香水マーキング
ふわっと、なんだかいい香りが漂ってきた。
ここはエレベーターという密室だし、いま一緒にいる彼女しかこの匂いの元はないだろう。
「あれ?ミサト先生、柔軟剤変えました?」
ガクッとこけ、昭和ばりのリアクションを取られた。
どうやら私の質問が間違っていたか、素っ頓狂な質問だったらしい。
「違うわよぉ。多分、名前くんが言ってるのは香水の事じゃないかな?」
「ああ、なるほど。確かに柔軟剤にしては甘い匂いですもんね。」
大人の少し誘惑するような、甘い匂い。
別に見るところもなかったのでミサトさんをじっと見ていたらニマニマと笑いながら私に近づいてきた。
そっと私の胸に手を当てられる。……お、おや?なんだか怪しい雰囲気だぞ?
「何々?もしかして香水でクラクラしちゃった?それと、今は学校じゃないんだから先生はいらないわよ?」
「ふふ、ミサトさんの色香にクラクラしそうですけれどね。」
「あら、嬉しい。」
にこやかに笑って彼女は一歩引く。
それと同時にエレベーターのドアが開いた。
彼女を部屋まで案内し、ドアに手を伸ばすと違和感が。……私、鍵かけたよね?慎重にドアを開けて中を覗き込むと不機嫌な顔をしたアスカが仁王立ちしていた。
すぅっと自分の頬に汗が流れ落ちるのを感じる。
ドアを盾にして話しかけてみよう。
「アスカ、さん……。」
「何よ。」
「不法侵入です。」
「作ったのよ、鍵!ほぼ毎日来てるんだからアタシの家も同然でしょ!」
「せやろか。」
なんか、もう何も言うまい。
ていうかなんでそんな機嫌が悪いんだ。
「ミサト!居るんでしょ?!」
「玄関でアンタ達が痴話喧嘩始めちゃったから存在忘れられたかと思ってたわよ。何〜?」
「何じゃないわよ!どういう書置き残してるのよ!」
「どういうって、ちゃんと書いたでしょ?名前くんの時期はずれの家庭訪問って。」
そうなのだ、今日は時期はずれに転校してきた私のためにミサトさんが家庭訪問でここにきたんだけれど……。
だからさっき『先生』呼びしたのにね。
「言ってないわよ!『名前くんのお家に行って来ます。二人っきりで特別面談です』って!しかもハートマークつき!何考えてンのよ!」
「だぁってイケメンと二人っきりってなんだかワクワクしない?」
なるほど、状況が理解できた。アスカが怒ってるのは私じゃなくてミサトさんにだったのね。良かった良かった。
「何ほっとした顔してんのよ、名前は狙われてんのよ!しかもいつの間にか下の名前で呼ばれてるし!」
「わ、ちょ、アスカ、引っ張んないでよ……ッ!」
腕をつかまれグイッと引き寄せられる。バランスを崩しながらもアスカの方に寄ると、アスカは何かを気づいたように、すんすんと小さく鼻をならした。
「ミサトの匂いがする。」
「ああ、そういえばエレベーターで……、」
その言葉を言った瞬間、アスカの機嫌は更に悪くなったのか眉間に深いシワが寄る。
あれか、女子同士で友達を取られるかもしれないという嫉妬か……。
女の子の友達で一番仲が良いのはアスカなんだけれどなぁ。
「名前は早く制服を脱いで私服に!洗濯物はアタシがやるわ。ミサトはお茶くらいは出してあげるけれど、手を出そうとしたら速攻で追い出すからね!」
「はいはい。アスカは彼女みたいね。」
彼女といわれるとアスカは嫌がるだろうな。
私はアスカの友達をやめる気はないし、取られたとかそういった嫉妬もしなくていいようにこう言った。
「「友達」です(よ!)」
同じタイミングで何故か顔を赤くしたアスカと同じ言葉が被った。
……そして理不尽に殴られた。どーして……。
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