仲良くなってしまった。あのゲスで最悪で性悪な花宮真と。

 きっかけは数日前、ちょっと遠くの図書館へ行こうと、国立図書館へ行ったときのことである。
 その図書館で偶然読みたかった本が見つかったので、ボクは上機嫌だった。その本は近所の図書館にはなく、予約しようかとおもっていたところだったので、すごくうれしかったのだ。
 他になにを借りようかと上機嫌で本を選んでいるところで、人にぶつかった。ぶつかった、といっても、そんなに強くぶつかった訳ではない。とんと相手の二の腕辺りに自分の肩が当たってしまったくらいのものだ。
 ボクはそれにすいませんと反射的に謝ったあとで、謝ったことを後悔した。その上ボクは思わず眉をしかめたのだけれど、ボクは悪くない。
 だって、相手が花宮真だったのだから。
 花宮…さんは、ぶつかってきたボクにとても驚いたようで目を丸くしさせてぱちぱちと数度瞬きしたあと、ふはっといって笑った。
「お前、マジで影薄いな。全然気付かなかったぜ」
 にやにやと笑みを浮かべながらそういった花宮さんに、そりゃあどうも。じゃあさよなら、といってボクは頭を下げて立ち去ろうとした。
 が、その前に腕を掴まれてしまったのでそう出来なかった。
 それにボクは思わずチッ、と聞こえるように舌打ちをしたので絶対にそれに気付いているはずなのに、花宮さんは全く気付かなかったように話し出す。
「おいおい、会って数秒でさよならはねえだろ」
「なんでですか。別にボクはあなたと話すことはありませんから」
「袖触り合うも多生の縁、っていうだろ?」
 ちょっと付き合えよ、と言われて、ボクとしては大変不本意なのだが「マジバでバニラシェイクおごってくれるなら」という条件を(しぶしぶ)だして、花宮さんと“ちょっと付き合った”のだ。
 それから、ゲーセン(花宮さんはダーツが異常に上手かった。それがなにか悔しかったのでボクはクレーンゲームで大きなウサギのぬいぐるみをとって花宮さんにくれてやった)やらなんやらとあちこち連れられたあと、最後にボクとしてはお待ちかねのマジバへ連れられたのだった。
 バニラシェイクが飲めて結構機嫌が直ってきたところで、おもむろに花宮さんは鞄から本を取り出した。
「これ、貸してやるよ」
 そういって差し出されたその本は、赤茶色のしっかりした装丁のハードカバーの本だった。ボクはバニラシェイクを啜りながら小首をかしげる。
「なんでですか?」
「…面白かったから、って理由じゃダメか?」
 そういわれると、とくに断る理由がなかったのでボクは花宮さんから一冊の本を借り、返すときのためにメールアドレスを交換して別れた。
 隣で歩いてるとわからなかったけど、遠くからみると、ウサギのぬいぐるみが入った袋を提げた花宮さんはアンバランスで少しおかしかった。似合わない。超絶に。あげたのはボクだけど。

 それで、図書館で借りた本は全て読み終わったので今は花宮さんから借りた本を読んでいるのだが、これがなかなか面白い。ミステリー物だったそれはひきが上手く、さわりだけ読むつもりが読むのを止められなくなっていた。
 バスケのプレイはともかく、実生活ではそうゲスい人でないのかもしれないとボクは少し花宮さんを見直した。
 そろそろこの本もクライマックスだ。主人公が犯人のトリックに気付いたらしい。読み始めてから、いつのまにか二時間が過ぎていた。
 読み終わったら、花宮さんにお礼のメールでも送ろう。
(ん…?)
 ページをめくると、一枚のメモが挟まっていた。ボクは何の気なしにそれを引き抜いて、書かれていた文字を読んだ。

 ボクは本を閉じる。ケータイを取り出す。ケータイを開く。花宮さんにメールを送る。ケータイを閉じる。立ち上がって本棚からミステリー小説を取り出す。ペンと紙をとる。この間約一分。我ながらなんと流れるような素早い動作だろうと感動した。
「花宮真…許すまじ…」
 呟きながらぐしゃりとメモ用紙を握り潰す。
 その握りつぶしたメモには、事件の犯人とトリック、そしてご丁寧に犯行動機までもが憎らしいほど綺麗にまとめられていた。
 前言撤回。花宮真はゲスい。ていうか、酷い。ちょっとでもゲスくないと思った自分を殴ってやりたい。あんなの時間泥棒だ。絶対許さない。
 仕返しに同じことをしてやろうとボクは手に取ったミステリー小説の犯人とトリックを紙に書いて一番盛り上がるところに挟んだ。




(好きな子ほどいぢめたいんです!)


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