花宮の衝撃の告白と勧誘から一日たった放課後、俺は花宮とバスケ部の部室へいた。
 俺は適当にこの高校を選んだので知らなかったが、ここのバスケ部はいわゆる強豪校と呼ばれる部類に入るらしい。そんな中で素人同然の自分がレギュラーになれるのかと、入部届けを花宮に渡したとき今更のように疑問に思った。
 すると花宮はそれを汲み取ったかの様に言った。
「一年。それまでに俺が使いもんになるようにするから」
 そう言い切ったあと花宮は入部届けに目線をおとした。
花宮があまりにも確信的に、強く言うから、その自信は一体何処から来るんだ、と思ったが、そういえば花宮は神様だった。一体どうするのかは知らないが、神様がそういうからにはまあ、なんとかなるだろう。
 どうやら入部届けに不備はなかったようで、花宮は顔をあげた。
「じゃあ、今日からな。体操服はあるだろ?体育あったんだから。あと、ロッカーは一番右端のやつ、使っていいから。着替えてまっとけ」
 花宮は口早にそれだけいうと、部室から出ていこうとする。それを慌てて俺は引き止めた。
「今日って、活動日なんだよな?」
「あ?じゃなきゃ今日からとか言うわけないだろ」
「じゃあ、どうして部室に俺達しかいないんだ」
 最初部室に入った時からおかしいと思っていた。花宮を除く部員が掃除当番やなにか用事があるなんてことはありえない。ましてこのバスケ部が強豪と呼ばれる部類ならば、既にきて練習を始めていてもおかしくはない。
 花宮は俺の質問に何だそんなことかとでもいうようにああ、というと、またしてもさらりと言った。
「他の部員は今日休みにした」
 …どうやらこの部は既に花宮の手中にあるらしい。まだ入学してから数ヶ月というほどもたっていないというのに恐ろしいものだ。
「じゃあ、俺はこれ、処理してくるから。」
 俺が唖然と花宮をみつめていると、花宮はそういってひらりと入部届けをふり、部室から出ていった。一人で取り残されてしまった俺は、取り合えず荷物をロッカーに入れようと鞄を持つ。
 すると、がちゃりと扉の開く音がした。
 花宮がなにか忘れ物でも取りに帰って来たのかと思って扉のほうを見ると、花宮ではなく風船ガムを膨らませた男が立っていた。俺はその姿に少し目を丸くさせる。
「あれっ、古橋、だよね?」
 男はそういってぱちんっと膨らませたガムを弾けさせる。前髪で隠れて目は見えない。
 その見覚えのある、というかほぼ毎日見ているその男の出現に、俺は驚いた。名前は、原一哉、だったか。俺の前の席の奴だ。
「お前も、天使なのか。」
 そうじゃなかったらただの痛い奴だが、その様な気がしてそういってみると、原はこっちに近づきながらこくこくと頷いた。
「みたいだねー。てか、天使とか、マジ笑っちゃうんですけど」
 初めて知ったし。ひょうひょうとそういう原からは、天使だということを気にしている様には見えない。たぶん、花宮の言葉を信じている、だとかそういうことでなく、おもしろいから乗っかっているような感じなのだろう。
「も、ってことは古橋も天使なのかー。変な感じー」
 くっくっく、と笑いながら原は言う。よく笑う奴だなあとと思っていると、再び扉の開く音がした。
 その音に原と二人して扉の方をみると、鋭い目つきをした男が立っていた。その目でこちらをじっと見ていたので怒っているのかと一瞬思ったが、そうではないらしい。
「なあ、お前らも花宮に誘われて?」
「…そういうお前も?」
 原がそう尋ねると、男はこくりと頷いた。
「ああ…俺は最初からバスケ部に入るつもりだったんだけどさ。ビックリしたよ、突然」
 天使だなんて。
 鋭い目をさらに鋭くさせて男はいった。その声色は少し困った様だったので、それは男にとっての困り顔らしい。どうやら、というか予想通り、バスケ部には天使が集められているようだ。
