愛lovesister! | ナノ




「うっ…ぐすっ、どうせ俺なんて、俺なんて」
「あー、ほら、泣き止みなって、ね、キミ」


人の入りが少ない寂れた公園に、涙で地面を濡らす少年と、そんな少年をどうにか泣き止ませようとおろおろする俺がひとり。散歩にと立ち寄った、遊具の少ないこの公園は、周りに住宅が少ない事から人気があまりない。そういうことがあって、休日ということもあり、俺はここまで少し遠出してきたのだ(子供は好きだけれど、だからこそ、小さい子供の傍にいると変な目で見られるのだ。俺が。中学生が公園に来てはいけないなんて法律はないんだぞ)。……だから。だというのに。そんな公園の整備されていない砂場でわんわん泣いている少年を見つけた時には、正直、Uターンでもしようとさえ思ってしまった。
ただ、まあ、いやあ、流石に……悲しみにくれる少年を前に無視して去る訳にもいかないし、少年以外に人はいないし、俺子供好きだし、俺子供大好きだし。そんな訳で冒頭に戻る訳だが、声をかける俺に構うより少年は泣く事を優先したらしい。ううん、困った。
「何がどうして……ん」何かないものかとポケットに手を突っ込んでいたら、適当に家から持ってきた飴の袋に触れる。


「少年、ほら、これ」
「うう?……あめ?」
「あげる」


少年と視線を合わせたまま、まんまる桃色の飴を差し出す。少年はおずおずとそれを受け取り、口の中に含んだ。お菓子効果はやはり絶大で、たった一粒の飴玉で少年は泣き止んだのである。お菓子すげえ。大分落ち着いたのを良い事に、俺はそのままなるべく笑顔を浮かべ、何故泣いていたのかと聞いた。仏頂面で知られる俺だが、どうやら笑顔はひきつっていなかったらしい。少年は飴玉をくれた知らない人間を味方と判断したらしく、おずおずと話しだしてくれた(今回はこれで良かったのだが、見知らぬ人から物を貰い、尚且つ食べるというのは、論理的にかなり危ない傾向なんじゃないだろうか……この少年の未来が心配だ)。
「……弟と、けんかして」その一言をきっかけに濁流のように愚痴を吐き出す少年、いや、壁山塀吾郎君(硬そうな名前だ)。どうやら塀吾郎君は弟君(サク、というらしい)と、おもちゃの取り合いをして、口喧嘩になってしまったらしい。今子供たちの間で流行りのアニメのおもちゃらしいのだが、子供たちのお土産にと両親が買ってきてくれた二つのおもちゃの内一つが、兄弟が大好きなキャラクターのものだそうで。


「かーちゃん言ったッス、おにいちゃんなんだからサクにゆずってあげなさいって」
「そう…。でも嫌だよなあ、塀吾郎君もそのおもちゃがいいんだろう?」
「モチロンッス!」


パンチパーマをぶんぶん揺らして塀吾郎君が頷いた。兄弟姉妹の家庭ではそういう台詞は耳にタコが出来るくらい聞かされるものだが、相当歳の離れた兄弟ならともかく、そう歳の差が変わらない兄弟なんかじゃあ、ほんの少し先に生まれただけで重荷を背負わされる長男長女というのはとても辛い立場にある。理不尽だよなあ、お兄ちゃんなんだからって言葉は。そう言う親の気持ちも分からなくはないが、そう、肯定的に考えられるほど子供は賢くないのだ。


「で、でも」
「うん?」
「サクは俺の弟ッス……だから、だから……ああもう、頭がごちゃごちゃするッス!」
「……塀吾郎君は良い兄さんだね。ちゃんと弟君の事を考えられるんだから」


心がほんわかとして、思わず彼の頭をぽんぽんと優しく叩く。なんだかんだ塀吾郎君は心優しい少年なんだろう、出会って間もない俺でもわかる。この年頃なら何が何でも我を突き通そうとするのに、塀吾郎君は何処かで、弟君の事を思いやることができる。良い兄貴を持ったじゃないか、サク君。


「弟君とちゃんと話し合えばいいんじゃないかな」
「で、でも…サクは俺の話をきいてくれるッスかね…?」
「大丈夫、塀吾郎君は良いお兄さんだからね。ちゃんと二人で話し合って、どうするか決めればいい」


塀吾郎君の話では、口喧嘩もただの罵り合いでちゃんとした話はしないまま家を飛び出してきてしまったらしいし、彼の弟君なら、きっと良い子なのだろう。まあまとまらなかったら、そのおもちゃは二人で共用にするのも良いしね。……と、そこまで考えて、俺は塀吾郎君の背後に立った木からのぞく一人の少年に視線をやった。塀吾郎君とそっくりな少年は、俺達の様子を先程からずっと窺っていた。……これはちょっとほんわかしちゃうな。


「それじゃ、俺家に帰るッス。飴くれてありがとうッス!」
「おうよ」


こっちこそ癒しをありがとう、と、俺は走り去っていく塀吾郎君に軽く手を振る。そうして恐らくは彼の弟だろう木の陰に隠れた少年と視線を合わせ、同じように手を振った。思惑とは少々違ってはいたが、これはこれで良い休日になったなあ、と、塀吾郎君を追いかける少年を目で追いながら考える。俺も、塀吾郎君のような素敵な兄になれたらいいな。


影を重ねる




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -