高貴な囚人(1)
2013/11/17 22:15
ふとなにかに、つられたように夢をみる。
七つも年下の、十を一つ二つばかり越えた少年が寝台の上で幼子のように駄々をこねている。
何故こんなことをしなければならないのだ
こんな男を相手になどしたくはないと。
可哀想に、と少年を哀れんだ。己の境遇など、忘れて。
おはようございます、とつかえてくれている少女の声にルカは寝台の上に長い髪をかきあげながら起き上がった。癖のある長い髪は絡まり毛先で束になってしまっている。その髪を丁寧に櫛ですいてくれているのが今年で十三になるという、サリーナだった。
「おはよう、サリーナ。毎朝手間をかけるね」
「いいえ!ルカ様の御髪をお手入れさせて頂くのは私の役目の一つですもの」
「・・・・サリーナは私につかえてくれて、何年になる?」
腰を覆うほど長い癖のついたルカの髪をすきながらサリーナは、主の穏やかな響きの声に耳を傾け、はい、と慌てて返事を返す。
「十一のときからですので、二年になります」
太陽の光にやかれて浅黒いサリーナとは違い陶器のように白い肌の主は、そう、と声の調子を落とす。
サリーナがどんな粗相をしても、主は声をあらげず穏やかに諭すだけだ。その主の悲しげな声にサリーナは櫛を使うてをとめた。
「なら十三歳になるんだね、私も年をとるはすだ」
「そんな!ルカ様はいつもお変わりありません」
「ありがとう。私も二十七になるのか。サリーナはすっかり女の子らしくなったね。いつまでも、ここにいてはいけないよ。ここは、サリーナにはあわない場所だ」
「ル、ルカ様、私なにか粗相をいたしましたか?」
サリーナには、幼い弟や妹たちがいる。王の後宮に侍女として仕えることが出来ているお陰で、高い給金を得られるのだ。
ここを追い出されてしまえば、また貧しい暮らしが待っている。
「粗相なんて、サリーナは本当によく私につかえてくれているよ。そうだね、もう少しいてもらおうか」
ルカは悲しげに微笑む。
主の言葉の真意を、理解するまでにはまだ間かあった。
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