方ない、これもお仕事と言い聞かせる事にしよう。






「アンタやっぱりコスプレ好きなんで?」

「違うからね。」


見廻りは沖田くんも行くみたいで私を見るなり呆れた顔された。


「居ねぇと思ったらまさかコスプレしてるとは。」

「だから違うってば。居ないって探してたの?」

「サボりついでに邪魔でもしようと思いやして。」

「何かとんでもないこと言ってる。」

何を言ってるんだこの子は。



「見廻りってこれであってるの? ぞろぞろ歩いてるだけだけど。」

「良いんでさァ。どっちかと言うとアンタのその格好をお披露目して歩いてるんで。」

「え?どうゆう意味?」

「真選組は世間からのイメージ悪いんでさァ。だからアンタ連れて歩いて少しでも物騒なイメージ変えようって魂胆」

「私が一緒に歩いてるだけでイメージ変わるの?」

「少なくともアンタから物騒な印象は受けねぇ。けど違う意味で物騒な視線浴びてらァ、絶対俺達から離れんじゃねぇですぜ。」

「うん」


真選組ってそんなにイメージ悪いんだ。皆優しいのにな。
少しでも役に立てるなら良いんだけど、歩いてるだけでそんな変わるかな




「名前?」

「え?あっ銀さん!」

名前を呼ばれて振り向くと銀さんが居た。


「お前なんつー格好してんだよ。つか何してるワケ?これ女中の仕事?」

「イメージアップになるかもしれないんだって。歩いてるだけなんだけどね。」

「歩いてるだけって、お前何やらされてるか分かってんの? んな格好で歩いて目ェ付けられたらどうすんだよ。」

「何に?」

「さっきからジロジロ見られてんの気付いてねぇの?」

「こんなにお巡りさんぞろぞろ歩いてたらそりゃ注目も浴びるよ。」

「ちげぇよバカが。オメーが見られてんだよ。ニーハイからむちっとはみ出てるその太腿。風に揺れて見えそうで見えない所に色々妄想膨らませて見られてんだよ。」

「何言ってるの?」

「行きやしょう名前さん。危ないですぜ。」

「うん」

「うんって! 俺じゃなくて周りに見られてるって言ってんだよ!」

「旦那の方がよっぽど危ねぇ目で見てるじゃねぇですかィ。」

「だから!!俺じゃなくて!!!!」

「見えそうで見えないって、実際見えないよスカートじゃないもん。」

「え!? スカートじゃねぇの!?」

「うん、中はズボンみたいになってる。ほら。」

「ばっ!! 何やってんだお前ェェェ!!!! 捲んな!! 」

「アンタ馬鹿ですかィ。痴女やってねぇで行きやすよ」

痴女!?

驚いてる私の手を引き沖田くんは歩き出した


「何で銀さんついてくるの?」

「別に。こっちに用あるだけ。つ―かいつまで繋いでんの?」

「え? あ、本当だ。沖田くん。」

「あぁ、恋人繋ぎがご所望で? 」

「いや、一言もそんな事言ってないよ」


指を絡めて握り直された。


「この格好で手繋いで歩いてたら寧ろ評判悪くなりそうだよ、サボってデートしてるみたいじゃん」

「ならこのままデートしやすか。制服デート。」

「制服デートって青春って感じの響きだね。でも私年齢的に痛い」

「大丈夫ですぜ。名前さん可愛い顔してるんでまだイケやすよ。」

「沖田くんたまに凄く甘い事言うよね。」

「ねぇ俺の存在忘れてない?何なのお前ら、目の前でイチャつくの止めてくんない? 」



そんなやり取りをしながら歩いていると、突然悲鳴が響き渡った


「何今の悲鳴」

「あ―、めんどくせぇけど行きやすか。」

「お巡りさんが堂々と面倒くさいとか言っちゃってる」

「おい待て、お前も行くのか」

「今は真選組だからね。」

銀さんが眉間に皺を寄せて見てきたけど、今は見廻りの仕事中だから行かないと。




「人質かな、刀持ってる」

「テロだそうだ。この間検挙した奴らの仲間らしい。」

遠くから様子を伺っていると土方さんが近付いてきた。


「やっぱりまだ仲間居たんですかィ。」

「らしいな。捕まった奴らの解放を要求してきてやがる。」


何だか真面目な話。私邪魔かな。
銀さんも私の隣に立ったまま何も言わない。


「副長、奴ら人質の交代を要求してきました。」

「あぁ? 誰と。」

「……それが、」

ちらっと私を見てくる隊員の方。
え、私?


