▼ 最終的にはたどり着く……ハズ
「居なくなった……?」
1人別行動し万屋事に戻ると家から慌てて出てきた新八と神楽に出くわした
俺の顔を見るなり泣きそうになりながら走ってきて告げられた言葉が、名前が居なくなった、と。
詳しく事情を聞くと、帰る途中買い物袋をぶちまけた老人に手を貸していたら近くで引ったくりが発生し、いち早く気付いた神楽が走って追いかけてその後ろを新八が慌ててついて行ったらしい
そして犯人を捕まえたまでは良かったが、駆けつけた真選組に説明やらをして元の場所に戻ると名前も老人も居なかった、と。
もしかしたら家まで送りに行ったのかもと思い30分待ったが帰ってくることは無く、ならば万事屋に先帰ったのか確認しに来たのが今さっき
しかし名前は帰って来てはいかなった
ただ単に迷っているのか、もしくは誘拐、か。
「取り敢えず俺が探してくる。お前らは家に居ろ、途中で帰って来るかも分からねぇし。」
そう言い残し、俺は来た道を走って戻った
・
・
・
「何で誰も居ないの。」
人が1人も居ない
かれこれ30分くらいは誰にも会わない
はぁ、とため息を吐き橋の上で足を止めた
川がある、皆と一緒に歩いてる時は川なんて1回も見なかった
もしかしてかなり遠くに来てしまったのだろうか
帰る途中買い物袋を落としたおばあちゃんが居たので3人で拾うのを手伝っていたら、近くで引ったくりが起きたらしく神楽ちゃんが走って追い掛けて行った
その後ろを新八くんが追い掛けて行ったから私はおばあちゃんの方を手伝う事にした
またよろけて落としそうだったから代わりに持って送ることにしたんだけど、神楽ちゃん達が中々戻って来ないから近くだと言うおばあちゃんを1人で送って行った
また戻ってくれば大丈夫だと思って
でも戻る事は出来ず気付けば結構な時間を歩き、諦めて人に聞こうと思った時には誰にも会うことが無いまま30分くらい経過
右に曲がったのが間違いだったのかな……
ちゃんと戻れると思ったんだけどな
神楽ちゃん達と別れた場所には戻れそうもないと思った時点で万事屋に向かった。
着かなかったけど、
いつもなら多少遠回りになっても最終的には目的地に着くんだけど、全く土地勘無い場所だからか一向に着かない
方向音痴……では無いと思ってる
だって最終的には着くから
でもこれは、着く気配がない
諦めて人に聞こうと思ったけど誰も居ない
もう下駄で足痛いしで、遂に歩くのを止めてしまった
神楽ちゃん達心配してるよね
私突然消えちゃったから
探してくれてるかも知れない
……でも自分の世界に戻ったって思うかも
来る時突然だったから、帰る時も突然なのかもしれないし
そしたら私ずっとこのまま放浪するのかぁ
それはしんどいなぁ、と川を見ながら考えていると
「見投げでもする気ですかィ?」
久しぶりの人の声、しかも誰も居ない筈だった場所からいきなり声が聞こえて驚いて後ろを振り返ると
そこには栗色の髪をした少年が立っていた
着物じゃない人初めて見た
今日1日外を歩いて着物以外を着てる人は誰も居なかった
だけど、今目の前に居るこの人は、スーツ……ではないけど洋服に近い気がする
しかも腰にあるのって……刀?
昨日銀さんが言ってた、武器は持っちゃいけないって、だから刀持ってる人は攘夷志士っていう人達かお巡りさん
どっちだろう、どうしようかな……
「聞いてやす?」
無言で見ていると栗髪の人は再び声を掛けてきた
「えと、見投げじゃないです。川を見てただけです」
取り敢えず本当の事だし返事をしたけど、じっとこちらを見たまま目を逸らさない
何かを探るような視線に逃げたくなる
「こんな所で?」
……こんな所?
え、もしかしてここ来ちゃいけない所なの?
だから誰も居ないの!?
「取り敢えず事情聴取するんで、大人しく着いて来て貰いやす。良いですかィ?」
そこでようやくこの人がお巡りさんだと分かった。
事情聴取って何で
私何もしてないよね!?
ここで川見てるのがそんなに悪い事なの!?
ヤバいどうしようと思っていると、栗髪のお巡りさんが一歩こちらに近付いた
咄嗟に私も一歩後ろに足を引くとその人は止まり刀に手をかけた
ヤバいな死んだかも
痛いのは嫌だな、と思った瞬間、「名前!!!!」と私を呼ぶ声が聞こえた
・
・
・
名前とはぐれた場所で人に聞きまくって、老人を家まで送り届けたまでは分かった
って事は迷子の線が強いな
土地勘無いだろうし迷ったか
ったく、子供じゃねぇっつったの誰だよ
流れる汗を無視しひたすら走り続けると、真選組が市民を避難させている現場に遭遇した
何があったと適当な奴に聞くと、テロの予告が入ったから避難させているらしい
こんだけ走り回っても見付からないもんだから、もしかしたら自分の世界に戻ったか?とも考えたが
でも、違ったら
ただ迷ってるだけならあいつは今1人で居るんだ
そう思ったら封鎖してあるテープをくぐり、後ろからの制止の声を無視して走り出していた
少し走ると橋の上に人が立っているのが見えた
あれば間違いなく名前だ
まだこっちの世界に居た事にホッとしたが、対面に立っている奴に問題があった
あいつ、抜刀しかけてやがるっ!
