黒猫徒然


Twitterにあげる予定だったもの
2014/10/20 21:39

王妃がかなり、いやとんでもなく美化されております。100%どころか120%名無しの騎士視点です。




この春、国王直属の近衛隊の騎士となった青年は、近衛隊筆頭、華京院雪のあとに続き、王宮のなかても奥まった位置にある王妃の私室に向かっていた。
王宮内であることもあり、身に付けている黒を基調とした甲冑は軽略したものであるが、極度の緊張ののためか、盛装したおりよりも重く思える。これほど緊張したのは、王騎士となり、国王直属の近衛隊の一員になった際に王と対面した以来だ。
主君である、若き雪花王の唯一の伴侶であり正妃である王妃は、大陸最古の伝統と歴史を誇る彩栄の姫。加え て神の末裔とうたわれる彩栄の象徴で もある両性であった。かして後暫く子 宝には恵まれなかったものの、今では 二人の子をもつ母であり王妃としての 地位は揺るぎない。
雪花において、最も高貴な女人のもと に新参者で、年齢も若い青年が赴くこ とになったのは、たまたま華京院の目 に止まったということと、お前はまだ 王妃様にお目通りしてなかったな、の 一言による。
その場にいた、同僚の騎 士らは皆一様に、青年に対する羨望を 隠そうとしなかった。
その羨望はもっともだ。王妃は身体が 弱く、あまり公式の場に姿を見せず、また一介の騎士風情では遠目から その姿を拝見するのがやっと。王妃の 姿を間近で見られる機会など、滅多にない。
氷雪とうたわれる、美貌の王は成婚以来側妾の納められた後宮には訪れず、王妃のもとにしか足を向けず、二人の子を成した後も王は変わらず王妃のもとに夜毎通い続けている。
両性という、神性の王妃はしかし聡明さと博識さは他国の王妃の比ではないが、大陸内で最も美しいといわれる王の正妃ではあるが、その面差しは至極凡庸、王家の姫らしく、上品で優しげな容貌だが美貌をうたわれることはない。後宮の妾や側仕えの侍女らよりも、容姿は劣るという。
娘を無理に後宮にいれ、王の愛妾とさせ権勢を得ようとした貴族らは何故王が、明らかに娘よりも劣る、彩栄の血を汲む両性である、真正の女人ではない王妃を王子が誕生したのち、今尚寵愛するのかと理解出来ずにいるという。
もとより国王の婚姻は、色恋皆無の、国家のための婚姻。政略結婚だ。国と国同士で結ばれた、婚姻に愛が芽生えることは少なく、事実先代の国王とその王妃は不仲だった。
また、王妃は身体が弱い。高貴な姫らは蒲柳な質が多いが初産の王子が大層な難産であり王妃は出産の際、生死の境をさ迷い、命はとりとめたがそれまでとは比べ物にならないほど病弱な身体になった。
王は夜毎通っているが、体調の優れぬ場合には王を慰めることなど出来ぬ。
絶世の美貌をもたず、完璧な女人ではなく、政略で結ばれ、病弱な王妃を何故王は深く寵愛するのかと。
だか青年にとっては、魂と剣を捧げた主君の正妃。常に仰ぎ見上げる、高貴な女人であることに変わりはない。
いくつもの扉を潜り、奥へ奥へと進み、漸くその部屋の前に辿り着いた。
私室を訪ねた華京院を王妃付きの侍女らしき、亜麻色の髪をした、青年がこれまで目にしたどの女人よりも美しい、まさに絶世の美女が対応する。白と黒の女服をまとっているが、ドレスをまとわせ化粧を施したならば、目も眩む輝かんばかりの美しさたとなるだろう。侍女の身分ならば、王妃は難しいかもしれないが、王の寵愛深い側妾になれるであろうろうたけた美女は、華京院との会話後、私室一端下がっていく。


「あ、あの、隊長。王妃様への、お目通りはどちらで?」


絶世の美女を見ることの出来た眼福にひたりながら、隊内でも一際長身の華京院に疑問を口にする。
華京院は、鋭い金の瞳で青年を一瞥する。
寡黙だが、王の信頼厚く、雪花でも阿倍野家と双璧をなす名家出身の華京院は、国随一の騎士であり、近衛隊を率いるに相応しい人格と能力を備えたまさに王の剣である。部下の面倒見もよく、隊内でも華京院を長として慕い、憧れるものも多い。


「ああ。私やお前は部屋のなかには入れはせん。丁度王妃様は庭に散策にいかれる予定だ。我が近衛隊も警護につくが、その前に新参者の、お前を目通りしていただく。支度が済み次第、部屋から出てこられるからな」