「彼女を寄越せと、その代わり他の人質は全員解放すると言ってます。」

「アホか、のめる訳ねぇだろ」


「良いですよ私、代わってきます。」

「なっ、お前何言ってんだよ!出来るわけねぇだろ!」

「でも私、今真選組だし制服着てますもん。それに人質あんなに居たんじゃ対応難しくないですか?私1人ならまだ対処しやすいかも。」


だから行ってきますと、歩き出そうとすると沖田くんと繋いだままだった手に力が込められた。

「沖田くん、手離して。」

「アンタ何考えてるんで? 殺されるかもしれやせんぜ」

「でもこの制服を着てる以上私は真選組だよ。行かない訳には、」

「なら脱げよ。」


今までずっと黙っていた銀さんが私の言葉を遮るように口を開いた。


「それ着てるから行こうとしてんだろ。なら脱げ。」

「……脱げる訳無いでしょ。」

「お前が行く必要ねぇだろ。 行くっつーなら無理矢理脱がせてでも止める」

「銀さんが心配してくれてるのは分かるよ。でも行くよ私。私が行けばあの人達は解放される。犠牲になるつもりは無いし死ぬ気もない。」


じっと銀さんの目を見て言った。
逸らす事なく見続けると銀さんが目線を逸らし盛大にため息を吐いた


「……帰ったら説教だかんな。」

「え−やだ、こわい。」

「言ってろ」


「じゃ行ってきます。」

「絶対無茶はするんじゃねぇですぜ。」

「こっちで何とかする。それまで大人しくしてろよ。」






「人質代わります。」

「ようやく来たか、もっと寄れ。」

ゆっくり近付き刀を向けられていた人質と入れ替わるように腕を引かれて首元に刀を添えられた。
冷たい金属を喉に付けられている感覚。少しでも動けば簡単に斬られる。

周りに居た人質が全員居なくなって本当に解放されたんだと分かりほっとした。

後は皆が何とかしてくれるだろう。


「真選組に女が居たなんて知らなかったなァ。夜の相手でもしてんのか? 仲間解放された後は俺らの相手もお願いするか、ククっ。」



酷く耳障りな笑い方だと思った。
刀を突き付けながら空いてる手で太腿に触れてきてる。スカートの中を確かめるように這う手。でもそのお陰で首にあった刀が若干離れて隙間が出来た、しかも手元も甘くなってる。
ちらっと土方さんの方を見ると軽く頷いてくれたのが見えた。

刀を持っている手を固定し勢い良く振り向き様に膝蹴り、それに気付いて近付いてくる犯人の仲間達は一気に間合いを詰めた真選組の人達に取り押さえられていた。

目の前で倒れた人は蹴りが弱かったせいか直ぐに目を覚ましてしまったけど、即座に銀さんの足が隣から降ってきてまた動かなくなった。


「ありがとう銀さん。でも容赦ないね、頭めり込んだよ」

「たりめーだろ。お前何で手加減してんの? 交わされる可能性だってあんだぞ」

「そうだけど、余所見してる上に油断してるしで大丈夫かと思って。」

「そうやって油断すんなら相手と同じだろ。しかも好き勝手触らせやがって」

「別に触らせた訳じゃないよ。勝手に触ってきたんだもん。でもお陰で刀緩んで助かったけど。」

「帰ったらマジで説教だかんな。」

「え!? 今受けたよ説教!」

「こんなんで済むと思うなよ。危機感ってもんをたっぷり身体に教えてやらァ。」

「こわっ!やだこわいっ! 」

何すんの!? こわい!

