▽ 27-最終話-
「ついにシナリオが終結を迎えるか。」
「碇、ネルフは返してもらうぞ。」
「一番目の少女の出撃要請が出ているぞ。」
「碇に渡して構わん。どうせシナリオは変わらんさ。」
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「ロンギヌスの槍か……。」
最後の使徒は鈍色に光る四号機を使い、
その白い巨体に刺さっている槍を引き抜き、後ろを振り向き投擲体勢に入る。
「カヲルくん……っ!やめてよ!止まってよ!」
「碇くん!危ない……ッ!」
「綾波ッ?!A.T.フィールドが……!」
四号機の持っていたロンギヌスの槍が零号機のA.T.フィールドを破ると、
勢いを殺せなかった槍はそのままの速さで零号機を貫く。
「神の血を吸った槍を手に入れることが彼らの計画には必要不可欠だった。そして、その計画もフィナーレとなったようだね。碇シンジくん。観客は君一人だけだ。」
「カヲルくん!ねえ、止めてよ!使徒なんて嘘だよね?!」
「……シンジくん、僕はヒトに憧れていたのかもしれない。」
――不意に空洞に響く、携帯の着信音。
音を聞いた渚カヲルは何かに縛られたかのように動きが止まった。
その隙をつき、初号機は走り、渚カヲルに追いつき初号機の両の手で握り締めた。
彼と向き合ったシンジ。カヲルの瞳は何故か泣きそうであり、優しさをふくんだ瞳だった。
「シンジくん、君は何を望むんだい?」
「か、カヲルくん、君が何を言いたいのか僕にはわからないよ……!」
「僕はね、」
願わくば、君たちと、名前さんと
――生きたかった。
「…殺しておくれ。」
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「メールより電話の方がよかったかな?……って、繋がらない……?さっきまでメールは行ったのに……?」
電話の聞き取り口からはただ無機質な声で『お客様のおかけになった番号は……』と繰り返すばかりだ。
……少し、嫌な予感がした。
「苗字三曹、今いいかしら?」
「うっわ!びっくりした……か、葛城三佐と赤木博士?」
二人がいつの間にかドアに立っていた。仁王立ちをし、かなり険しい面持ちだった。
彼へと繋がらない携帯を切り、ポケットにしまう。
「謹慎処分の期間だけれど、少し長引かせてもらっていいかしら?まぁ、もう決定済なんだけれどね。」
「それは構いませんが……。」
「あと身体検査を定期的に受けてもらうわ。これに一応今の身体状況を書いてて頂戴。」
「ぐう……、わかりました。」
多分、あれだよね……受精してる可能性だってあるんだからね……。
その場合ってどうすればいいんだろう……。カヲルくんの立場が危うくなるのかしら。
それじゃあ、と赤木博士が言って行った。葛城三佐はこちらを見ようともしていなかった。
「……どう思う?使徒と人間との子供、の事。」
「彼女の為を思えば、殺すのが良策じゃないの?お腹の中に化物がいるのよ。どんな状態、どんな形状、どんな出かたでくるかわかんないのよ。」
「そお?渚くんは人間のカタチをしていたじゃない。案外人間の形をしているのかもしれないわよ?」
「それでも使徒は使徒よ。忌むべき存在なんだから。リツコは科学者の立場からしたら興味あるでしょうけれど。」
「……そ。冷たいのね。」
そんな会話が外でされているとは露知らず、私は彼との将来を少し考えていた。
まだ受精したわけでもないのに、じんわりとお腹に温かみを感じる気がしてお腹に手をあてる。
「うわっ!!び、びっくりした……。」
途端に鳴り響く警報に肩が跳ねた。
使徒だろうか……、の割には何も情報が入ってこない。
使徒だった場合は流石にここを出してくれるだろうけれど……、と思いながらドアを触ったが結局開かず。
情報を手に入れようにもテレビしかないし……。念のため、自前の拳銃を握る。
握った瞬間、更に警報が鳴り響く。
「ちょ、ちょっと、これってマジでヤバいパターンじゃないの……?!こんっの!」
ガンと蹴りをドアに入れてもびくともしない。多分、開いたら開いたで「それ、謹慎処分する気ないでしょ」って感じになるだろうけれど。
一息ついたら蹴ったおかげか少し冷静になってきた。
…………、何か、聞こえる。
悲鳴?
