あかいろ
七月
「私に会いたい時は、お兄ちゃんに言って連れてきてもらいな」
ユメちゃんとそう約束をしてからというもの、鷹君はお兄ちゃんに頼んで週に一回はユメちゃんのところへ連れてきてもらっていました。
「ユメー!きたじょー!」
「やっほー鷹君、狼谷君」
ユメちゃんはいつも裏門の花壇のところにいます。
別の学校に通っているバンド仲間と、ここで待ち合わせをしているとのことでした。
「鷹君、私、この前鷹君が言ってたアニメの曲練習してきたよ」
「おおー!ききたいじょ!」
「おっけー」
ユメちゃん、鷹君、狼谷君の三人はここで、おしゃべりをしたりユメちゃんの歌とギターを聴いたり一緒にお菓子を食べたりと、いつも自由に過ごしていました。
一人で人を待っているよりも、こうして誰かと一緒に過ごせる方がずっといいとユメちゃんは喜んでいます。
狼谷君の方も始めこそ面倒くさがったりしましたが、今はそれなりに楽しんでいました。
「そういや狼谷君、甲子園予選結構勝ち進んでるんだってね」
「ああ、まぁな」
ユメちゃんの演奏を聴いた後、三人で一袋のポッキーをシェアして食べ始めました。
ぽりぽりと食べ進めながら、鷹君は「にーじゃすごいんだじょ!」と得意げです。
「ねー、兄ちゃんすごいね。ねぇねぇ、今度試合見に行っていい?」
「おれも!おれもいく!」
「…やめろ。気が散る」
「えー」
ユメだけなら別にいいかな、と狼谷君は考えたのですがやっぱりそれも気にかかりそうだと思いました。
ただでさえ最近の試合は女の子の声援ばっかりです。それはそんなに気にはしてませんが、そこに知り合いが混ざるとなるとなんだか複雑なのです。
しかも最近の試合は相手が食中毒になったりボールが風で流れたりと、ラッキーとまぐれで勝ってしまったような試合ばかりです。
正直、そんな試合を見に来られてもなとも思ってしまいます。
「絶対かっこいいのになー、残念」
「…………」
「にーじゃはかっこいいじょ!」
「ねー」
野球部が勝ち進むようになってから、狼谷君はいろんな女の子に声をかけられるようになりました。
かっこいいとか応援してますという言葉から、好きですとか付き合ってくださいという言葉まで。
しかしそれらはどれも狼谷君にとって心惹かれるようなものではなく、狼谷君はすべてスルーしてきました。
ユメちゃんに言われたところでそれは同じことです。
けれどこの二か月ほどそれなりに親しく付き合いをしてきた仲で今更かっこいいなんて言われて、少しだけ驚いてしまいました。
「あ、そうだこれ次のライブのチケット。よかったら来てよ」
普段なら絶対受け取らないようなそれを思わず受け取ってしまったのも、その動揺を引きずってしまっていたからかもしれません。
〔back 〕