「好きな人ができました」
名前は遅刻を10分ほどして、僕のもとへとやってきた。
10分、といえばそこまで長くはない時間だけれど、待ち合わせの場所が悪かった。炎天下の日陰のないところ、だ。
彼女はすまなさそうに走ってやってきた。
「今日は私がお弁当を作るね」と気合を入れたメールが来ていたから
僕の為にお弁当を作っていて時間がかかったんだと思っておこう。
「でも、どこにいくの?」
「ちょっと、ね。」
名前がついてくるのを確認して僕はこの炎天下の中を歩いていく。
行くところ、それは母さんが眠っているというところだ。
名前は彼女ではない。だから今日は告白をするために。
いつ来ても、寂しそうにならぶ黒い棒たち。
ここに母さんがいる、といわれてもピンとこない。
「碇くん、ここ……。」
一つの場所で足を止めると名前は足元にある花でここが何かわかったようだ。
遊びにくるには、ちょっと違った場所だよね。ごめんね。
「母さん、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ。今日一緒に連れてきた子だけれど、待ち合わせの時間に遅刻してきたんだよ。」
「う゛、本当にごめんなさい……。」
「でも、今日僕の為にご飯つくってくれて嬉しいし、遅れたけれど走ってくるところとか可愛くてどうにも怒れないんだ。」
「……いか、りくん……?」
「母さん、今日は報告しに来たんだ。」
「……。」
僕は名前に向かい合った。
彼女もこのあとの流れがわかったのか、顔を赤くして髪を整えたり、服の位置を調整したりして、最後には気をつけの状態で僕の目を見てきた。
「僕、好きな人ができたんだ、名前は名前っていうんだ。僕の好きな人に僕の思い、届くかな?」
「きっと、きっと届くよ!きっとその人も大好きだよ!」
なんて口を大げさにぱくぱくしながら僕の母さん宛に言った言葉に返事を返してくれた。
お互いに少し赤い顔を見合って、そして小さく吹き出すように笑った。
母さん、好きな人ができました。
あと、本日、恋人もできました。
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