母さんがこんぺいとうを買ってきた。詰め放題の袋一袋分。それ全部食うの?と聞いたらあんたも食べるのよ、と少し大きめのジャム瓶を渡された。もちろん、中身はこんぺいとうだ。白、黄色、黄緑、オレンジ、ピンク、うすむらさき、水色。たくさんの色が詰まったそれに、ビー玉を思い出した。保育園の頃、誰かが宝物だと見せびらかしていた、この瓶よりも大きな瓶に詰められたたくさんのビー玉。高くあげられたそれは太陽にきらきらと輝いていて、俺は長い間それを本当に宝なのだと思っていた。さすがにもうおもわねーけど。
なんとなくこんぺいとうの詰まった瓶を明かりにかざす。当然輝くようなことはなく、こんぺいとうの隙間から光が抜けてくるだけだ。そりゃそうだ。
何となくがっかりした気持ちでその瓶のふたを開けて一つ食べた。口の中が少し甘くなる。食べた感じはしない。食える気しねーんだけど、と母さんに文句を言ったら、ボンタンアメの箱を投げられた。こんなか入れて持ち歩いてなさい。逃げ道はないらしい。

仕方がないので、ボンタンアメの箱にこんぺいとうを詰めて学校に持っていくことにした。振るとしゃかしゃかとなる音は、昔に買ってもらったチョコ菓子に似ている。中身はチョコとは違って甘みが薄いけど。
数日の間は、腹が減っては食べ、目敏く音に気づいた日向にやったり、それを見ていた縁下さんや木下さんに渡したり、俺が食べていることに気づいたクラスメートにやったりしていて、順調に減っていたのだ。
けど、数日でそれも止まった。飽きたのだ。俺が。一度持っていくのをやめてからは持っていくのが面倒になって持っていっていない。もともとそこまで好きではなかったから、むしろここまで減ったのが奇跡だと思う。
中身の半分ほど減ったこんぺいとうを睨む。俺の勉強机の上のそれはもうそこを動く気がないように見えた。それがどうも許せなくてふたを開けて中身を取り出すが、一粒取り出して口に入れて、ふたを閉める。どうもだめだ。もっとがっつりきてほしい。食べた気しねーんだって。


「これ、なに?」
お茶を持ってあがって、俺の部屋を開けた瞬間に国見に聞かれた。こんぺいとう、と答えながら扉を閉めてコップが二つのっかったお盆を勉強机に置く。横の国見が少し顔をしかめてそうじゃなくて、といった。
どうして国見がここにいるのかというと、俺たちがつき合っているからだ。休みが被ることなんてないから、部活終わりにちょくちょく会っている。こうやって国見が俺んちにきたり、俺が国見んちに行ったり。なんか、おうちデート、ってやつらしい。…こういうと、ちょっとハズい。
「なんでこんなにあるのかってこと」
「母さんが買ってきた」
「ふぅん。もらっていい?」
「やるよ」
国見はこんぺいとうの入った瓶を取り上げると、ふたを開けた。瓶を傾けて、右の手のひらにこんぺいとうを落とす。国見はそれを一気に口に含んだ。結構一気に食うな。
じっと見ていると国見がこんぺいとうの瓶を机の上において、こっちに体を向けた。
「影山、」
こっちを向いた国見が突然近づいてきて、キスしてきた。すぐに、舌が口の中に潜り込んできた。
ぬるつく舌が、俺の舌をこすったと思ったら、ざり、と舌の上で甘いものが転がる。舌がこすりつけられる度にざらりとした甘みが舌の上に溶けていく。じゅ、って唾があふれてきて、うまく飲み込めなくて、唇の端からこぼれた。やべ、と思うと、呼吸も上手くできなくなって、頭がくらくらしてきた。ぴちゃぴちゃいうのと、だれかの甘ったるい声が響く。足の力が抜けそうになったところで、やっと国見の口が離れた。国見のシャツをつかんで、なんとか立つ。国見の顔を見ると、なんかエロい目でこっちを見ていた。
「えろ…」
国見が吐息混じりにそうつぶやくので、つかんでいる方とは反対の手で口の端を拭って、言う。
「お前のがえろいだろ」
すると、国見は少し目を見開いたあと、いつもの顔にもどって、こんぺいとうの瓶を掴んだ。
「もっかい、する?」


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