「またたぎ、」
なんの説明もなく部屋の中に押し込められて、そうやけに熱っぽく名前を呼ばれた。扉を閉めてからずっとこちらへ引っ付いて俯いていた天馬のその声に俺は内心驚いていた。
「なんだよ、キャプテン」
出来るだけ、何も感じませんでした、みたいな声色を意識して出して尋ねる。すると、天馬は俯かせていた顔をゆっくりあげた。
「ちゅー、したい、」
いきなりの要求に今日二度目の驚き。驚いて何も言えずにいると、天馬は不安そうな顔をして、だめ?と言った。上目使いに首を傾げていわれれば、断れるはずもなく。いや、そうじゃなくても断らないけれど。むしろこっちからするけど。聞かずにすればいいのに。顔真っ赤だし。わざわざ言われる方が恥ずかしい。
いった後で視線をあっちこっちうろうろさせながら、でもたまにこちらを伺ってくる青い目に、俺はため息を吐いた。
「勝手にすれば?」
わざと不機嫌そうに言って、壁際に置かれているベッドに腰掛ける。天馬はそれにちょっとおろおろしたけど、おずおずとこちらへ近づいてきて俺の髪にキスをした。そして、額、頬、とまさしく唇を落としていく。それに、てっきり口にしてくると思っていたので、目を丸くさせてしまった。喉元に唇を寄せながらちらとこちらを見た天馬は、えへへ、と笑って、今度は首筋に唇を寄せた。なんとなく犬にじゃれつかれているような感じがする。なんとなく物足りないような気持ちになる。
「ちょっとキャプテン、くすぐったいんだけど」
そういうと天馬はぴたっと動きを止めて、ゆっくりと離れた。
「うん…ごめんね。」
少ししょんぼりした様子の天馬の襟をぐっと引っ張って唇を奪った。目を見開いた天馬に少し満足する。そのまま唇にちゅっとわざと音を立ててすぐに離した。
「するならちゃんとしろよ。」
俺がそう言うと、天馬はぱっと顔を明るくさせて、唇を押し付けてきた。ぺろ、と下唇を舐められたので、こちらも口を開けて天馬の舌と絡める。湿っぽい音が響いて、妙にこっぱずかしい気分になるが、やめられない。
幸せの塊を舐めているような感じがする。甘ったるくて、口から溶けてしまいそうだと沸いたことを脳が思いだす。あついけど、でも、離れたくない。
皮膚と皮膚をくっつける、ただそれだけの行為が、どうしてこんなに幸せなのだろう。温かい。そう思ったら、鼻の奥の方がつんとして、不覚にも視界が滲んだ。
唇が触れ合っていた感覚が離れて、茶色のクセ毛が見える。今度はキスするためでなく、こちらを覗き込むために天馬が近づいて来た。澄んだ青い目が、こちらを見ている。
「瞬木、なきそう?」
ただ心配しているといったようなその目線に、気まずくなって目を逸らす。まっすぐ過ぎて眩しい。でも、ここちいい。
「…気のせいだろ。それより、もっと」
キスしてよ、と天馬の耳元に口を寄せて囁く。天馬は目に見えて嬉しそうに目を輝かせて、体重をかけて俺を押し倒した。近づいた体の、とくとくいう心音まで聞こえる。そうして近づいて、ただ唇を押し付けあう。たったそれだけなのに、やっぱりあたたかくて、この上なく幸せだと思えた。


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