01
――車に轢かれたとわかったのはしばらく経ってからだった。

朝からすごく運が悪かった。
たまたまつけたテレビの占いでは最下位。
家から出る直前で靴紐が切れたり。
黒猫が親子で目の前を横切ったり。

最後にはこの有様だ。
きっとこんな不運が続いたので凄い幸運が後でやってくるんだろうと思っていた。

不思議とあまり痛くもなく、ただ熱く、意識が朦朧とするくらいで
あとは夢を見ているようにふわふわとしていた。

サイレンが近づき、そして音が消える。

私の身体は誰かに持ち上げられ、ガクンと少し衝撃が走る。

サイレンの音がまた鳴り始めた。

――私、救急車に乗ってるんだ。

どこか冷静に考えていた。そして、眠くなって、きた……



「はい、起きていいぞ。」


そんな能天気な声が聞こえてバッと起き上がった。
あれ……?身体が熱くない……、というかココドコ?

救急車に乗っていたはずの私の身体は何故か白い空間にいた。
でも名残なのか担架を身体の下に敷いていた。


「え?……え??」


キョロキョロとあたりを見回しても本当に真っ白く何もない空間。
あれ?そういえばさっき声が聞こえたような。


「ま、名前の考えている通り、お前死んだんだよねー。」


――そんなこと考えてませんでした。私死んだのか?!

後ろから聞こえてきた声の主を見ようと担架から降りて振り向くと
何かの獣の大きな頭蓋骨をかぶったコスプレさんが立っていた。


「あれ?意外と冷静じゃね?なーんだ、もっと驚けよ、ほらほら」

「えっと、ここどこ?というか貴方誰……?」

「つまんね、つっまんねー!まあ、そういうとこも好きなんだけれどな!」


突然の告白!
まさか……、ストーカー的な?それは災難がまた続いたな、
なんて考えてたけれどそういえば身体がどこも痛くないどころか身体が絶好調だった。


「さっきの質問な。ここ俺様の部屋。んで、俺様はお前らの言葉借りるなら悪魔か神様、だろうな。ま、どっちでもいーよ。俺様は俺様だからな。」

「もう一つ質問いい?なんでこんな、えっと、貴方の部屋に?」

「お前質問多いなぁ。答えは簡単。お前が好きで好きで好きすぎて傍に置いておきたかったんだよ。だから殺したー。」

「え、ふざけんな。」

「超リアルな反応アリガト。でな、お前死んだんだけれどさ、ぶっちゃけいうとこっちにお前呼んで気づいたんだけれど、生前の生き生きしてる姿が俺様好きだったんだよな。死んだ後で生き生きはねーよな!」


もう、今なにがなんだか。あっちはあっちで頭蓋骨をガクガク揺らしながら大爆笑してるし。
神様?悪魔?
……轢かれたのは確かに轢かれた。私、今意識不明で寝ているのかもしれない。
その夢なんだ、これは。


「でさー、俺様思ったわけよ。お前生き返ってみない?前の世界は死んだから無理なんだけれどさ。」

「へ、え、そんな事できるの?」

「名前。お前、俺様誰だと思ってんだ。さっき自己紹介しただろ?カミサマにとっちゃそういうのが仕事なんだよ。」

「たとえば、トリップとかも?」

「もちろん。そういえばトリップで思い出したわ。よく事故ってカミサマに会って、異世界へトリップなんて王道なんだろ?なんで王道か知ってっか?」

「そ、そりゃ、そうでもしないとトリップなんてトンデモ設定できないんじゃない?」

「ぶっぶー、ハズレー。はい、回答権は俺様に移りますー。」


なんだろう、一々いらつく人だなぁ。
悪い人ではなさそうだけれど。
……いや、そもそも人を好きだからといって拉致したり、ストーカーしたり、殺したりするのは悪人では……。

そうなるとこうやって頭蓋骨をかぶってるのは顔を見せないためかしら。


「答えはそうなったやつが本当にいるからだよ。ぴんぽんぴんぽん、俺様大正解!」


ガラガラと笑うたびに骨も笑う。
……若干、イライラしてきた。


「そんな怒りなさんな。可愛い顔が台無しじゃねーか。俺様がやったわけじゃないんだが、俺様みたいに気まぐれをおこしたり、仕事で創らなきゃいけねーときがあるんだよ。それで自分の世界に帰った奴が書いてるんだよ。記憶は消してるはずなんだけれどなァ。
なんだ、名前はトリップしたいのか?」

「さ、させてくれんの?!」

「まーな。どの世界にいくんだ?設定とかどうすんだ?」

「エヴァで!って知ってる?」

「あったりまえだろ、俺様だぞ?豊富な知識ありきの俺様だぞ?で、設定は?」

「男主人公でパイロットたちとはそこそこ仲良くなりたい!顔はそこそこでいいから、ごめんやっぱ美形で!身長もそれなりに高くて、お金はできれば余裕があってほしい!一人暮らし希望で!」


一度でいいから男になってみたかったんだ。
いつも夢小説を見てて思い描いていた設定を一息でいうと、
カミサマとやらは驚いたリアクションをしていた。
顔は骸骨だから本当に驚いているかはわかんないんだけれど。


「スゲーな。決めてたのかよ。じゃあそれでいいか?」

「あ、もう一つ!使徒がいない、平和な世界がいいな。」


その一言を聞いた瞬間、骸骨の動きが止まる。
二秒、三秒。さすがに怖くなったので話しかけようとしたら
骸骨が今日一番の笑いをする。お腹まで抱えている。

イライラメーターが限界ラインを超えたので担架を両手で持つ。


「ちょっと待てよ、さすがにそれは俺様も痛い。笑ったのはすまんかった。」


意外と普通に謝りやがった。


「いやいや、さすが見込んだ女だ。この俺様が惚れ込んだだけある。なァ、名前。お前が言ったのはありえない世界だ。想像の世界だ。
……そんな想像のものを創造すんのか?それは神様の仕業だ。」


――お前は神様にでもなんのか?


骸骨の奥の真っ暗闇の瞳が私を射抜く。
値踏みをするような、見えない瞳。


「神様上等。」

「ひゅー、かっけぇー。んじゃま、いきましょか。」

「あ、ちなみに私が男になってもいいの?」

「男であろうと女であろうと、俺様はお前に心底惚れ込んでんだよ。」

「どこが好きになる要素があるかわかんない……」

「いーから行ってこい、愛してるぜハニー。」



そうして私の意識はまたブラックアウトした……。

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