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大きく欠伸をしていると爆竹の音がなり、肩をびくりと震わせてしまった。
そう、今日は待ちに待った体育祭なのだ!
『生徒会挨拶、生徒会長、渚君お願いします。』
「はい。」
壇上に上がってきたのは紛れもなくカヲルだった。
あの子、本当に生徒会長だったんだ……。
カヲルが話しだすと女子達のヒソヒソした声が少しだけ大きくなる。
どうやら内容はカッコイイだの、素敵だの、色恋沙汰のような事だった。
これはアスカが嫌な思いするのではないだろうか、と彼女の顔を見るためチラリと後ろを向くと無表情だった。
そして私と目があうとちょっとしかめっ面になり、シッシッと犬を追い払うような動きをする。
前を向けってことかな?
カヲルの方を見ると何故か私の方をガン見しながら話しているようだった。
気のせいかもしれないがもっと違う場所を見てくれ。これじゃ見つめ合ってるみたいじゃないか。
「さぁ、て……、頑張りますか。」
目指せ、クラスで浮かない存在!ぐっと握り拳を作る。
そして体育祭は順調に進んだ……と思われていたけれど。
「応援団が怪我したの?!」
「なんかさっきの種目で派手に転んだ人がいたでしょ?あの人だったらしいよ。」
そんな風な噂話が我が赤団の中で囁かれた。
応援団……といえば今年は2年から二人選抜されていて、私のクラスからはアスカが出ている。
たまにアスカの練習を見に行ったり、何故か私の家で一緒に練習したんだけれど。
おや、噂をすれば。
前方から怖い顔をしたアスカがズンズンとこちらに向かって歩いてくる。
どうしてだろう、なんだか嫌な予感が。こういう時は大抵当たってしまうものだ。
ん、と言葉と共に渡される普通より長いハチマキ。
「えっと、もしかしてだけれど……。」
「その通りよ。裏行くわよ。」
「マジか!」
ハチマキをグルリと腕に巻かれ、そのまま引っ張られてしまう。
アスカの後を追ってついて行くと辿りついたのは体育倉庫の裏だった。
なるほど、見えないところで練習か。
「確か一通りやったことあるわよね?覚えてる?」
「まぁ、多少は。」
この身体になってからたまに驚かせられるんだけれど、以前の身体よりかなりハイスペックで記憶力まで格段に上がっているのだ。
なので多少、とはいったけれど多分問題はないはずだろう。
「でもなんで私?」
「アンタならね、なんか出来そうな気がしてたの。なんていうか……アンタなら何か奇跡みたいなモン起こしてくれそーねって。ま、アタシの練習を手伝ってたから出来るでしょ!それに団長に言ったら大喜びだったわよ。」
「団長に?ああ、そういえば今年は女子の団長だったね。」
「そ、アンタの事知ってたのよ。これで尚、華やかになるって。アンタのポジション団長の隣だからよろしく。」
「げー、マジでー……。」
ストレッチをしていたアスカがよし、と一声気合を入れて二人だけの秘密の特訓を開始した。
といってもそこまで特訓は長く続かなかった。実は私が意外にも覚えていて団長と合流して携帯に入れた音源で一度合わせてみたけれど完璧に仕上がったのだ。
……本当に顔はいいわ、身体能力高いわ、潜在能力すごいわでスペック高すぎるでしょ、この肉体。
お昼前になって衣装を渡されて着替えたけれど……かっこいいな、これ。
「学ラン着用!」
「はい、肩止めるよー。」
某仮面を被ったヒーローの様にポーズをとっていたら団長さんからすぐに手を下ろされた。
団長さんも私と同じく長袖の黒い学ランを着ているんだけれど、腕を袖に通さず肩からかける状態で着ていた。なるほど、肩からかけるのか。
学ランを脱ぐと団長さんは肩の裏の部分に強力な粘着テープを学ランにつけて私の肩に強い力で押し付ける。結構な怪力だった。
「用意出来たみたいね。」
「あれ?アスカは学ランじゃないの?」
「学ランは先頭の三人だけよ。……ふうん。」
アスカは私の姿をジロジロと上から下から舐めるように見る。
カッコ悪くはないはず……だけれど、こう感想を言われる雰囲気になると若干緊張する。
「うん、孫にも衣装ね。」
「今度は褒められていない……、しかもアスカ、馬子にも衣装ね。漢字が違う。」
「う、うっさいわね!漢字は苦手なのよ!」
「はいはい、ご両人、夫婦喧嘩は演舞が終わってからね。」
背中を団長から押される。アスカも団長に向かってぎゃいぎゃい叫びながら同じように背中を押されてるようだ。
そうか、もうそんな時間なんだな。少し緊張してきた。
「じゃあ、赤団応援団いくよ!」
『赤団応援団入場』
「おーッ!」
大きな声を出して自分の配置につく。
自分の周りは人があまり居なくて助かった。これで後ろの方の代役だったら動き回るからもしかしたら失敗していたかもしれない。
ほっとしたのも束の間、異常に熱っぽい視線が前から注がれているのに気づいた。
「カヲル……。」
まさかの私の位置が生徒会と放送委員の目の前の位置だった。
カヲルは私ににこやかに手をふった。
貴様、心なしか楽しんでいるだろう、この状況。
しかもちゃっかり携帯を構えるな。やめろカメラで撮るな。
携帯は持ち込み禁止のはずだろう、生徒会長がいの一番に破るな。
あ、渚くんも隣にいる。そんな日なたに居たら危ないからもっと木陰の方にいきなさい。
なんて余計な事を色々考えていたらドドン、と重低音が響き、急いで構える。
とりあえず目の前の事は無視をして演舞に集中する。
指先一つ一つに神経を使うように、皆と呼吸を合わせて。
最後の盛り上がりが終わると太鼓のドドンという終わりの合図が鳴り響く。
全員が前方に走ってきて一列に並び、気をつけをして「ありがとうございました」と出るだけの大きな声で挨拶をした。
挨拶が終わると爆竹がなり、午前の部が終了の合図を告げた。
私は前にスタスタと歩くとニコニコと笑っている男の机にバンと手を置く。
「写真をよこしなさい。」
「なんのことだい?」
「よし、携帯を出しなさい。」
「カヲル、お腹すいたね。ご飯にしようか。」
「了解。」
「無視か!そういえば二人はどこでご飯食べるの?」
「まだ決めてはいないよ。」
「じゃあ私と一緒に食べようよ。アスカも一緒なんだよ。」
……悪巧みを思いついてしまった。いや、悪くはないとおもうけれど。
アスカとカヲルを仲良くさせたいな。こんな美男美女のカップル、傍から見てて美味しすぎる。
私には渚くんがいるし、いい案だと自画自賛をしてしまう。
「じゃあお邪魔していいかな?」
「うっし!じゃあ早速いこう!」
お弁当を持っていた渚くんを抱っこしてカヲルにもおいでおいでと手招きをする。
カヲルは席を立ち私の後ろをついてきた。
よし、恋のキューピット頑張るぞ!