イシドさんと天馬くん。1
目の前の出来事を理解するのに数秒かかった。
炎をまとったボールが美しい軌跡を描く。
それは幼い頃、俺自身が見たあの軌跡と同じ。
あの時と同じように…ただ今回は材木ではなくスリの男性に見事命中した。
「その技は…」
忘れるわけがない。
だって俺はアナタに救われた。
アナタの放ったサッカーボールによって…。
だから俺はこうしてサッカーを続けてきた。
サッカーをしていたら、いつかアナタに会えると信じて―――。
「ま、待って下さい!!」
まるで何事もなく去ろうとする彼を引き止める。
「アナタですよね?昔、俺を助けてくれたのは―――」
「……何の事だ?キミを助けた事など私には覚えがない。」
なんでとぼけるの?
俺は間違ってないはず。
もう大分昔のことだけど、あの時のことは今でも鮮明に思い出せるんだもの…。
「覚えてなくてもいいです…俺、アナタに救われてサッカーを始めました!」
「…………。」
「アナタにお礼が言いたかった。そしてアナタと話がしたかった―――」
「悪いが私にはこれ以上時間がなくてな…。私の用は以上だ、失礼する…。」
「待って下さい!!」
だって俺、話したいこといっぱいあるんです。
離れていくあの人にもう一度手を伸ばそうとしたのだが…
「い゛っ!!」
興奮と緊張からか、俺は脚がもつれて顔から転んでしまった。
「い…痛い…。あっ、やだ待って…待って下さい!!」
痛いけど今はそれどころじゃない。
急いで顔を上げてあの人を探す。
良かった。
まだそんなに離れていない…。
急げばまだ追いつく距離だ!
「待って、イシドさんっ!!」
急いで立ち上がり、もう一度近づこうとしたんだけど――
「っ―――!!!」
声にならない痛みが全身を駆け巡る。
こんなことしてられないのに俺の意志とは裏腹、身体は思わず地面にしゃがみこんでしまう。
この痛みは…ああ、脚を捻ってしまったんだ―――。
やだ…せっかく話が出来ると思ったのに…。
多分もう無理。
こんな状態じゃ、とても彼に追い付けないし、この場にとどめさせることも出来ない。
「う゛…せ、せっかく会えたのに…うぐっ…」
思わず涙が出てきちゃって俺はそのまま顔を埋めてうずくまった。
いつも何とかなるって今まで頑張ってきたけど…今一番大切な時に脚を捻るなんて俺ってなんてバカなんだろう…。
そう悶々としていた時だった。
「…捻ったのか?」
頭上から聞こえる声は確かにあの人のもの。
「ぇ……?」
顔を上げれば確かにあの人…イシドシュウジが立っていた。
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