「電車に乗ってどこかにいこう。」
そんな突然のお誘いに私は頷くことしか出来なかった。
よく頭で理解しよう。今カヲルくんはなんていった?
どこかに出かけよう?しかも電車で?
遠出?!
私はちゃんと理解するとカヲルくんの言っていた事に何度も何度も頷いて肯定する。
「あは、そんなに頷くと頭取れちゃうよ?」
「だって、だって嬉しくて……っ!」
どこに行くんだろうとか、誰と行くんだろうとか、すごく気になるけれど
今居る場所が図書室だったのでずっとおしゃべりをするわけにも行かず、
私が何を言いたいかわかるかな?と思いながらチラチラとカヲルくんを見ていたが
結局彼は楽しそうに私の方を見ずに笑うだけだった。
約束の当日、駅で待ち合わせをしているとカヲルくんが遠くからやってきた。
未だ、待ち合わせは二人だけ。
もしかして……なんて淡い期待は捨てたほうがいいよね。
「カヲルくん、こんにちは!えっと、他の人たちはまだかな?」
「他のヒト?名前しか誘ってないけれど。」
「へ?」
期待を捨てたばっかりなのに。そんなこというから私はまたカヲルくんが好きになるんだ。
じゃあ、もうちょっとおしゃれしてくれば良かった。
髪型もちゃんと気合を入れて……。
「今日は雰囲気違うね。」
「え、そ、そうかな。もうちょっとしっかりしてくれば良かったね……。」
「いや、イイと思うよ。名前らしくて。僕そういうの好きだよ。」
「ホント!?」
乙女心なんてたった一言でどちらにでも転がるもの。
さっきまで違うのを着てくれば良かったなんて思ってたのに、今ではこの服を選んだ自分に親指を立ててグッジョブと言いたい気分だ。
ましてやカヲルくんから「好き」と言われたんだ。
もう、この服様様だ。
「じゃあ、電車乗ろうか。時間もあと10分で発車するし。」
「うん!ところでカヲルくん、今日はどこに行くの?」
「……内緒。」
「えー……。」
なんだか今日、ホントに恋人同士のデートみたい。以前行ったような中学生らしいものではなくて、大人な感じ。
私の為にデートプランを考えてくれたなんてすごく嬉しすぎる……。
そして電車は私達を乗せてゴトンゴトンと揺れながら動き出した。
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「そういえばさ、何かで見たことあるんだけれど、電車のカンカンカンって音と電車のゴトンゴトンって音が
『オカンオカンオカン』と『オトンオトン』に聞こえてくるっていうのを見てから僕この音がそう聞こえてくるんだよね。名前は……、あれ?」
随分と静かだったからせっかくデートに来てるんだし、
何かを話そうと思い自分の頭の中の引き出しから電車関係の話を出してきたんだけれど、
名前の方を見るとすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
なるほど、静かだったのは寝てたからか。
じゃあ話しかけるのをやめよう、と思い前を向いたらゴツという音とともに痛みが肩に走った。
「?!」
驚いてみると自分の頬にくすぐったい何かが当たる。
……これ、名前の頭?ということは僕の肩に寄りかかったのか。
「よく今の痛みで起きなかったね。」
体勢を元にもどさせようと肩で押してまっすぐにさせる。
ふう、と息をついた束の間、またしても名前の頭は僕の肩に戻ってきた。
くすくすと笑い声が聞こえる。
何だかもう恥ずかしくなってきたから押しもどすのも止めた。
「名前、恥ずかしいんだけれど……。」
「まあまあ、お若いの。寝せて上げなさいな。いい夢を見てるから起きたくないんだろう。そんな二人の時間も大事にするもんだよ。」
「二人の、時間。」
隣に居る初老の老人の言うことを自分の頭の中で考える。
確かに今日はそういった時間をつくる為に誘ったけれど。
名前の顔を見るとまだまだ起きそうもなかった。
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「名前。」
「ふぁい!」
なんだか揺れが酷いなぁ、なんて思ってたらカヲルくんが揺らしてて……ってアレ?!私寝てた?!
カヲルくんと一緒に居たのにもったいない……。
「よく寝れた?」
「うん、……ごめん、寝ちゃって……。首も痛いし……。」
「いーよ、別に。そういう時間も人生を楽しむ一興だと教えてもらったからね。」
「えっと、誰に?」
「老人。」
「え、本当に誰?!」
その後も何故か「時間が」だったり「時間を」だったりとカヲルくんは呪文のように何度か呟いていた。