「こー天使が集まってるっていうのも、なんていうか、壮観だねえ。俺達どーみても天使には見えないけど。寧ろ、逆?」
 けらけらと笑いながら原がいう。それに男はだよなあ、と頷いた。
「確かに。二人とも悪役っぽいもんな」
 俺も二人を見ながらいうと、二人はにやりと笑った。
「そういうお前も大概だろ。感情なさ気だし」
「目、死んでるし」
 言われて、自分ってやっぱりそうみえてるのか、と初めて思った。自分で意識してないし、(意識して出来るものでもないか)とくに自覚もなかったのだけれど、周りからひそひそとそのようなことを言われているのは知っていた。特に気にしていなかったが、こう面と向かって言われるのは初めてだ。
「正直いって、ラフプレイなんてバレずに出来ると思わないんだけど」
「あ、それ思った。出来たらスゴくね?」
 鋭い目をさらに鋭くさせて男がいい、原はけらけらと笑いながらいった。俺は出てきた単語の意味が分からず、眉を潜める。
「…らふぷれーって、なんだ?」
 首を傾げながら二人に聞くと、二人は驚いたようにこちらをみて、そのあとで原が、ぽんと手を打った。
「もしかして、古橋、バスケ、っていうか、スポーツあんまやったことない?」
 原の質問に俺が頷くと、あーそりゃ知らなくても無理ないわ、と男が納得したように頷いた。
「ラフプレイってゆーのはね、相手を傷付けるよーな乱暴なプレイのこと。やったら即退場モンのプレイだよ。褒められるもんじゃないね。」
 原は、どぅーゆーあんだーすたん?と完全な日本語英語でいうと、俺を指差した。
「…なるほど、そうやって試合中に相手を傷つけるのか…」
 感心して(感心していいことではないのだけれども)頷く。
 するとそれに、
あーあ、こんなの一生しらなくったっていいことなのにね、と原が心底おかしそうにいった。男はそれに、教えたのお前だけどなとツッコむ。
「まあいいじゃん。あ、ところでさ、名前は?」
「ああ、山崎弘だよ。」
「へー、じゃあザキだね。俺は原一哉。よろしくー」
「古橋康次郎だ」
 今更の様に自己紹介をした俺達は、じゃあとりあえず着替えよっかという原の一言で、やっと着替え始めた。


 ちょうど俺たちが着替え終わったところで、また扉が開いた。
「ん、全員揃ってるな。」
 今度こそ開けたのは花宮で、部室の中を一瞥してそういった。さっきとは違い、花宮の後ろに背の高い男が一人ついてきている。アイマスクを片耳に引っ掛けたままで、非常に眠そうな面持ちをしているところから察するに、ついさっきまで寝ていたのだろう。花宮は起こしにいったのかもしれない。
 原が興味津々といった具合にその長身の男に向かって話しかける。
「ねえ、お「瀬戸健太郎だ」
 そういうとその男は一つあくびをした。おそらく原は、名前を尋ねようとしたのだろうが、原が言い切る前に瀬戸はいった。それに原は一瞬驚いたように
したあと、張り合うように質問を始めた。
「へーじゃあ瀬戸も「俺はちゃんと目的あってきた天使だから」
「もくて「地上に降りてきた神様のサポート。」
「花宮のこ「知ってた。結構有名だからな。」
「…それ「癖だから」
「どうに「どうにもなんない。」
 原がむむむ、といったような表情をしたのにも、瀬戸は意に介す様子もなく平然としていた。
 それに花宮は面倒臭そうに一度ため息を吐いて、そのくらいでいいか?と言った。
「俺がお前たちを集めたのは最初言った通りだ。俺は仕事のためにお前らを使う。使えないと思ったらすぐ切り捨てるから。覚悟しとけよ」
 そういった花宮の目は確かに俺たちを見ていたが、どこまでも冷めていた。


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