コックは泣き上戸
「聞いてよお!もう!僕ばっかりね!」
「はい!はい!」
ご主人からバトンタッチでシンジさんの相手を頼まれた。
いつもは穏やかで愚痴はいうものの影で人一倍頑張って皆の料理を作っているシンジさん。
密かにその姿に感服していて、一番の常識人なので一緒に居やすいのはシンジさんだった。
そのシンジさんがボロボロと大きな粒の涙を流している。
今は全然別の意味で一緒に居た。
ほっとけない、というか今私が席を外したらシンジさんが暴れそうで……。
「シンジさんの苦労はすごくよくわかりますよ。だって皆さんなんかブッ飛んでますもん。色々と。いい意味でも悪い意味でも。」
「わかってくれてありがとう……。」
「だから、ほら、泣かないでください。いつもの男らしさはどこ行ったんですか?」
「ぐす……、今出張してる……。」
「切り離し可能な男らしさ?!」
「……僕はね、名前さんが隣にいるとほっとするんだ。」
シンジさんは下から覗き込むように綺麗な潤む青い瞳が私の顔を見つめ、
私の両手をシンジさんの両手が包み込む。その手は熱を帯びているようにかなり熱い。
まるで告白をされているような言い方にクラクラとする。
私ももしかしたらこの空気に酔ってしまったのかもしれない。
「だから僕の傍を離れたら泣くからねぇえ!?」
「傍にいるのに泣いてるじゃないですか!!」
ご主人はこの泣き上戸をずっとあやしてたんだな……。
頭を撫でてたり、優しい言葉を伝えたり。
私には彼みたいに人を包み込むような優しさはない。でも私の取り柄は元気なことだ。
その元気を分けてあげることなら出来る気がする。
「シンジさん、私ここ凄い好きですよ。確かにこの人たち大丈夫だろうかってたまに思うことありますけれど、やっぱりそこも含めて好きなんだなって思えます。」
「……。」
「シンジさんもご主人も姫もレイさんもマリさんも好きですよ。ここが好きなので断られてもずっとずっと傍にいますからね!」
自然と笑ってしまった。私こんなにもここがいつの間にか好きになってたんだなってわかってしまって。
シンジさんを見ると少し驚いた顔をして固まっていた。
「名前さぁ〜ん〜!」
「わ!結局泣かせてしまった!しかも抱きつかないでください!首!首しまって……っ!」
いつも凛々しくも穏やかに料理をつくる彼では想像もつかない姿だったけれど、
……泣き顔が可愛くて、少し積極的になるコックさんにちょっとときめいたので
たまには酔ってもいいんじゃないかな、なんてちょっと思ってしまった。
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