銃声?
反射的にドアに張り付いてドアの外の音を聞こうと耳を張り付ける。
よりリアルに銃声も悲鳴も聞こえるようになった。
「な……、なによ、これ……。ど、どういうこと?銃声?使徒がここまできたってこと?」
一歩、一歩と下がるとガン、ガンと自分がいる部屋がノックされる。
違う、ノックじゃない。さっき私が蹴った時と同じ音だ。
もう一歩下がる。
職員だったらカードを使ってあけるはずだし
もう一歩。
パスワードだって知ってるはず。
もう一歩。
――じゃあ、誰?
目に付いたクローゼットに飛び込み、ドアを閉め息をひそませる。
拳銃のロックを外して胸元によせる。
心臓が大きく跳ね、その度に胸元にある手と拳銃が一緒に跳ねる。
大きな音と共にバタバタという音が近くなる。
入ってきた。そう感じるとともに火薬の匂い。
銃?火気?酷い匂い……。
隙間から覗くのは軍服。
……人……?
使徒じゃないことに少しの絶望と軽いパニック。
二人いるうちの一人の足がこちらにむかってくる。
バクン、バクンと心臓が聞いたこともない音を鳴らしている。
これが死を直前にした人の心臓の音なのだろうか。
手をかけられた瞬間、ぱちゃん、そんな音が聞こえた。
10秒、20秒……なにも来ない。
隙間に見えていた人も見えていない。
軍服のかわりに黒いズボンが佇んでいた。
何が起こったのか頭を整理させていたが、口が開くだけで全然理解できなかった。
人が消えた?まさかそんな手品のような事を今するか?
気になりソロソロとクローゼットから顔を出すと、部屋の中心にカヲルくんが立っていた。
足元の少しオレンジの色のついた水をみて悲しそうな顔をしている。
「か、カヲルくん。」
声をかけたと同時に酷い地響きがして、クローゼットから転げ落ちてしまった。
カヲルくんから、鼻で笑われた。
畜生、こっちはお前のことで悩んでいたというのに……!
「僕はまたここに立っている……どうしてだろう、魂は別のところにあるというのに……。いや、『僕』ももうすでに……」
「えっと、頭ぶつけた……?というか今の地響き何……?今何が起こっているの?」
「彼らのいうところの『人類補完計画』ですよ、名前さん。生命の樹へとたどり着くまでの神の使いを殲滅しましたからね。……なんだか、名前さんと話していると気が抜けますねェ……、シリアス場面壊すってすごい、なんというか空気がよめないというか……。」
「リラックスが出来ているということだね。ポジティブシンキング!」
「プラス思考か楽観的というならば後者だね。……僕、一つやり残した事があるんですよ。」
普段のカヲルくんにどうやら戻ったようだけれど……ところで人類補完計画ってなに?人類すべてをシェルターにでも輸送するの?
となるとさっきの軍隊はヘルプの人だったのか。
「あなたに、あと一回、好きと言われてないんです。」
え?
「心残り、といえば良かったんでしょうか。罰ゲームの残り一回ですね。結局、僕は最後の最後まで一人の異性とは見られていても、一人の男性とは見てもらえなかった。それは、『僕』が身体を重ねたあとも、変わらない。」
「どこか、対等ではないんですよ、名前さんは。一線を引いているというか、大人ぶって一歩引いているというか。」
彼は私に近づくと、力強く抱きしめてくれた。
今度は彼を小さい男の子とは、思えなかった。
「僕を、一人のニンゲン、一人の男として見てください。どうか僕を受け止めてください、名前さん。」
「……ごめんね、気づけなくて……。私、カヲルくんを見ているようで、ちゃんとみてなかったのね。」
以前感じた小さい背中に手を回すと意外と大きかった。
体をおしつけて彼を近くに感じたかった。
「好き、カヲルくん。」
「僕もです、名前さん。」
お決まりのように、見つめ合って、
そして私たちはお決まりのように、唇を合わせた。
行為の間には一度もなかったキス。
心が溶け合うような、初めてのキス。
そして、――――
「おやすみなさい、名前さん。また出会えることを信じているよ。」
――……そして私の物語の終わりを告げる。
(end)
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