無理だよ。  



「姫ー、そろそろ歩く練習…って、具合悪そうね。」

「サクラ…おはよう。足は大丈夫。…昨日の夜自分でも治したから。」



……あのあと、一睡も出来なかった。

私…これからナルトとシカマルとどう接したら――…。


「姫っ!」

「…ぇ?」

「顔色も悪いし…ちゃんと検査したほうがいいんじゃ…。」

「ぁ…昨日ちゃんと寝れなかったからちょっと寝不足なだけ!」


…サクラはナルトっとアカデミーの頃からずっと一緒で……サスケも――…。
なのに2人はこの事実を知らない。

…シカマルと同じ班のいのやチョウジだってそうだ。


この事実を知っているのは、私だけ。



「シャキッとしなさいよ!…シカマルが見舞いに来てくれたわよ。」

小声でそう囁いて病室をあとにするサクラ。
サクラは私の気持ちを知っているから…ずっと応援してくれている。

今の言葉も単純に"頑張れ"って言ってくれたんだろうけど――…。


「わざわざ病室の中まで見張らなくたって他言したりしないわよ。」

「いや、今日はただの見舞いだよ。任務もないしな。」


…するいよ、シカマルは。
昨日いきなりあんな事実知らされて……私の中でシカマルの事諦めようと思ってたのに…。
本性を知ったからとかそんな単純な理由ではなく――…

シカマルに対して恐怖を覚えた自分が嫌だったからだ。

6年も片想いをした人に一瞬にして恐ろしいほどの恐怖を植えつけられて……

自分は本当にシカマルを好きでいていいのか分からなくなってしまった。


ならいっそのこと諦めたほうがいいのでは……。



「足…もう平気か?」

「うん。歩くくらいならもう出来るよ。」

「なら、ちょっと外でねーか?」


…ついこの間までの私だったら喜んでこの言葉に頷いていただろう。


だけど、今は――…。



「…っ、うん。行く!」



だからどうか、この作り笑いがばれませんように…。














*

「ほらよ。」

「ありがと。」

時刻は夕方。

あの後、特に何するわけでもなく街を歩き回って…街を歩いてるときも特にこれといった会話もなく

……何が目的なんだろう。

今は誰もいない公園のブランコに座っている。手にはシカマルが買ってくれたお茶がある。
おそらく病み上がりの私を気遣って公園で休憩を…そして話を、と思っているのだろうが――…


いかんせん、今はこの沈黙が痛い。



「……昨日の事だけどさ。」


ビクッ…


ついにきた、


「…悪かった、あんな言いかたして。」

「……へ?」

「俺もナルトも暗部姿を分かる奴がいるとは思ってなかったんだ。
声とか雰囲気とかが違っただろ?あれ、いつ誰に会うかわかんないから大人の姿に変化してるんだ。
…もちろん、匂い対策もしてな。だから、姿がばれないことに絶対の自信があった。

なのに姫は気づいた。
暗部姿の俺達を分かっただけで驚きなのに、ナルトの奴姫に本当の事はなすとか言うんだから…何も言えねぇよ。」

「それは…記憶操作をしても私が感覚でリンクするからとなんとか…言ってなかったっけ?」

「記憶操作は確かに難しいし、リンクする可能性も高い。でも、所詮可能性だ。
それに姫の性格上、俺たちの事をいきなり周りにバラスとは到底思えない。
いくら焦っていてもそんな理由で正体を明かすほどナルトはバカじゃない。
…きっと姫に何かを感じたんだと思う。」


…何か、って。そんなあいまいなこと言われてもなー。

「普段の俺たちが演技だとか訳の分からないこと言われた上にあのきつ言い方だ。
姫を傷つけたのなら素直に謝る。
だけど昨日も行ったとおり俺たちも暗部でいなきゃならない理由がある。
目的について詳しく話すことは出来ないがそれだけは分かって欲しい。」


あ……その目。


私が忍やめようか真剣に悩んでたときに答えてくれたときとおんなじ……

真剣な目。


「…何があっても最後まで仲間を信じる。
それが私の決めた忍道だったのに…いつの間に忘れてたのかな?
ちょっと動揺したけどもう大丈夫。」

ナルトもシカマルも私にとっては大事な木の葉の仲間だ。
その仲間を信じないで疑うなんて…。


それに、もし昨日ナルトとシカマルが言っていた"仲間を騙すことに心も痛まないし何も感じない"が本当なのであれば
シカマルが今日、私にこんな話をするはずがない。


"暗部に心はいらない。"


そんなの嘘だ。

「姫…。」

「私、信じてるよ。」

「……。」


「ナルトとシカマルは木の葉の里を守るために頑張っていて、
過去も今もこれからも……仲間を騙して自分を偽っていることに何も感じてないわけがない、って。

たとえ本人が否定しても私は信じてる。
だって、ナルトとシカマルは木の葉で指五本にはいるくらいの仲間思いの忍者だもんっ。
それに…っ「さんきゅーな。」


ぽんっ…


シカマルの手が私の頭を撫でる。

あぁ、やっぱりシカマルの手は落ち着くなぁ。


「そんな風に言ってくれるのは姫くらいだ。
なるほど…今ならなんでナルトが姫に本当のことはなしたのか…ちょっとだけ分かった気がするわ。」


ね、これが偽りのシカマルだ何て……私には到底思えないよ。

自分を偽ってる人がこんなに優しい手をしてるわけがないもの。


「…本当、ずるいよ、シカマルは。」



諦めるなんて――……出来るわけがない。

たとえシカマルに今まで感じたことのない恐怖を植えつけられようとも……

それ以外の理由が私を取り巻いていようとも…。



私は


シカマルが好きだ。





.




  









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