今日は朝から憂鬱だった。
まず目覚めだ。今日提出の課題と英語の予習があって、半分程やってからどうしようもない眠気が襲ってきた。いつもならそこまででもないのに、昨日は眠くて眠くて、せめて早く起きて朝にしようと決めて、すぐに寝た。
ら、普通に寝過ごした。時計を見て絶望。しかもいつもより少し遅い。それでも落ち込んでいてもしょうがないので、学校へ行く支度を整えて家を出た。そこまではまあいいにしても、家を出る前に母親にチョコ貰えるといいわね、って余計な一言を聞かなきゃもう少し明るい気分でいれたと思うんだけどな。
いつも通り歩いていったのに、やけに男女二人組が目に付いた。おいおいなんでこんなにいるんだよ。制服の違う二人組も目に付いて、わざわざ朝に会うことはないだろと思った。特にひどかったのはバス停で、学生カップルがこれみよがしにいちゃいちゃしててげっそりした。聞こえないのに内容が聞こえてきそうなふたりの微妙な声量がさらにムカついた。
そんないつもより長い道のりを越えてようやく学校について、朝練のために着替えていたら、遅れて国見がやってきた。俺の横のロッカーを開けながら、はよ、と眠たげに言った国見はもうすでにピンクの包みをひとつ持っていた。別にそんなのは中学の時からそうだったし、今更苛立ったり羨ましがったりすることでもない。けど、目に付いた。みながら頭のまんまるい男の顔が浮かんだけど、すぐに振り払った。ないない。絶対ない。
朝練はすごく集中したおかげで今日はとても調子が良かった。それでちょっと気分も持ち直したが、教室に入ってまた気分が下がった。
わかってはいたが教室は甘い匂いで充満していた。別に甘いものがきらいなわけではないが、これが一日中続くのかと思うとげっそりした。
午前はなんとか乗り切って、昼休みにはクラスの女子が全員に作ってきたというチョコをもらったり、国見目当てのついでにチョコをもらったりした。嬉しくないわけではないが、特に感慨はない。まぁ、国見と影山のチョコポストだった中学の時の頃よりは良かったと思う。しかもあいつら渡してもふーん程度の反応だし。なんなんだよ。影山に至ってはもういらないとか言い出すし。マジふざけんなよ。
午後はつくづく運のないことが続いた。いつもはしないのに予習の確認があったりとか(やってなくて先生に冷たい目で見られた。でも授業中当たらなくてよかった。)、学年主任で学年で一番恐れられている先生の担当の授業で寝てしまったりとか、担当のやつに掃除をばっくれられたり、それ終わらして部活行こうとしたら先生に呼び止められて雑用を押し付けられたりとか。部活中はボール踏んで転ぶし、サーブはミスるわレシーブはミスるわで絶不調。朝の調子はどこに行ったんだよ。
それを着替えながら国見に愚痴ると、全て話終わったあとに、災難だったな、ともごもごいった。何してんだ、と思って国見を見たらチョコ食ってた。途中からなんか変だなと思ったけどお前喧嘩売ってんのか。
ああもう今日は災難だった。こういう日は早く帰って早く寝るに限る。
そう思いながらいつもより重い足取りで国見と校門を出た。
「金田一!」
いきなり名前を呼ばれて、肩がびくっとした。声のした前をみると、影山がぶんっと腕を振りかぶったところだった。影山の腕から放たれ、びゅっと眼前に迫ってきた謎の物体。なんとかそれを顔に直撃する前に掴むことができたが、普通に危ない。
「なにすんだよ!」
「三倍返し!」
思わず怒鳴ると、影山が怒鳴り返した。それにぱっと手元に視線を落とせば、ハートマークがたくさん散っている全体的にピンクの可愛らしいビニールラッピングが目に入った。透けて見える中には、濃いチョコ色のパウンドケーキが入っている。おそらくチョコブラウニーだろう。そこまで認識して、ぶわっと顔に血液が集まる感覚がした。

うわ、うわ、うわ。

影山の顔が見たいけど、暗くてよく見えない。ああくそ、なんでこんなに暗いんだ。
どうしてもみたい俺の視線から逃げるように影山は駆け出す。それを追いかけようと思ったが、もたもたしているあいだにもう背中が小さくなっていた。アイツマジで走りやがった。
呆然と小さくなっていく背中を見ていると、よかったじゃん、と国見がどうでも良さそうに言った。その声色に少し冷静になる。
うん、超よかった。めっちゃ嬉しい。予期してなかっただけに心臓がやばい。三倍どころか十倍くらいで返したい、っていうか今から返しにいきたい。いや、俺礼言えてねーしもう行っていいよな、そうだ行こう。
停止していた思考が動き出して、これからのことを思い浮かべる。自然と笑みがこぼれてきて、国見がキモイ、といってきたけど気にしない。っていうそんな暇ねぇ。
えーと、だからほら、あれだ、

…今日はとてもいい日でした。


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