暗くなった館内に、ぽつりぽつりと星が灯る。ドームに映った星は、手が届きそうだ。ゆったりとした音色と、星を解説する女性の優しい声色が響く。
北の空をごらんください、まずはほくとしちせいの見つけかたを……
漢字変換がだんだんと追いつかなくなる声に従って頭上の星を眺めていると、馴染みのある眠気が襲ってくる。
微睡みながら、ふと気になって横を向くと、米屋はすでに眠りの世界へ旅立っていた。背もたれに体を預け、すぅすぅと寝息をたてている。
(はえーよ、ばぁか)
出水はくくっと喉で笑って、再び上を向く。もはや言語として理解出来ない声を聞きながら、出水は目を閉じた。

米屋が目を開くと、きらきらと星が輝いていた。ゆっくりとした声が響いていて、ああ夢か、と頭に浮かぶ。回らない頭で、視線を動かす。右隣の影が米屋の目に止まった。
星明かりに照らされてぼんやりと見える出水の姿に、米屋は手を伸ばした。少し力を加えると、出水は米屋の方へ倒れてくる。出水のすこしぱさついた毛先が米屋のほほに触れて、ふ、と口元が緩んだ。仰向けば、満天の星空である。三つの星を繋いで三角形が作られている。なつのだいさんかく、と聞いたことがあるようなないような単語が米屋の耳に入った。入ったが、興味を引くまでには至らない。肩に掛かる重みとほのかな温もり満足して米屋は再び目をとじた。

「……さま、お客様、」
ぱちり、と出水は目を覚ます。
斜めの世界の中で、誰かが目の前に立っている。視線を上げればひらがなの名札を下げた女性が困ったような笑顔を浮かべて出水を見つめていた。出水ははっと気がついて世界を正常に戻す。
「お客様、本日の上映は終了でございます。まもなく閉館の時間ですので……」
「すいません!」
出水は女性の話を遮るように謝り、いまだに眠りこけている米屋の肩を掴んだ。
「おい、米屋!」
がくがくと横から乱暴にゆすると、不機嫌そうに米屋の瞼が開く。ぱちぱちと二、三度瞬きをして、それからその真黒な瞳が出水を捉えた。
「いずみ……?」
「おう、おはよう!おら、早く出るぞ!」
出水は空いていた座席に勝手に置いていた二つ分の荷物を引っ掴む。続けて荷物を持っている方と反対の手で、まだ寝ぼけた様子の米屋の腕を引っ張り、引きずるように館内を出た。


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