あかいろ
そしていつか恋を教えてあげよう
「好きです!私と付き合ってください!とろろきくん!」
「(…噛んだ)」
「(噛んだな)」
「(あ、もう死にたいって顔してる)」
白昼堂々、クラスのど真ん中で私は大告白大会を催した。
返事は聞いていないが、早くも逃げ出したい気持ちでおっぱいだ。いや、いっぱいだ。
私の気持ちはもうずっと、当の想い人以外にはバレバレだった。
だから周りは突然のシチュエーションに驚いてはいるものの私の告白内容自体はさしたる事件でないらしく、とりあえず今は「あ、こいつ轟の名前噛んだな」ぐらいしか考えてなさそうな顔をしていた。
そうだ。噛んでしまった。よりにもよって告白の場で、相手の名前を噛んでしまった。なんたることだ。死にたい。
目の前のとろろきくんがひたすらきょとん顔をしているのも相まって死にたい。
ああけどそんな顔もかっこいい…
「付き合うって…何に付き合えばいいんだ?」
わーお古典的かよ!
「えーっとそういうことじゃなくて…私をあなたのパートナーにしてほしいというか…こう…あ、そう!恋人!恋人になってほしいの!」
「…それは結婚しようってことか?」
ちがう!!!
発想が過激だ。悪く言えば少しばかり貧困だ。
結婚してくれるならそれはそれでめちゃくちゃいいけど、いきなりそんな重い女になる気は無い。
「別に結婚前提じゃなくていいの!ただ恋人になってほしいだけで…」
「結婚もしないのに恋人に?意味あるのか?」
「じゃあ結婚しよ!?」
重い女でいいなら私は全然それでいいよ!?
「悪いが、俺はまだ結婚できる歳でもないからそういうことは考えられない」
なんなんだよ!!!
思わずひっぱたきたくなったのを堪えて私は頭を抱えた。
周囲の「どんまい」の視線がつきささる。
そもそもこんな公衆の面前で告白大会を開催したのは、人前でなら轟くんも私の言葉をそう無下にはせんだろうと思ったからだ。
出会った当初の彼はまぁちょっといろいろあったが、最近は人を慮る行動をしているのが見て取れる。
脈がないのも彼がそういったことに興味がないのもわかっていた、それでも言いたかったし、あわよくば美味しい思いをしたかった。
でも想像以上だ、興味がないとかそういう問題じゃない。
「じゃ、じゃあせめて…」
「…せめて?」
「お友達になってください!」
「(いやもうクラスメイトだし…)」
「(もう半年経つのに友達て…)」
そんなクラスメイトの心の声が聞こえた。
ばかにしてんじゃねーぞ、あの轟くんだぞ、私なんか友達とか思われてるわけねーし、ていうかお前ら全員たぶん友達なんて思われてねーから!【クラス一緒の人】ぐらいの認識だから!【友達】とは雲泥の差だから!
うるうるとさせた目で轟くんを見つめながらも、私は心の中で悪態ついていた。
なりたい。どんな名称でもポジションでもいいから、とりあえず轟くんの中で一番の存在になりたい。
「友達…」
轟くんはそれまでのキョトン顔でも興味の無さそうな顔でもなく、少し眉を寄せて不機嫌そうな顔をしていた。
ああその顔もかっこいい…じゃなくて、あれ?なんか気に触った?私なんかとは友達にはなれねぇと?
「俺は別に…もう夢野とは友達のつもりだったけどな…。なんか…違ったんだな…」
きゅーーーーん。
なにそれ…かわいい…
言動もさることながら、ちょっと拗ねたような声色と伏せ気味になったまつ毛が私の胸きゅん値を爆上げした。
「友達です!もちろん友達です!私にとって轟くんは、一番特別で一番大好きな友達です!」
興奮しすぎてたぶんすごく醜い顔をしていたと思う。
けれど轟くんはそんな私に向けて、照れたように笑ってくれた。
「…ありがとう」
ああー…
告白してもお礼なんて言ってくれなかったのに、これだと言ってくれるしそんな顔も見せてくれるのね。
…私は急ぎすぎたのかな。
そうだよね、もっと彼のペースで進めるように頑張ろう。
「じゃあ轟くんさっそく明日デート行こ!?」
「え?」
「友達なんだから!普通だよね!ね!水族館とかどう!?」
この後「友達だから普通」というパワーワードでゴリ押ししてデートの約束を取り付けることに成功した。
そう、彼のペースでいい。友達初心者の彼に、友達がなんたるかということを私が教育すればいいんだ。
そしていつかは……
「へっへへへへへ…」
にやつく私にこの日一日中、クラスのみんながどん引いていた。
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