きみの喜怒哀楽が全部見たいよ
「もう、こんなところで寝ていたら風邪ひくよ!」
「……ああ、苗字さんか……。おはよう。」
「おはようって言うにはお日様が天高く登ってる時間だけれどね。あとまたサボってるんだ?」
「ふふ、こんなに天気いいのに昼寝をしないだなんてもったいないと思うんだ。」
彼女はこんなに暑いのに。と口を尖らせて不服そうにしゃべっている。
……お言葉だけれど、それだと風邪もひかなさそうだけれどね。どちらかというなら日射病かな?
正義感が強いのかこうやって授業をサボっている僕を探してはこうやってお説教をしにくる。
僕はそんな彼女に構ってもらうのが楽しくて何度もこうやってサボってしまうのだけれど。
見知った世界を何度も授業で繰り返すそれに意味を見いだせず、
この彼女との会話の方が有意義に感じるからこうやって抜け出しては楽しい時間を過ごしている。
「こんな時間楽しいねェ。」
「そりゃお昼寝の時間は楽しいでしょうね。」
と全然僕の思っているものとは別のものを彼女の口から聞いたけれど、僕は彼女を見つめたまま否定はしなかった。
ため息を一つ落としたあと、苗字さんはスカートを膝の裏から押さえ僕の隣へと座る。
「君も次の授業は抜け出すのかい?」
「まさか!予鈴には戻るよ。渚くんって変な人だよね。」
「どこら辺が?」
「んー?なんか、こうサボってるのにわかりやすいところにいたり、教室に居たくないって時には大体渚くんは外にいるしさ。」
「……それは僕を過大評価しすぎじゃないかい?」
「別に褒めていないよ?」
クスクスと隠しもせず、花のように笑う。
ああ、その顔も僕は好きだよ。君は正義感が強いから傷つくことも多いだろう。
体調を我慢して強がったり、傷つけていないだろうかと怖がったり。
でもやっぱり苗字さんにはその笑顔が一番だ。
一度目のチャイムが僕たちのいる場所にも響き、その音を聞いた苗字さんは「よいしょ」という掛け声と共に立ち上がった。
「授業に来て欲しいとは言わないけれど、出てた方がいいよ。」
「僕が教室にいて、苗字さんが嬉しいと思うのだったら行こうかな。」
「なっ?!」
かあ、と顔を赤くさせ、一歩、二歩と後ろへと下がる。
ふふ、いじめすぎたかな?なんて思っていたら彼女は目線を左右に動かしたあとに
「嬉しいから、きてね」と言って走って去っていった。
……これは、授業にいかなくては、ね。
と僕も、掛け声はかけなかったけれど立ち上がりゆったりと教室へ向かった。
……そんな記憶の中の君は生き生きとしているのに
腕の中にいる君はぐったりとしていて。血は抜けていってるはずなのに
その身体はずっしり重く感じる。
焦点のあっていない瞳を隠すために無理矢理まぶたを閉じさせる。
さあ、自分で目を開けて。
もう一度、僕の名前を呼んで。
そうして君が生きているところをみせて。
僕の知らない君の表情がもっとみたいんだ。
だから、だから。
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