性格悪年下彼 | ナノ


▽ 渚カヲルの誓い事


自分の部屋に入ると机の上に積んであった。
積むほどあるのか……と一瞬呆れたがコレを積んだ本人が見当たらないことに気づく。


「名前さん?」


返事は一切ない。
とりあえず冷蔵庫に入れようと思ったのだけれどドアが開く音がした。


「あれ、帰ってたんだ?あ、ゴメン、カヲルくん。ちょっと置かせてもらったー。」


彼女の手は更に缶を抱えていた。
アルコール飲料。ビールや、チュウハイ、机の上のも含めて色んな種類がある。
彼女は酒豪だったかと記憶を遡ってみたけれど、そもそも彼女が飲んでいるところを見たことがなかった。


「お酒好きなんですか?」

「うーん、別に普通くらいかな?でもあげるって言われてさ。三課の全員もらったんだけれど……私がこれでも一番少ないんだよ。」

「お酒強いんですか?」

「それも普通。ていうか私限界まで飲んだことなくてさ。強いかどうかはわかんないけれど。」




……そんな回想。


「まったくさー、うちの上司がねー……、はやく結婚しろとか言ってくんのよぉ、セクハラだと思わない?」

僕の部屋にベロンベロンに出来上がった女性が一人いる。
しかも絡み酒というタチの悪い酔っ払いだ。
どうも限界を知りたかったらしく、結構ハイペースで飲んでいたら
一時間も経たずにこの状態に。

寝ようにもこのヒトがソファを占拠しているので寝れずにいる。


「ところでカヲルくんはどんな女性が好きなの?」

「ベロンベロンに酔っ払わないヒトですかね。」

「ほーうほーう。なるほどね、メモメモ。」


手に何も持っていないのに何かを書く真似をする。
いつもなら気に触らないテンションの高さだけれど、
今日はお酒の力を借りているのかすごく高い。

やはりさっきマズイかもしれないと思った瞬間に取り上げておくべきだった。


「男の子は胸重視?」

「アセドアルデヒドという物質は知っているかい?君は吐き気はないのかな?」

「胸はやっぱりおっきいほうよね。うんうん。」

「はぁ……。」


ニコニコと機嫌がよさそうに笑っている顔をみると怒る気も失せてしまった。
とりあえずどうにかしてこの大人を部屋で寝かさないと……。

またチューハイに手を伸ばしていたので横から奪い取る。


「なにおう!大人の楽しみってやつなんだから!カヲルくんも飲めればいいのに……一緒に飲みたい……。」

「嬉しい誘いですが、僕はもうこのアルコールの匂いだけで酔いそうですよ……。もうやめていたらどうです?」

「……酔ったの?」

「酔っているのはどなたですか……。」


ため息が勝手に出てきた。たまに名前さんは子どもっぽくなってしまう時がある。
そんな表情、僕は嫌いじゃない。
赤くなった頬のせいでその顔がどこか扇情的だ。

缶を持っている手を掴まれて、ポンポンと自分の隣のソファを叩く。
渋々と座ると対照的に名前さんは床へと落ちるように座り、
僕の前にくると上半身が僕のふとももへと乗ってくる。


「……何をしているんですか……。」


その行動に冷静に返してみたけれど、ふとももに感じる柔らかさに少し熱があがる。
僕の焦りはお構いなしにずりずりと這い上がってくる彼女。

……ヘビみたいだ。少し熱がひいた。


「カヲル、くん、いなくならないよね?」

「……。」


一瞬、以前の記憶が戻ったのかと思った。
……今の彼女は違う名前さんだ。まだ、僕の気持ちを知らない彼女。

カヲルくん、好きだから、と掠れた声で求められるとグラグラと揺れだす理性。
這い上がってくる彼女、釘付けで身動き出来ない僕。

そして、彼女の唇が喉へと当たる。
彼女の熱い吐息が喉へとかけられ、反応せずにはいられなかった。


「……、名前さん、……。」


まだ行動は起こしてはダメだ。僕が僕である限りは……。
……

……

あれ?


「名前さん?」


顔を覗き込むと僕に身体を預けて寝息を立てていた。


「まさかの『お約束』ってパターンか……。」


思わず力が抜けてしまった。大事なところだったのに……。
そう、期待していた僕がいて。
左手ですっかり深い眠りに落ちている彼女を支え、右手を自分の顔に持っていく。
顔は熱を持っていて、きっと僕は情けない顔をしている。


「へへへ……。」


こんな気持ちにさせられて、複雑な気持ちだったのにそんな彼女は幸せそうに笑いながら寝ている。
すこし苛立ちを覚え、痛みがくるであろう力で頬をつねってみる。
どうやら起きないようだ。

しょうがなく頬を放し、膝の裏から持ち上げおんぶをするような形で寝室まで抱えた。






「おはよう!なんだかカヲルくんの匂いに包まれているせいかカヲルくんの夢みた!っていうかこの部屋アルコール臭クサ!!!」


そんな能天気な声で次の朝起こされた。少し頭が痛い。
僕がソファから身体を起こすと何故かヒッと小さく怯えられた。


「名前さん、二日酔いは?」

「あー、ないみたいだね!私強いのかも!」

「へェ、じゃあ缶を口に固定してそのまま生活しても大丈夫なんだね。」

「それは別の意味で大丈夫じゃない!」


……もう二度と彼女に大量のお酒を飲ませないとココロに誓った。

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