「久藤ってさ、」
 先生と話してるとき機嫌いいよな。

 そういわれたのはいつだったか。でも確かにそういわれたのだ。その時僕は本を読みたかったからあまり気にも留めず、そうかな、と曖昧な返事を返した様な気がする。でも、なぜか今ふっと思い出した。
 よく考えると、先生と話してて機嫌がいいってどういうことなのだろう?人と話すことに機嫌がいいもなにもないと思うんだけど…。楽しそうってことなのかな…?
 それは、たぶん楽しくないと言うと嘘になる。だから、きっと先生と話すことは楽しいのだと思う。
 でも、僕はそんなに表情を表にだす方ではない(少なくとも自分はそう思っている)から、他人に『楽しそう』と言われるほどそうなのかと思うと、少し恥ずかしい。

 それから、先生と話すことがあった。けれどそんなことを考えたせいかうまく話せなかった。今変な顔してないよねとか変に気にしてしまって、しどろもどろになってしまったのだ。それからいつもの調子を取り戻そうと焦ったせいか喉はカラカラになるし、心臓はばくばくと煩いくらい音をたてるし、恥ずかしくて顔は赤くなったような気がするし、とにかくどうしていいのか分からなかった。話し終わったあとで、どうしてこんなに気にしているのだろうと不思議に思った。そのときはそんなことを考えなければいい、と完結させた気がする。でも、いざ話すとどうしても気になってしまって、前と同じような感じになってしまうのだった。
 だから、しばらく先生と話していなかった。


「久藤くんは、私のことが嫌いですか?」
「は…?」
 先生は突然僕にそういってきた。しかも、半泣きで。
 突然のことで驚いたのもあるだろうけど、やはり心臓はばくばくと音をたてていた。けれど、そんなことよりどうしてそんなことを聞いてきたのか(しかも半泣き)が気になった。
「どうして、突然そんなことを?」
 僕がそう尋ねると、先生は一度大きく鼻を啜ったあといった。
「だって、最近、私を避けている、でしょう?」
 その通りなのでなにも言えないでいると、先生はやっぱり、といって話しはじめる。
「そうだと、思ってたんです、いままで普通にしてましたけど、ホントは私のこと最初から、嫌いだったんでしょう?最初は露骨に嫌うのが「ちっ、ちがいます!!」
 このままいい続けられたら先生はきっと酷いことを言うに違いないので、思わず話を途中で遮った。先生はじとっ、と僕のことをうたぐる目で見ている。僕は思わず制服の裾を握りながら俯いた。
「ちがい、ます。そうじゃなくて、」
「そうじゃなくて?」
「先生と話すと、その、心臓がバクバクして、」
「はあ、」
「緊張してしまうから、先生と話したくなかったんです」
 そういった瞬間ぎゅう、と握っていた裾をさっきよりも強く握りしめた。先生はなにも言わない。気になって、俯いていた顔を少しあげて見ると、先生はなぜか顔を少し赤くさせて、文字通り目を丸くして驚いていた。
「…先生?」
「あ、あの、久藤くんそれって、もしかして、こ」
 こ?と聞き返すと先生は、なんでもないです、といいながら大きくかぶりをふった。


(それで、今は?)
(先生に言ったら、なんだか治りました。)
(あー…それは、よかったですね…)



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