黒猫徒然


唐突に思い付いたもの
2014/10/15 23:17

文章の書き方を忘れてしまいました。リハビリ的なものなので、脈絡も文章もむちゃくちゃです、申し訳ありません。




かつては主上とよばれ、至高の地位についていた院は仙桃御所内の、院の唯一の寵姫に与えた局へと足を向けた。
右大臣家の大姫である弘徽殿の女御を母にもつ、新帝の父である院のもとへ、娘を仕えさせようとする貴族は少なくはなく、だが院にそのつもりは一切なかった。
御代が移り変わったのだから、新帝のもとへ入内させ後宮を華やかで賑わしいものにすればよいのだ。新帝はまだ十歳だが、院は新帝を十二のときにもうけている。あと数年もすれば、それもかなうだろう。
煩わしい来客に、すっかり時間をさかれてしまった。桐壺の膝を枕に、庭を眺めながら転た寝でもしようと、桐壺の局に足を踏み入れた院は、かぎなれぬ香と、桐壺以外の人間の気配に、足をとめた。
御簾の下ろされた室内から、桐壺の声といま一人、低くまろやかな青年の声が漏れている。
院の寵姫である、桐壺は後ろ楯のない身分の低い更衣であり、父を亡くした今は出家した尼である母一人で、この御所に訪ねてくるはずがない。
女人ではなく、男それも年若い青年の来客など今までになかったことだ。
院の訪れに、真っ先に気づいた女房を制し院は声もかけず、御簾を払い除け室内に入る。
御簾も、几帳で隔てることもせず、扇で顔を隠しただけで、桐壺は直衣の青年と向かい合い、談笑していた。
足音も荒く、院が室内に入っていくと桐壺と向かい合っていた青年が、驚愕した様子で院に顔を向ける。
その白い細面は、驚くほど桐壺に瓜二つだった。
院の姿を目にするなり、深く頭をさげた青年と、院をむかえた桐壺は身に付けている衣装と髪の長さを除けば、顔立ちといい雰囲気といい、実によく似ている。
桐壺の隣に腰を下ろした院は、頭をさげたままの青年に、顔をあげるよう命じる。


「桐壺、貴方には兄弟はいないと聞いていたが、貴方がこうして局に招き入れ、女房を介さず会話をしているのだとすれば、かなりちかしい間柄だとみえるが」


「はい、院。私の母方の従兄弟殿で名を成亮殿と申されます。その縁あって、私の代わりに母の面倒をよくみてくださって」


「ほう。母ごぜの?ならば私も礼を言わねばならんな」


院の、寵姫は一人遺された母を何よりも案じている。院に仕えまた里下がりも許可されぬため、その思いはなおのこと強い。その母の面倒を、従兄弟だというこの青年がみているのだとすれば、院にとっては都合のよい人物だった。
それに、最愛の寵姫によくにている青年を院とて嫌悪の感情などわくはずがない。


「私に遠慮せず、これからもおりをみて訪ねてくるとよい。歓迎しよう」


感謝の言葉を述べ、成亮は本日はこれにてと下がっていく。
桐壺と二人きりになった院は、桐壺をひきよせた。


「本当にあなたによく似ておられる。何故もっと早くひきあわせてくれなかったのだ?」


「成亮殿は、院にお仕えする私の後見になれぬことを大層、恥じてくださっていて私にあわせる顔がないと今まで私と対面を控えておられたのです。ですが、母がどうしても私の様子をみてきてほしいのだと、成亮殿に頼んだようでして」


桐壺の亡父は、大納言だったが母方の従兄だという成亮は公卿の地位になく、政とは殆ど関わりのない文章道を邁進しているという。
位も低く、また年若い成亮では後宮内で桐壺の後見になどなれるはずがない。


「どうやら気質も、そなたに似ているようだ。ますます気に入った」


桐壺は、院の言葉にひそめていた眉を開く。
成人した男女は、たとえ身内同士であっても御簾ごしの対面が世の習いだ。
ましてや、桐壺は院の、身分低いとはいえその御身に仕える更衣。院以外に、顔を見せるなどともすれば、不興どころか怒りをかってもおかしくはない。だが、久方ぶりにあう、従兄に懐かしさと、御簾や女房を介して会話するのが勿体無く思え、また院に来客があることも手伝い、習いを無視してしまった。
桐壺だけに院の怒りが向くならまだしも、文章の道を極めんと懸命に勉学に励む従兄に、その矛先が向けばただではすまされまい。


