お題 | ナノ


  序章


このお屋敷には変な噂がある。

まず、ニックネームがプリンスやらプリンセスやらと呼ばれる美男美女が住んでいるという。
次にその姿をしっかりと見たものはいないけれど、チラリと見たことがある人はどうも住人は10代半ばくらいの年齢だったという。

そんな不思議屋敷の前に立っている私。

興味本位で私もこんな屋敷の前に立っているわけではない。


「なんってことだ……。」


数分前の自分の頭をぶん殴りたい。そう頭を抱えてしまった。
何気なしに財布に付いていた紐をもち、ブンブンと振り回しながら考え事をしていたら、
ブチという不吉な音が聞こえ、手元が軽くなった。

そう、私の財布は今、高い格子の中にあるのだ。
それをとりに行くためにはこの、これまたバカ高い門をくぐらなければならない。

なに話せばわかる、と勇気を出して呼び鈴を押した。……ここまでが前の私の行動だ。


「誰もいないのか……、それとも呼び鈴が壊れているか。……しょうがない。おじゃまします。」


玄関に行きドアを叩いたらいいじゃないか。そう思いつき玄関へと進む。
少し距離のある玄関への道のりだったのでキョロキョロと周りを見てみる。


「随分と手入れがなっていないなぁ。」


草は青々と茂り、所々枯れている植物がある。
人が住んでないと言われたら信じてしまう程だった。

目の前までに玄関がせまり、一息深呼吸をしてドアをならす。
中に人はちゃんといたらしく「はいはーい!」と元気な声で返事を返された。

しばらくするとメガネをかけた可愛いメイドさんがひょっこりと顔をのぞかせた。


「どちらさん?」

「あ、あの、この屋敷の敷地にお財布落としてしまって……、良かったら取らせてもらわないと思って……。」

「あー、ちょい待ってねん。」


とドアを閉められ、数分待たされたあとにメイドさんがドアを開けた。
えっと、あの、私は財布取りに来ただけなんですが……。
何故手招きをされているんだろう。


「あの……。」

「主が来てってさー。」

「へ?!」


そして時は現在へと戻る。
「数分前に戻って自分を殴りたい」と言っていた自分も殴りたくなるくらいに
今私は手の中にある残骸を見ながら後悔していた。
「マリ、君も同罪だからね……。」

「い、いやあ、あはは、まさかこんな事になるなんて!」

「ホント、すみません……。」


呆れていた美少年の口から告げられたこの残骸の元の姿であった壷の金額は
ここの庭にある財布の中身では全然たりない額であった。
それを割ってしまったのだ。メイドさんと二人で。
帰り際にぶつかってしまい、メイドさんが倒れる瞬間、私の腕を掴みガシャンと壷に倒れてしまった。


「それより二人共怪我はないかい?」

「私は特には……。」

「私もだいじょーび!」

「そ、そんなことより……すみません、これ、かなり長くかかると思うんですが弁償します……。」


月2万くらい払って、まあ、42年くらいかかれば……。
42年……ははは。
その言葉を聞いて少年(といってもここの主らしいのだけれど)は口元に手を当て何か考えているようだった。


「マリも同罪だから半額でいいのだけれど、……どうだろう、完済するまでここに雇われるというのは。タダで働くことになるけれど、その代わりこちらも利点を出させてもらうよ。」

「り、利点?」

「そう、君は今から庭師としてここに住み込みで雇わせてほしいんだ。食事とかは準備をさせてもらうよ。どうかな?」

「そ、そんなことでいいんですか?!」

「ちょうど庭師が居なくなってしまってね。空きがあったから僕としても利点があるんだよ。」

「よろしくお願いします!」


庭師ってどんなことをしたらいいのかわからないけれど調べればいいよね。
こんな優しい人って生まれて初めてあった!
そりゃ顔も良ければ性格も良いからプリンスって呼ばれるよね!


「いーの?勝手に。姫怒んない?」

「僕が話をつけるよ。それに彼女も女性だ。女性は花が映える。華やかになるならば彼女も喜ぶだろうさ。」

「姫は典型的な花より団子な気もすっけど……、まいっか。よろしくねん、えっと、」

「あ、私の名前は名前って言います!」



そういって私はここの屋敷の庭師となった。
……さて、ここまでが全て回想だったんだけれど。

今回、私が頭を抱えてるのはマリさんのせいで。
マリさんが地下のワインセラーから取り出したお酒を皆で飲もうということになった。
ちなみに皆さんは噂通りの人達だったみたいで、こう見えて30歳手前らしい。
嘘でしょ……、全員私より年上なのかよ。ってショックを受けた。
なのでお酒は一応、飲んでもいい歳なのだけれど……

やはり止めておくべきだったと、毎度の様に私は後悔するのだった。


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