机の上に置かれている身に覚えのない十五センチ四方の小さなダンボール箱に、竜司は首をかしげた。竜司が返ってくる前に母親が受け取ったらしいのだが、段ボールに貼られた宅配状は差出人の所は空欄で、書かれているのは竜司の名前と住所だけであった。最近通販を頼んだ覚えもないし、こうして何かを送りつけてくるような知人に心当たりはない。
 不審に思いながら竜司は軽くその箱を振ってみる。ごそごそと何かがぶつかる音がする。たいした重さはない。竜司は少し悩んでから、ハサミを取り出して、ダンボールに貼られたテープを切る。そうして恐る恐る中を見ると、緩衝材がわりらしい質の悪い紙と黒い四角柱の箱が入っていた。表面に白で『Joker』とだけ印字されている。
「じょー……かー? なんだそりゃ」
 黒い箱を手にとって中をあける。そこには薄いピンク色をした円柱状の物体が入っていた。それをみて竜司はハッとする。
 これ、オナホだ。
 オナホ。男性用生理用品。十八歳未満は購入できないアレである。めちゃくちゃ気持ちがいい、とはいつぞやの同級生の弁だ。
 竜司は中を見ながらごくりと唾を飲む。
「竜司〜?あんたご飯食べたの?」
 リビングから聞こえてきた母親の声に竜司ははっと我にかえる。慌てて箱を閉め、ダンボールの中へしまう。まだだと返事をしながらそれを机の引き出しの中へ放った。怪しまれないよういつも通りを装って部屋を出たが、内心は高ぶっていた。
 やべえ、早く使ってみてえ……!
 どこの誰が送りつけたとも知れない物体など気味が悪いが、性の前で男子高校生は無力だった。

 深夜12時。朝の早い竜司の母親はとっくに夢の中の時間帯である。そして今の竜司にとって待ちわびた時間帯でもあった。竜司は逸る気持ちで引き出しにしまったダンボールの中の黒い箱の中身を取り出す。ビニールに包まれた薄ピンクのそれを、ビニールを破ってまじまじと観察する。そしてその挿入口を見て、竜司は違和感を抱く。
 これ……ケツじゃね?
 がっくりと肩を落とす。なんだよ、期待させやがって。盛り上がっていた気分が一気に萎え、ベッドの上にオナホを投げる。盛り上がっただけに萎え具合がひどく、片付けるか、とのろのろと黒い箱を取り上げる。かさ、と何かが音をたてた。中を覗くと、紙と小さな瓶のようなものが入っていた。箱を逆さにして全部取り出す。紙は説明書、小瓶はローションらしい。畳まれた紙を開いて説明を読んでみる。
『初物アナルを完 全 再 現! 初めはキツキツ 後はふわふわ あなたのちんぽで強情アナルを屈服させよう☆』
 まず目に飛び込んできた一文に、どういうコンセプトなんだと眉をしかめる。少し考えた後、竜司は説明書から顔を上げ放り投げたオナホを見やる。
 ……正規ルートで求めるなら最低あと1年は手に入らない代物である。もちろん通販という手が無いわけではないが、実家住みの高校生には中々にハードルが高い。母親に中身がばれることなくここまでたどり着いた、というのはもはや天命ではないだろうか。
 きつきつで、ふわふわかぁ……
 深夜12時。男子高校生は好奇心と性に勝てなかった。

