あなたは誰ですか、私の何ですか
「そっちはダメだよ、君はすぐ転ぶんだから。」
澄んだ声だ。声が通り、私のところまで聞こえてくる。
といっても私じゃないだろう。
気にせず足をすすめると何かに躓いた。躓いて、躓いていない足でふんばろうとしたら、
その足が躓いた足にひっかかり、派手に転んでしまった。
こんな年にもなって転ぶなんて、しかも誰かが注意されたばっかりなのに
一緒に聞いてた私が転ぶとか。恥ずかしくて早くこの場から逃げ出したかった。
「ほら、いっただろう?」
そんな笑いをこらえたような声が私の頭の上からふりそそぐ。
さっきの澄んだ声の持ち主だ。
顔を上げると中学生の格好をした透き通るような男の子が私に手を出していた。
その男の子は綺麗な微笑みを浮かべている。
私はその微笑みに見蕩れていたら、手をひっぱり無理やり起こしてくれた。
起こした反動で私の身体は前へと進み、彼と近くなる。
さっきの言葉。私に言った言葉だったのか。
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして。君はこの道通るとき、注意力散漫だよ。あそこのお店がおいしそうだとか、新メニューが出てるだとか、あそこの服が可愛いとかで足元が疎かになってしまうんだ。そうだろう?名前さん。」
「なんで……、」
「ああ、そうだ、帰り道、コンビニに行くんだろう?買いすぎには注意するんだよ?」
……なんでそんなこと知ってるの?
――あなたは誰ですか、私の何ですか?
「ストーカー……?」
「いや名前さんの恋人だよ。」
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