あかいろ
澤村君と妹
うちのお兄ちゃんは私(妹)のことが大好き。
私の言うことならどんなわがままも聞いてくれるし、欲しいものはなんでもくれる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんが買ってきてたこのお菓子たべてもいい?」
「ああ、いいよ」
「あ、でも飲み物が麦茶しかないな…」
「飲み物ぐらい買ってきてやるよ。何がいい?」
「オレンジジュース!」
「ん」
お兄ちゃんはすぐに適当なコートを羽織って家を出ていった。
受験生にわがままばっかり言うんじゃないよと私はお母さんに怒られたけど、お兄ちゃんはあれで幸せだからいいのだ。
お兄ちゃんは私に甘えられるのが好きだし、それに応えるのも好きでやってる。
お兄ちゃんは極度のシスコンだから。
それから買ってきてくれたジュースはちゃんと半分こして、お兄ちゃんの部屋で一緒におやつを食べた。
学校ではバレーをやってるけど、家では勉強ばっかりなお兄ちゃん。
どこを受験する気なのかは知らない。
もしかしたら家を出る気なのだろうかと、そう考えると怖くて聞けない。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「ずっとユメのそばにいてね?」
「はは、ユメはそろそろお兄ちゃん離れしないとな」
お兄ちゃん離れ?違うでしょ、問題があるのは妹離れできてないお兄ちゃんの方。
よくそんなこと言うわ、私が離れちゃったりしたら寂しくて仕方ないくせに。
そうだ、シスコンのお兄ちゃんが私から離れられるわけがない。
きっとお兄ちゃんは近くの大学を受ける。今まで通り家から通学する。
…だけど不安だ。
お兄ちゃんは一冊も、ここらへんの大学の赤本を持っていない。
「お兄ちゃん、ちゅーして」
お兄ちゃんは私のどんなわがままも聞いてくれるし、欲しいものはなんでもくれる。
「ねぇ」
「何子どもみたいなこと言ってんだ、ほらもう兄ちゃん勉強するから、ユメは自分の部屋戻れ」
それでもお兄ちゃんは、お兄ちゃんのことは決してくれない。
毒気のない、私を信頼しきった顔で「困ったな」とでも言うように笑って私の頭を撫でる。
大きなゴツゴツした手の感触に、私の心臓はドキドキもしたしズキズキもした。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。
「私、お兄ちゃんのこと好きだよ」
「ん、俺も好きだよユメ」
私のお兄ちゃんは私のことが大好き。
だけどそれは私の好きとは違う。
私はお兄ちゃんに抱きついた。
背中に腕を回してぎゅっと力をこめる。
けれどお兄ちゃんは抱き締め返してはくれない。子どもをあやすように背中をポンポンと叩くだけ。
「ユメのブラコンには困ったもんだなぁ」
ふん、お兄ちゃんもシスコンならちゃんと私の事好きになってよ。
キスしてよ、抱きしめてよ、離れないしずっと傍にいるって言ってよ。
こんなに両思いなのにこんなに片想いなのっておかしいじゃない。
ねぇ、お兄ちゃん。
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