「は、はい」


がちがちに緊張した青年に、華京院はそうかたくなるな、と声をかける。


「気質の穏やかで、温厚な人柄の御方だ。失礼なければ、何も案ずる必要はない」


華京院はそう言うが、相手は一国の王妃だ。王や王子に次ぐ、重要人物であり王の寵愛深い、正妃。緊張するな、というほうが無理だ。
扉の向こうの気配が変化し、扉のノブが回る。
華京院に続き、青年は膝をつき、頭を垂れる。
幾つもの衣ずれの音のあと、するすると衣服が床を滑る、あまり耳にしたことのない音がした。
しゅるしゅると布をさばく音とともに、布が床を滑る。何の音だと、思わず顔をあげた青年の目の前に、一人の青年が佇んでいた。


「無礼者!」


青年の隣に控えていた、かの美女、王妃付きの侍女が鋭い声で青年を叱咤する。
その声に顔をあげた華京院は、己の背後で呆然とした表情で顔をあげる部下の肩を加減もせずに叩く。


「何をしている!」


侍女と華京院に叱責され、青年は叩頭する。


「も、申し訳ございません。なんというご無礼を」


頭を固い石床に叩きつけるようにして叩頭する青年に、あまり高くはない涼やかな、耳通りのよい声がかけられる。


「どうか、頭をおあげくださいませ、騎士殿。マリア、雪殿。あまり厳しく叱責しないでさしあげてください。お顔を、拝見したことはありませんから、新しく近衛隊に入られた騎士殿でございましょう?」


「左様でございます、王妃様。しかしながら、おゆるしなく頭をあげるなど。私の教育不足。お詫びのしようもございませぬ。平にご容赦を」


「よろしいのですよ、雪殿。どうか、もう頭をおあげに。これでは、ご挨拶ができませんもの。雪殿も、どうか」


青年とともに、深く頭をさげていた華京院は、床に額をこすりつけんばかりに頭をさげる部下に、頭をあげろ、と命じた。
全身の汗腺から、冷や汗が流れる。おそるおそる顔をあげた青年の、目の前。先程よりも更に近い距離に、見慣れぬ衣装を身に付けた長い黒髪を肩に流した、青年がこちらを穏やかな眼差しで見下ろしていた。
その瞳は、彩栄王族のみあらわれるという色合いの淡い透明な、見たこともないような色彩だった。


「まあ、額に傷が。よろしければこちらを。早く手当てなされたほうが、よろしいのではありませんか?」


繊細な眉が気遣わしげにひそめられ、胸の前で合わせられた布から、絹の手巾がこちらに差し出される。


「は?へ、え?」


目の前に差し出された、極上の絹製のものらしき手巾を前にあたふたとみっともなく醜態をさらす青年に、みかねた華京院が促す。


「王妃様のご厚意だ。ありがたく受けとれ」


「あ、ありがとうございます、王妃様」


手巾を受け取り、青年は再び頭を床に叩きつけんばかりにさげる。
見慣れぬ衣装を身に付けた青年、王の正妃である王妃は、柔らかく微笑む。
黒と白の侍女服をまとった侍女らの、中央に佇む、人物は女性らしい柔らかさを欠いてはいるが、しなやかでいならぶ侍女らのなかでもやや長身だった。見慣れぬ、白地に雪花のものではない、紫の小花の散った一枚の布を胸の前であわせ、同じく紫の帯で締めたその姿は、一見すると青年だったが雰囲気がそれを裏切る。男と女、相反する全く逆の性が王妃のなかで同化している。
男のくくりにも、女のくくりもない、中性。
これが両性。数百年に一度のみあらわれる、神を具現化した存在なのか。
絹糸の長い黒髪に、雪の肌の王妃は顔の造作など、気にならぬむしろ、その神性なまでの清らかさと、淡雪のような儚さでみるものを引き付けてならない。
青年が、侍女らの奥に佇む王妃の姿に、目を離せなくなったのも、その独特の雰囲気と存在感のためだった。
こんな人間が、存在するのかと青年は再び王妃の姿をただ呆然と見つめる。
それに気づいた華京院が再び叱責する前に、廊下の向こうから母様!と幼子の澄んだ高い声が響いた。
王妃の私室のある、この棟にはいれる幼子など、この国では二人しかいない。
息を弾ませながら、かけてきた幼いが、美しい顔立ちをした王に生き写しの王子は、母に飛び付く。


「母様、お加減は如何ですか?私と一緒に、早く庭へ参りましょう」


王妃は雪白の、あまり血の気の通わぬような透き通るかのごとき顔が、息子を抱き上げふんわりとほころぶ。
あまり顔色がよいとはいえず、その痛ましいまでの儚げな雰囲気もあいまり、見るものに不安を抱かせてしまう王妃は、しっかりと腕に王に酷似した王子を抱き、柔らかく微笑んで会話している。
王子のあとに、乳母らしき女人に抱かれた王女もその場にあらわれると、王妃の表情はますます明るくなる。
そう、王妃はこの二人の子をもつ母親だ。だというのに、青年には王妃が汚れをしらぬ、処女や清童にしか見えず、思えない。
生々しい肉の交わりなど、本当に王妃が知っているのかと訝しく思う青年に、華京院の鋭い目線が突き刺さる。
華京院は何故か憂鬱げに溜め息をつき、お前はそちらか、と独り言を呟いた。



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