ぱち、と目を開くと、教会の天井が目に入った。起きあがって自分の胸を確認すれば、傷はすっかり塞がり、跡すら残っていなかった。心なしかいつもよりも体が軽いような気がする。及川の魔力が消えたのかと、影山はよくわからないが思った。たぶん成功したし、死ななかったのだ。
 そこまで考えて、そういえば菅原はどうしたのだろう、ときょろきょろと影山はあたりを見渡す。
 しかし探すまでもなく、菅原は影山のそばに、うつ伏せになって倒れていた。
「すがわらさん…?」
 倒れている菅原に手を伸ばす。しかし、本当にぴくりとも動かない菅原に、影山はぴたりとその手を止めた。
 影山は、ふと思い出したのだ。死者を蘇らせる魔法があるのだということを。その魔法は、術者の命を代償にして対象の命を蘇らせるのだと。そして、その魔法すらも、菅原は使えるのだと。

 まさか、この人は、自分の命と引き替えにするから、あのとき俺は死なないといいきったのだろうか。

 その考えにたどり着いた瞬間に、影山は体の自由が一気に利かなくなったように思った。どくんどくんと心臓の音がいやに大きく内に響きだす。
 起こさないと、と頭は思うが、体がうまく動かなかった。死んでなどいない、とかぶりをふっても、どうしてもその考えが消えなかった。

 もしも、死んでいたら、

 背中にいやな汗が浮かんだ。それと同時に全身から血の気が引いていくような感覚になる。影山の瞳がうろうろする。
 いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
 そんなこと、あってなるものか。この人が俺のせいで死ぬなんてことが、あってなるものか。それは自分の死ですらも償えない。
 影山が震える手で菅原の体に触れようとする。ふれたら知りたくもないことを突きつけられるようで嫌だったが、そうせずにはいられなかった。死んでなんていないことを確認したい、けど、したくない。
 じわじわと手を伸ばしていると、うー、と菅原がうなった。影山はそれにぴたりと手を止める。
「うー、腹減ったぁー…」
 ごろんと仰向けになってそういった菅原に、影山は目を見開く。菅原はむくりと起きあがると、おはよう、と影山ににっこりと笑いかけた。影山は口をぱくぱくさせて、声が出ないようだった。それににこにこと菅原は笑っている。
「すがっ、すがわらさっ」
 やっとのことで声を出した影山は、ぼろりと涙をこぼした。それに影山は驚いたように手の甲で目元を拭うが、ぼろりぼろりと涙が後から後からこぼれてくる。影山はぎゅうっと菅原の腕をつかんだ。
「し、死んだかとおもっ、」
 ぼたぼたと目から涙をこぼす影山を、菅原はぎゅっと抱きしめる。
「ふふ、こーんなかわいい子を置いて死ねるはずないべ。」
 それに対して、ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、俺はかわいくないです、と憮然として答える影山に菅原はまた笑う。頭に手を伸ばして、くしゃり、と影山の髪を混ぜた。
 うん、あったかい。
「よかった。死ななくて。」


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