「名前さん、大丈夫ですかィ?」

「大丈夫じゃない! 銀さんがヤバいよ、こわい!」

「そっちじゃなくて首でさァ。」

「あっ大丈夫!少し触れた程度だから!」

「血ィ出てるじゃないですかィ。」

「少しでしょ?大丈夫大丈夫!」

「……今日はこれから取り調べ始まるんで、そのまま帰って大丈夫ですぜィ」

「え!? いや大丈夫! 服置いてきちゃってるし私も戻るよ!」

「服なら後で山崎に届けさせやすよ。」

「いやっ、でも、」

「良かったじゃねぇか、なら一緒に帰ろうや。今ガキ共居ねぇから話しやすいわ。」

「え!? 尚更やだ! 何かこわい!私真選組にっ、ぎゃあ! ちょっと何すんの!? 降ろして!!」


真選組に連れてって貰おうとしたら銀さんが正面から両手で腰を掴んで持ち上げてきた。そのまま、まるで荷物みたいに肩に乗せられている。


「ちよっ、と! 私スカート何だけど!! 降ろしてよ!」

「中ズボンだから見えねぇんだろ?」

「そ、うだけど! でもほぼスカート!捲れるから!!」

「さっき自分で捲ってたろうが。」

「こんな格好で捲れるの嫌だよ!降ろしてってば!!」


全然降ろしてくれない銀さんに腹が立ち、何とか上半身を起こし銀さんの髪を掴んだ。


「いってぇな! 離せ!抜けんだろうが!!」

「なら降ろして!って何処触ってんの!? 」

足を押さえてる反対の手がスカートに入ってきて軽く触れてきた。


「ちょっと何なの!? 変態じゃないの!? 」

「オメ―が大人しくしねぇからだろ。つーか離せや!」

「銀さんが離して!!」

「うるっせェェェ!!!! お前らいい加減にしろ!!」

「銀さんのせいですから!! てか助けて下さいよ土方さん! この人ヤバいです!お尻触って来るんですけど!!」

「何でソイツに助け求めんだテメー!!」

「だって沖田くんずっと携帯弄ってて助けてくれる気無いんだもん!」

「ムービー撮ってるんでさァ。」

「ムービー!? 何で!? おかしいでしょ!! もう何なのこの人達!! 」



もう落とされても良いから暴れようと思った時、脇の下に手が添えられ銀さんの腕から身体が抜けた


「テッメェ、何しやがんだ。 返せ。」

「今のこいつは真選組だ、騒ぎ起こすんじゃねぇよ。」

「騒ぎだぁ?一般人に、んなもん着せて喜んでるテメーらの方が騒がしいわ。」

「長官命令なんだよ。好きで連れ回してるワケじゃねぇ。」


「……あの、すみません降ろして貰っても良いですか……。」


銀さんから引き離してくれた土方さんは下に降ろしてはくれず銀さん同様肩に乗せられた。何とか上半身は起こしたまま保ってだけど、そろそろ降りたい。


「あぁ、悪い。」

「いえ、ありがとうございました土方さん。」


「……帰んぞ。」

「も−分かったよ、帰る。 それじゃ私帰らせて頂きますね、また明日よろしくお願いします。」






「あいつら付き合ってんのか?」

「それはねぇと思いやすよ。特に名前さんはそっち系の感情欠落してそうでさァ。旦那の方は独占欲駄々漏れしてやすが、無意識ですかねィ? 面白ぇ。」

「あれはどう見てもクロだろ。軽く殺気漏れてたぞ。」






万事屋に着くまで銀さんは一言も喋らなかった。

ため息を吐きながらソファーに乱暴に座った銀さんを見つめる。


怒ってるの?私のせい?


