誕生日を、その日に祝われた一番あたらしい記憶はいつだろう。
思い出してみると保育園のころは、祝われてた気がする。母さんも父さんもいつもは仕事で遅いのに、その日は早く迎えにきて、ケーキとプレゼントとおめでとうをくれた気がする。詳しいことはあんまり覚えてないけど、年長の時にいつものように迎えが最後になって今日はどれくらい待つのだろうと考えていたら、どたどたと母さんがやってきて、遅れてごめんね、と俺をぎゅっと抱きしめたことはよく覚えている。俺は誕生日だということと、遅くなることが全然結びつかなくて、それはいいからはやく家でケーキを食べたくて仕方がなかった。
小学校に上がってから、だんだんとそういうのはなくなって、祝ってくれはしたけど、日は早まったり遅まったりしたし、ケーキはサンタがのってたりしてたし、プレゼントの入った袋は完全にクリスマスだった。それも最初は、なんかクリスマスの方が主役みたいでヤだな、と思っていたが、少しくらいしてからそんなことは思わなくなった。まあしょうがないかと思うだけだ。クリスマスだろうが、誕生日だろうが、どっちにしてもごちそうは作ってくれるし。プレゼントは二つもらえるし。どんな見た目だろうが、美味ければ、貰えればそれでいい。それは昔も今も変わってない。
中学校に上がったら、誕生日を聞かれることもなくなって、ほとんど自分でもその存在を忘れていたように思う。その日が近づいて母さんに、あんた欲しいものないの、と言われてやっとそういえばと思い出すような感じだった。別に、祝って欲しいとも祝われたいとも思わなかった。そんな時間があるならバレーがしたかったし、もっと強くなりたかった。誕生日なんていらなかった。
だから、今日はびっくりした。
部活にいったら、部室をあけた瞬間にクラッカーを鳴らされて、何が起こったのかわからないうちに誕生日おめでとう!と一斉に叫ばれた。訳がわからず目をぱちぱちさせていると、近寄ってきた菅原さんが"本日の主役"と書かれたタスキをかけてきて、放るように渡されたぐんぐん牛乳とおはヨーグルを慌てて受け取ったら、出した手にお菓子やらパンやらが次々のっけられて落とさないようにするのが大変だった。ものを乗っけられながら、田中さんに頭をかき混ぜられたり、西谷さんに背中を叩かれたり、その周りで影山おめでとうと言われたりした。その一連のお祝い(?)が終わったあとに、月島が誕生日おめでとうと言ってきたときは、変にじーんとしてしまった。
今日のことを思い出すと、ちょっと足が早くなる。口元がゆるむ。ああやって祝われることは初めてだったから、なんとなく照れくさくて、でも嬉しかった。
いつもより帰る道のりが短い気がする、と考えていると、後ろからいきなり名前を呼ばれた。
「影山じゃん」
それに思わずバッと振り返る。そこには眠たげな顔をした男と髪を逆立てた男がたっていた。それについ、げ、と声を漏らす。お前らがなぜここにいる。
「げっ、マジでお前かよ」
向こうも声を漏らして、すこし嫌そうな顔をする。うるせー、お前らだってなんでここにいんだよ。そう言ったら金田一がむっとした調子で答えた。
「ここら辺が家の友達と遊んでたんだよ!」
「ちょっと金田一うるさい。」
久しぶりだね、と相変わらず淡々と言う国見はいまいち何を考えてるのかわからない。そうだな、と返すと、国見が少し目を細めた。
「なんか、荷物多くない?」
「あ"? あー、もらったんだよ、いろいろ」
「なんで?クリスマスはまだ早い・・・あ、そうか。お前、今日誕生日か」
なるほど、と手を打った国見の一言に目を見開く。俺の誕生日知ってたのか。そういう前に国見が口を開いた。
「おめでとう」
その一言に、自分が言おうとしていたことをも忘れて、その場で固まってしまった。それに続けてなんでもないように金田一も口を開く。
「あーそうか、誕生日おめでとう」
続けざまに言われて、さらに固まる。思わず、え、と声を漏らす。それになんだよ、と金田一が首を傾げる。
「お前ら・・・俺のこと祝えたのか・・・」
「ハァ?何言ってんだよ、これぐらい普通だろ。」
普通、か。
繰り返して、その一言にすこし胸が痛む。
だって、俺たちにはその普通すらもなかったのだから。
後ろめたくて目をそらすと、影山、と金田一が俺を呼んだ。
「影山、今度戦うときは俺達が勝つからな!」
俺はその言葉に、瞬きをする。ああ、そうだ。俺には今の仲間がいる。あのとき俺は間違っていた。けど、前に金田一に言われたとおり謝らないし、だから、忘れない。
その金田一の真っ直ぐな視線にこたえて、自分も見つめ返す。
「おう。今度も俺達が勝つ」
そう宣言したら、国見もこちらを見た。俺でもわかる。これは次の戦いに闘士を燃やしている目だ。
「言うね。次は負けないよ。じゃあね、影山。」
「またな」
そう言ってこちらに背を向けかけている金田一と国見に、おう、と返事をしたあとで、そういえば言っていなかったと付け足す。
「あ、ありがとな。」
照れくさくて口がうまく回らずぼそっと言う形になってしまったが、それでも金田一と国見には聞こえたらしい。二人は驚いたように顔を見合わせると、こっちを向いてもう一度、誕生日おめでとう、といった。なんだかまた無性に恥ずかしいような、むずむずする感覚。あーなんかもー、うー。
なんとなくニヤニヤしているような気がする国見と金田一に耐えられなくなって、じゃあまたな!と叫んで家に向かって歩き出した。またな、っていつだろうな。近くだったら恥ずかしさで死ねる気がする。うん。
そうやって歩き始めたら、今度はケータイが震えた。立ち止まって取り出して見れば母さんからのメールで、『誕生日おめでとう。今日はすぐ帰ってこれる?ケーキとカレー用意して待ってるわ。今日は父さんもいるわよ。』と書かれていた。じっと、それを見つめてから、すぐかえる、と返信してケータイをしまう。
なんか、たまらなくなって走った。



(Happy Birthday!)


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