お題 | ナノ


  ぬいぐるみに埋もれる


どさどさどさ、ととても重たく響くような音がして目が覚めた。
実際に重みも感じる。重みどころか息苦しくなってきて寝ている場合じゃなかった。


「ぷはっ、」


何かに埋もれていたようでかき分けて顔を出すと何故か真剣な顔をした渚くんが私を覗き込んでいた。
まだ完全に目覚めていない目をこすり、今自分がどのような状態かを見渡す。

自分が埋まっていたのはどうやらぬいぐるみの中だったらしく、身体の半分は未だにぬいぐるみの中だ。
「ぬいぐるみに囲まれたい!」なんて小さいころに思っていたかもしれないけれど、
現状を見るとこれ片付けるのに面倒くさそう、くらいにしか思えなかった。


「おはよ。」

「おはよ。大変メルヘンな起こし方ね。」

「あは、これで目覚めのキスでもすればもっとメルヘンになるね!」

「それはちょっと絵面的にはアウトかしら。捕まっちゃう。ていうか今日学校じゃ無いでしょう?なんでこんな朝っぱらから……。」


携帯の画面を見ると学校に行くならば遅刻の時間だけれど、休みの日に起きるのは早い時間だ。
なんでまたこんな時間に……、と彼を見ればダンボールを持ち上げていた。


「えーい。」

「痛い!」


感情のこもっていない掛け声とともにダンボールごと顔に向けて投げられる。
そのダンボールの中身にもぬいぐるみが入っていたようでダンボールより先にそのぬいぐるみ達が顔面へとぶつかる。


「投げるならせめてもっと元気よく投げて!?」

「投げることには文句は言わないんだね。」


渚くんは少し不思議そうにこちらを見ていた。
……君、私に文句を言わせたかったのか?


「ところでホントにどうしたの、突然ぬいぐるみなんか。」

「ん、母に可愛くなってほしくなって。」

「私、渚くんに心配されるほど可愛さ不足?!」

「じゃなくて。」


ふるふると首を振る彼。……はて、だとしたら何かあっただろうか。
ジッと渚くんの瞳を見てみる。実は私、ここに来て読心術もできるようになってきたのだ。
けれど、カヲルは読み取れても渚くんのはどうも苦手でよく失敗する。
……今回も例外ではなく、やはり考えていることはわからなかった。


「どうしてぬいぐるみで可愛くなってもらおうと思ったの?」

「最初は花にしようと思ったんだ。花を上げると女子は喜ぶし。それがいっぱいならば母はもっと可愛くなってきっと喜ぶだろうと思って。」

「それを実行してたら私死んだ人みたいになるね!!」

「そう。それを兄にも言われた。だからぬいぐるみにした。」


それでぬいぐるみか……、と自分の部屋を埋め尽くさんとするぬいぐるみを見る。
多種多様のぬいぐるみ、大きさも違えば可愛さのベクトルが違うようなぬいぐるみまで。

果たしてこのぬいぐるみはどこからかき集めてきたのだろうか、聞くのも少し不安だ。


「母、すごく今可愛いよ。」

「ア、ハイ。」


あまり嬉しくないんだけれど。多分今セピア色(主に暗い色)で写真でも撮ればホラーポスターの出来上がりだ。

さて、片付けはいつしようかとぼんやりと考えていたら開いていたドアからひょこりとカヲルが顔を覗かせた。


「おは、うわ。」

「うわ、とか言うな……。」

「いや、ごめん。カヲル、ちゃんと片付けるんだよ?」

「わかった。」

「ごめんね、名前。カヲルがどうしてもって言って聞かなくてさ。」

「何故……一体こんな流れになったんだ……。」


ちらりとこちらに一瞬目線を向けた渚くんだったけれど特に不満そうな顔をせずに黙々とぬいぐるみを片付け始めた。
カヲルもそれをみて、話しても大丈夫だろうと思ったのか、いきさつを話してくれた。


「どうも小学校で母親の件でなんかあったみたいでね。ほら、よくいう『お前のかあちゃんデベソ』みたいなね。」

「よくは言わないと思うし、カヲルの口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったから今目が完全に覚めたわ。」

「ま、それでね、カヲルが母親は可愛いって言ったけれど信じてくれなかったんだってさ。見せれば確かに名前は可愛いし格好良いし創造主だし素敵だし完璧で非の打ち所が無い人間だとわかるだろうけれど、やっぱり身体は男性だからね。」

「ニコニコ動画だったら草はやされてるか『zzz』ってコメント流れてるような私の褒め言葉ありがとう。……はー……、なるほどなるほど。」


それで意地になって私を可愛くしようとしてくれたのね。
なんて可愛い子なのかしら。
お礼の言葉をいいながら近くでぬいぐるみを拾っていた渚くんの頭を撫でる。


「…………母は、僕の唯一無二の母だからね。」

「ん、いつまでも君のキュートなお母さんでいるからね。」


そう答えると渚くんは頬を染めながらにこりと笑った。


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