居間の入り口に立ったままでいると銀さんが自分の隣を一回ポンと叩いた。

座れって事?無言がこわい。でも心配してくれてたのは分かってる。だから大人しく隣に座った。


「お前何で油断してんの?しかも、んな格好して外歩いて、人質身代わりになって、大人しくしてらんねぇのかよ。」

「そんな大げさな事じゃないよ。この格好は私もどうなのって思ったけど、長官命令だから仕方無いし、身代わりだって大丈夫だと思ったから代わったの。」

「…………あっそ。ならもう好きにすれば。俺も好きにさせて貰うわ。」


隣に座ってた銀さんがソファーから降り床に座った。どうしたんだろうと目線を下げると触って良いかと聞かれた。


「え?なに?」

「足、触られてたろ。」

「銀さんもさっき触ってたじゃない」

「あんなの指先でちょろっと触っただけだろ。アイツに触られてた所は触ってない。」


……良く分からない。

でも前もそうだった。胸触られた時も銀さんは忘れさせようとしてくれたんだと思う。


「…………軽くにしてね。」

「ん、手少し入れんぞ。」

そう言いながらスカートの隙間からゆっくり手を入れ、手の甲を使って触られた所を上書きするみたいに緩く撫でてきた。

べたべた触るではなく緩くふわふわした触れ方。

背もたれに頭を付けて天井を見ながら終わるのを待つ。ゆっくり瞼を閉じて数秒してから持ち上げる。何度目かの瞬きで瞼を上げると触られていた所がぬるっとした生暖かい感触に変わった。


「……え? な、にしてる……の?」

「消毒してる。」



顔を起こすと、さっきまで手の甲で触れていた所を今度は舐めている姿が目に入った。


待ってほんとに何してるの、傷も何も無い所を舐めて消毒?
しかも太腿だよ?



「ま、待って、いい、もう良いから。私、大丈夫だし、」


銀さんの肩に手を置き押しながら言うと、太腿に口を寄せたまま目だけで見上げてきて目線がぶつかった




こわい、何、これ。
怒ってる……とは違う気がする。
銀さんなのに銀さんじゃないみたいだ。



「首、怪我してんな。消毒しとくか?」

「っ、だ、大丈夫。」


消毒。
今銀さんが言った消毒が何を意味しているのか何となく分かった。だから大丈夫だと断った。のに、

銀さんは脚から顔を上げ、そのまま立ち上がり私を挟むようにソファーの背もたれに手を置いてきた。

さっきよりも近い距離。
いつもなら平気なのに何故か固まって動けないでいると、銀さんの顔がゆっくり近付いてきた。


「ま、待って、ほんとに大丈っ、んぐ……!」

「少し静かにしてろ」


片手で口を塞がれ背もたれに頭を押し付けられる。
軽く反った喉にさっき脚に感じたぬるっとした感触。

傷口を舌先でしつこくなぞられて、とっくに塞がって痛みも和らいでいた場所がズキズキ再び痛み出した。

無駄だと分かりつつも両手で肩を押してはいるけれど、やっぱりぴくりとも動かない。


「っ!、んんっ! 」


痛む傷口に早く終わってくれないかなと願っていると、さっきまで舐められてるだけだった筈が唇全体を押し付けるように喉に当てられ始めた。

小さいリップ音と唾液の音まで聞こえてきて耐えられなくなり片足を上げようとした瞬間、太腿に手を置かれた。

なんで、分かったの。

口は押さえられたまま、もう片方の手が下りて足を押さえられた。
しかもスカートの裾ギリギリ、ニーハイとの間の部分を押さえるように手を置いている。

動かせない。手の置かれてない方の足まで押さえられているような錯覚さえある。

逃げ道を全て封じられた気がした。
精神までも追い詰められたかのように満足に抵抗が出来ない。

自由な筈の両手もいつの間にか震えていて上手く力が入らない。それでも喉元にある顔を挟むように添えるとゆっくり顔が離れた。

全然力が入らなくて添えてるだけの状態。だから銀さんの意思で離れてくれた。


じっと目を覗き込むように見ていた銀さんは少し顔を近付けてきて、未だ口を塞いでいる自分の手の甲にギリギリ唇を寄せてくる



「次は、こんなんじゃ済まねぇからな。」




低く響いたその声は、まるで最終警告のような言葉と共に脳を支配しもう身体が一ミリも動かない。




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