状況は分からないが、名前に向かって刀が抜かれようとしている姿が目に入り思わず自分でも驚くくらいの大きさで名前を叫んでいた
・
・
・
大きな声で名前を呼ばれ銀さんだと直ぐに分かり顔を向けると、刀に手をかけたままの栗髪の人もゆっくり銀さんを見たのが分かった
銀さんは私の元まで走ってくると、栗髪の人との間に入り背中に庇うように立ってくれた
「一般人に刀向けようなんて、物騒過ぎなんじゃねーの?」
「ここは今一般人立ち入り禁止でさァ、中に居るのは狂ったテロリストだけ 」
2人の会話を聞いてここはやっぱり入っちゃ行けない所だったんだと分かった
しかも中に居るのはテロリストだけ!?
ここテロリスト居るの!?
ってことは私間違いなくテロリストだと思われたんだ……!
「あっあのすみません私、入っちゃ駄目なの知らなくて……!」
「知らない? 真選組が塞いでやすが?」
「え?普通に歩いてここに来たんですけど……」
「名前はいつからここに居たんだ?」
「橋に着いてから10分位?その前30分位は誰にも会わなかった」
銀さんの質問に答えると聞いていた栗髪の人が顔をしかめた
「市民の避難は20分位前からやってまさァ。あんた、その前から既にここに入ってたって事ですかィ。」
全員避難させたと思ってやしたが。そう言ってようやく刀から手を離してくれた
疑い、晴れたってことかな
「おいおいそっちの過失なんじゃねーの?避難させるべき筈のこいつに刀まで向けようとして、しかもテロ巻き込まれてたらどうしてくれるワケ?」
責めるように喋る銀さんを私は慌てて止めた
「良いよ銀さん!私がふらふら入っちゃったのが原因なんだから!」
私のせいだから! と銀さんの袖を引っ張って止めさせると眉間に皺を寄せながら振り返った
銀さん凄い汗かいてる
そんなに探してくれたんだ
「旦那の知り合いなんですかィ?」
「そーだよ、こいつも万事屋ファミリーだから。危なかったな、コイツに何かあったらお前ら潰す所だったわ。」
じゃあな、と銀さんは私の腕を掴み歩き出した
私は慌てて振り返り未だこちらを見ている栗髪の人にペコっと頭を下げて足を動かした
少し歩くとさっきの栗髪の人と同じ黒い服の人達が沢山居て、立ち入り禁止のテープまで貼られていた
とんでもない所に入り込んでしまったみたいで本当に申し訳ない
腕を掴みずんずん歩いていた銀さんは人混みから抜けると速度を緩めてくれて、腕を離してこちらを向いた
「ケガとか大丈夫か?何もされてねぇの?」
「大丈夫!本当にごめんね銀さん、私凄く迷惑かけちゃって、迷っちゃったみたいで戻れなくなっちゃって、探してくれたんだね、本当に、ごめんね。」
「無事だったなら良いって、神楽達心配してるし帰るぞ」
「そうだよね、ほんと申し訳無い、ごめんね。」
「んな謝んなって、いーつってんだろ。」
「だって、」そう言いながら手を伸ばす
おでこも首も汗で濡れている
「こんなに汗だくになるまで探してくれたんでしょ? ごめんね。」
背伸びして汗で張り付いている前髪をはがしておでこを手で拭いた
ハンカチ持ってないから申し訳ないけど手で我慢してもらう
帰ったら早くお風呂入らないと風邪引いちゃうかも
急いで帰ろうと、言おうとしたらおでこを拭いていた手を取られた
「さっき言ったろ、お前も万事屋ファミリーなんだよ。同じ釜の飯食ってんだろ、家族に んな何回も謝んな」
そう言えば、さっきも万事屋ファミリーだって言ってくれてた
昨日会ったばっかりなのに、こんなに迷惑かけたのに
なのに家族だなんて
「うん、ありがとうね!」
申し訳ない気持ちを拭えはしないけど、笑って精一杯お礼を言った
「にしても名前ちゃん方向音痴なの? 」
「え!? ……いや、そんなこと無いと自分では思ってるんだけどね、多少遠回りになっても最終的にはいつも目的地に着くから。」
「自分では思ってても人からは?」
「……良く言われる。」
「子供じゃねぇから迷わないって言ってたのにな?」
「っ、……ごめん。」
「すげぇ遠くまで迷い込んだよな。立ち入り禁止区域に入っちゃうなんて、さっすが、世界越えただけあるな。」
「っ、ねぇ!何なのさっきから!何でそんな嫌みったらしく言ってくんの!? 謝るなって言ったのそっちだよね!?」
何なの!?
謝るなって言ったよね!?
めちゃめちゃ申し訳ないと思って謝ってたらもう謝んなって言ったよね!?
だからお礼言って綺麗に収まったんじゃないの!?
繋がれたままだった手を振りほどき叫ぶように言うと目に映ったのは口元に笑みを浮かべた銀さん
待って、何、朝も見たよこの顔
「やっぱ反抗的だな名前ちゃん。でもそっちの方が合ってんじゃね? 沈んでねーで、反抗してこいよ。」
……は?
え、何言ってるのこの人は
「……反抗されたいの?」
「ん−、まぁ。感情的にならなそうな奴が俺の嫌みに耐えきれず噛み付いてくる顔を更にねじ歪ませる為に?」
「……は?」
はい?
何て言ったの今
冗談?私が謝り続けるから冗談言っただけ?
いや、冗談でも言う?
口をひきつらせながら銀さんを見ると笑いながら私の手を掴んで歩き始めた
もう振りほどく元気はない
意地悪いなんてレベルじゃなかった
prev / next