 竜司はオナホを再び手に取ると、まず穴に人差し指を突っ込もうとした。が、固すぎて指の先ほどしか入らない。完全再現って、そんな完全再現なわけ?と竜司は面倒くさく思いながら、説明書に従って穴を開いていく。
 まず小瓶のローションを少量穴に垂らす。それを周囲に塗り込めるようにして馴染ませたあと、穴の中に塗り広げていく。すると最初は爪先程度しか入らなかった穴が指を飲み込はじめた。少し広がった穴にローションを継ぎ足して、指を動かす。ぬちゅぬちゅと音をたてるローションに竜司は気分が盛り上がってきた。
 ふと顔をあげると竜司の目にパッケージの白字が飛び込む。ジョーカー。竜司の頭の中に、一人の人物が浮かぶ。顔の半分を覆う白いマスクに、闇に溶けそうなコート。全体的に黒いその中で唯一手袋だけが赤い。見えている口元を悪役さながら歪ませる姿は不遜で頼もしい。ジョーカー。俺らのリーダー。
 そこまで思い浮かべて、頭の中で妄想が浮かぶ。あの不遜な俺らのリーダーが、自分の下で淫らに喘いでいる、なんていう妄想。仮面の下、普段は眼鏡で隠れて見えない大きな目を潤ませて、眉根を寄せている。恥ずかしそうな、それでいて快楽を感じているような顔をして、こちらを見ている。全身黒ずくめの隙の無い服装は乱れ、着替えの時に見た白くて薄く筋肉のついた体を惜しげもなく自分に晒している。
 脳裏に浮かんだ映像に生唾を飲み込む。知り合いの顔を思い出して萎えるどころか興奮してしまっていることにまずいと思いながらも、穴を広げる手が止まらない。穴の締め付けと温度、ローションの音が竜司の思考を奪って、目的をひとつに集約させていく。
 竜司の頭の中で、マスクが外れてしまったジョーカーが、恥ずかしそうに顔を背けながら下唇を噛んでいる。それでいて潤んだ目を睨むようにこちらに向けているのがたまらない。中の浅いところにある、少ししこりになったところを擦るとジョーカーは声をあげて乱れる。その合間にとろんとした大きな目がこちらを見て、竜司、と呼んだ。声が脳内に響く。ジョーカーが潤んだ目のまま、あの不敵な笑みを浮かべた。早くしろ、と唇が動く。
 竜司は指を引き抜き、すっかりたちあがっている自身を取り出す。軽く一、二度扱いたあと、指を三本飲み込めるようになった穴を近づける。手が震えてうまく入らず、竜司は思わず笑う。どんだけ興奮してんだよ。すっかり上がった呼吸を整えるように一度深呼吸して、穴に自身を突っ込んだ。しかし広げた、といっても穴は竜司のものを飲み込むにはきつく、すぐには中に入らなかった。じりじりと押し広げるようにゆっくりとしか進まない。じれったい気持ちで、ほとんど無理やり押し込んだ。
 しかし、それは竜司の亀頭を飲み込むと、ずるりと全体を飲み込んでしまった。温かい内部に予想外にぎゅうっと締め付けられ、その衝撃で竜司は射精してしまう。
「あーっ、ま、っ、これ、ヤバッ」
 射精している間も締め付けられ、休む間もなく再び勃起する。衝動のまま今度はオナホを上下に動かす。内部は離れると吸い付くような動きを見せた。奥まりまで突くと、一際ぎゅうとしまる。それが堪らず、竜司は夢中で動かした。脳内ではとろけた目をしたジョーカーがはしたなく喘いでいる。乱れるジョーカーの映像と共に、頭の中で竜司、と普段の彼が呼ぶ声色が響き、竜司も思わず彼の名前を呼ぶ。脳内に控えめに笑う彼が浮かび、スピードを速める。名前を呼びながら奥を一際強く突くと、中がぎゅうっと締まり、竜司は思わず呻いて射精した。
 そうして、オナホで2度目の射精を終えた竜司は、しばらく呆然とした後、自身を引き抜いた。その時、吐き出した白濁が中から漏れそうになり、慌ててティッシュで拭き取る。ついでに自身も拭き取ってから、流石に洗わねーと不味いか、とパンツと寝間着代わりのジャージをはいてオナホを片手に洗面所へ向かう。
 そうして、洗面所に向かいながら、竜司はいわゆる賢者モードに陥っていた。
 めちゃくちゃ気持ちよかったけど、明日アイツの顔見れる気しねぇ……。
 竜司は明日のことを考えてため息をはいた。


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