「私があの若者に何かすると思っていたのか、桐壺」


安堵する桐壺に、院は尋ねる。


「いえ、そのような。ですが、いくら従兄殿とは申せ、あまりに無作法でございました。久方ぶりにお会いしたものですから、ついつい作法を忘れて」


「あの従兄殿ならば良いだろう。だが桐壺、そなたの姿、たとえ髪の一房、指先だろうと私以外の男になど見せてはけしてならぬぞ。垣間見などして、あらぬ邪心を抱く男がいるやもしれぬ。以前もうしていただろう、そなたを手込めにしようとしたしれものがいたと」


「まあ、弁の君の話を、覚えておられたのですか?あれは、私が院のもとへ入内する前のことでしたし、女房の手引きでどなたやもわからぬ御方が好奇心にかられてのこと。院の身許で、私の生家とは比べ物になどならぬこの御所で、心配することなど何一つございませぬ」


「それは勿論だが、私はそなたを他人の目にさらしたくはないし、私の目の届かぬところになどやりたくないのだ。あの従兄殿だから私も許すが、たとえ帝であっても姿を見せてはならぬぞ、よいな桐壺」


「はい、院。おおせのとおりに致します」


こっくりと幼子のように頷いた桐壺の髪を指ですきあげ、院は桐壺を胸に抱き寄せる。
桐壺は済んだことだと、気にもとめていないようだが桐壺に女童の時分より仕える忠義者の女房の一人である弁の君より、その話を聞いた院が、どれだけ肝をひやしたか。
その男がたとえ、気まぐれにせよ桐壺を手込めにし傷物になどしていたら、桐壺は院のもとへは入内して来なかっただろう。
男に汚された桐壺は、ともすれば世をはかなみ早々に髪をおろしていたやもしれぬ。
これほどいとおしく、かけがえのないこのひとに、出会えなかったのかもしれないと想像するだけでも恐ろしくなる。
桐壺の身辺に、忠義に厚い女房らがいてくれたことに、感謝するしかない。
譲位したことで、気軽になった分常に桐壺とともにいられる。
桐壺の更衣お一人では、お寂しゅうございましょうから、としたりがおで娘やら姉妹らをすすめてくる殿上人はあとを絶たずわずわらしいことこの上ない。だがそれも、いずれは煩くなくなるだろう。
院の寵姫はただ一人。桐壺だけだ。男も女も必要ない。この愛するひとだけ、そばにいてくれればよいのだ。
桐壺と巡り会う前に、あの勝ち気な権高い弘徽殿の女御と、男御子をもうけていて実に幸いだった。後継のために、好いてもいない女を抱く必要もない。顔形は確かに美しいが、心根は桐壺の足元にも及ばぬあの女を抱くのは、苦痛でしかなかったし、他の野心にまみれた女どもの相手をしなくてもよい。
弘徽殿の女御にも、他の女御、更衣たちにもこの先二度と会わぬつもりだ。弘徽殿や他の女たちなど、どうでもよい。譲位しこの御所に移るさいに、当然のようについてこようとした女たちを切り捨て、すべての時間をこのひとと過ごすためだけに、つれてきたのだ。泣きわめき、院のみならず桐壺を大層恨んだ女もいるそうだが、同じ御所内に他の女の存在があるだけでも鬱陶しかった。
ともに髪をおろすにせよ、病で世を去るにせよ、院がその最後の瞬間まで目に焼き付けたいと望むのは、桐壺だけだ。
・・・・年齢の順で考えれば、先に世を去るのは院の方が先。桐壺は残されるだろう。だが、そんなことを院は許さない。もしどうしても先に院が逝かねばならぬのなら、可哀想だがこのひとを連れていこう。
このひとの、息の根が止まるのを見届けてからでは、院は死ねない。たとえ怨霊となり鬼になっても、このひとにとりついて必ず院とともに黄泉路を下るのだ。
それは実に、良い考えだった。可哀想ではあるが、仕方がない。このひとが、こんなにもいとおしいからだ。いとおしくていとおしくて、狂いそうなほど。いや、もう狂っているのだ。このひとに。
くつくつくつ、と笑う院に桐壺は、小さく首を傾げながらも穏やかに院を見つめる。
ここに、こうして存在しているだけで院を狂わせたこのひとが悪い。なにもせずともただ呼吸をしているだけで、院を狂わせる。
この世に生まれ出でたときは別々だった。だが、世を去るときは二人一緒だ。そう告げたらこのひとはどう答えを返してくるだろう。
あなたがいとおしすぎて、だから殺すのだと告げたなら。



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