あかいろ
十二月

明日は保育ルームのクリスマス会。
数日前から鷹くんはこのクリスマス会をとても楽しみにしていました。

「そうだ!くりすますかいにユメもよぼうじぇあにぎ!」
「は?なんでだよ」
「ユメにうたってもらうんだ!」

突然鷹くんがそんなことを言い出したのですが、ユメちゃんは鷹くんとの交流はあるものの保育ルームとは一切関わりがありません。
誘ったところで来るはずがない。迷惑だろ。
そう鷹くんに言いかけましたが、やはり思いとどまって、物は試しに聞いてみることにしました。

連絡先交換はしたもののお互いマメではないためメッセージはあまり続かず、またユメちゃんは何やら忙しそうで、結局これまで会う機会はないままでした。
彼女に会えるなら、たとえそれがクリスマス会だとしてもうれしいのです。

『保育ルームのクリスマス会で歌ってやってくれねぇか』

ダメもとでしたが、返事は直ぐに来ました。

『絶対歌う』

思いもよらぬユメちゃんの確固たる意思に狼谷君は吹き出しました。


◇◇◇


クリスマス会の数々の催しに子どもたちは大喜び。
ユメちゃんの弾き語り演奏もその一つです。
有名なクリスマスソングをいくつか演奏し、みんなで歌い、踊り、クリスマス会は大盛況で幕を閉じました。

「今日はとっても楽しかったよーみんなありがとう!」
「たのじかった!ユメまたくりゅか?」
「うん、また遊ぼうね。ばいばい」
「俺こいつのこと送ってくわ。ちび共のこと頼んでいいか?」

冬は日が暮れるのが早いもので、お開きの頃には既に外は暗くなっていました。
狼谷君がたずねると、鹿島くんは笑顔で頷きます。

「うん、もちろん」
「狼谷君いいよ、私一人で帰れるし」
「いいから、行くぞ」

遠慮するユメちゃんの前を狼谷君は歩いて行ってしまいます。
仕方なくユメちゃんはその後を追いかける形になりました。

「狼谷君、今日は誘ってくれてありがとう」
「いや、こっちこそありがとう。みんな喜んでた」
「うん、喜んでもらえてよかったー」

久しぶりに人前で演奏できたことがうれしかったのでしょうか。ユメちゃんの表情は生き生きとしていました。

「…けど、ほんとによかったのか?」

一方、狼谷君は少し浮かない顔です。

「へ?」
「クリスマスなんて、あいつと過ごしたかったんじゃねぇのか?」
「あいつって?」
「高木ってやつ」

久しぶりにユメちゃんに会えて、演奏が聴けて、狼谷君は確かに満足でした。
けれどどうしてもそのことが頭の端をちらつくのです。

「なんで高木君…?」
「…仲良いんだろ。前に日曜に二人で歩いてるの見たし」
「え!そうなの?声かけてくれればよかったのに」

(鷹が)何度も呼んだけど聞こえてなかったんだよ。と、言おうかと思いましたが面倒で省略してしまいました。

「あー!だから前に日曜にバンドやってるのかなんて聞いてきたのか!」
「あー…」
「てか狼谷君…今までずっとそれ気にしてたの…?」
「別にずっとなんかじゃ」
「やきもち?」
「は?」

一瞬なにを言われたのかわからない様子の狼谷君でしたが、数秒後には頬が赤く染まっていました。
やきもち?これが?俺は妬いてたのか?
咄嗟に口元を片手で隠しましたが、ユメちゃんには既に見られた後でした。

「そかそか、狼谷君かわいいね」
「な…」
「あ!見て、イルミネーション」

駅前には大きなクリスマスツリーがあり、その周りの植え込みもツリーも、華やかなライトで彩られていました。
ユメちゃんはそれを眺めながら微笑みます。

「きれいだね」

光を見つめるユメちゃんの瞳もきらきらと輝いていました。
そんな、イルミネーションではなくユメちゃんの瞳を見つめていた自分に狼谷君ははっとします。
思わず咄嗟に顔を逸らしました。

「明日からもまたがんばれそうだよ。今日を君と一緒に過ごせてよかった。ほんとにありがとう」

大袈裟だなと狼谷君は思いました。
けれど自分で良かったのだと安心もしました。

「高木君はただの友達で、別に特別な関係じゃないよ。私にとっては狼谷君の方がよっぽど特別だもの」

驚いて狼谷君は再びユメちゃんの顔を見ます。
そして彼女の薄らと色付いた赤い頬を見て思わず小さな笑みを零しました。

「ねぇ、駅の屋上にもイルミネーションがあるの。一緒に見に行かない?」
「…ああ、行くか」

凍えるような寒さのクリスマスですが、二人の心はとても温かでした。

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