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「いやお前は帰れって!」
「一人じゃ帰り道わかんない」
「嘘つけ!この道まっすぐだから!ついてくんな!」
「何でそんな邪険にするかなー…あ、もしかして正門で彼女待たせてるとか…!きゃー浮気者」
「マジ帰れ!」

一護は心底困っていた。
露草が傍にいると自分は死神化できない。
死神姿が一般の人間に見られることはないが、問題はこの身体。

代行証を使って死神化すれば、まったく動かない屍同然の体だけがそこに残る。
事情を知らない人間がその現場に居合わせればどうなるか…考えただけで頭が痛い。まったく不便極まりないことだ。
以前はそのせいで気づけば体が病院に送られていたということがあった。もうそんなのはまっぴらだ。

「安心してって、何も邪魔しないから。こっそり苺の彼女見て帰るし」
「彼女なんかいねぇっつの…」

そんな会話を交わしながらも一護は全速力。
そしてそこでようやっと気づいた。

なんで露草は俺についてこれてるんだ。

「露草、お前…」
「うん?」

息一つ乱さず駆ける彼女に、問う。

「走るの得意なのか。」

…いやいやいや。違う。そういうことが聞きたいんじゃない。
待ってくれ、えーと、つまりだな…

「運動神経いいのか」

…違う!!!
そうじゃねぇ!なんか言いたいことと違う!

「あーったく!…あれだよ!あれ、え…あー…」
「…うん、苺、ゆっくり考えていいから。落ち着いて。はい、ヒッヒッフー」
「ひっひっふー…っておかしいだろ!?それ落ち着くためのもんじゃねぇんだよ!」

まさかのノリつっこみをしてしまった。一護のプライドに地味にダメージ。

もうそこで、彼は諦めた。
露草に何を問うでも、何を確かめるでも、もう後回しでいい。
とにかく今はさっさと学校行って、虚ぶっ倒して帰る。

それこそ体なんて、いっそ今ここで置き去りにしてしまえばいい。
そうすれば露草は、突然倒れた俺に驚いてその場に留まってくれるだろう。
救急車を呼ばれて病院送りかもしれないが、それはまた後々何とかしよう。

そうと決まれば一護の行動は速かった。
走りながらズボンのポケットから代行証を取り出し、後ろの露草を振り返ることもせず、胸にそれを押し当てた。

ぐんっと、体と魂が離れる独特の感覚。
そこで彼は一度足を止めて死神姿となった自分の格好を確かめて、さらに振り返って、倒れた自分の体を確かめた。
…そして、驚愕に目を見開く。

ばっちり、露草と目が合った。

「「…え…」」

驚きによって漏れた二人の声が重なる。
一護にいたっては脳内パニックもいいところ。
見向きもされずに地べたに倒れている己の体がやけに惨めだ。

「な、お前、俺が見えてんのか…!?」
「な、苺、まさかこんなとこに体放置してく気…!?」

またもや二人の声が見事にカブった。
一護はもうどこからツっこんでよいのかわからない。

「ちょ、せめて学校にまで体持ってきなよ!心臓も動いてない屍同然のこんなの道端に置いてって、通報されてもしらないよ!?」
「え?あ、そう…だな?」
「っていうか学校まで入って行きなよめんどくさいな!何でこんなところで死神化すんの?びっくりしたじゃんか」
「わ、わるい…」

謝りながら、体に戻る。
起き上ると、倒れた瞬間に打ち付けていたのであろう顔が痛かった。

もう何が何やら。

はっきり死神化≠チて言葉を彼女の口から聞いたが、気のせい…ではない。
うん、気のせいじゃない。こいつは知ってる。
露草は死神を知ってる。

「ったく、急いでるんでしょ?無駄に時間使わない!はやくはやく!」
「お、おう…」

この様子だと、俺が死神だということも元からわかっていたようだ。
どういうことだ。

今、虚のもとへと向かっているというのもわかっているんだろうか。
…駄目だ、何も思い浮かんでこない。とにかく頭を整理する時間がほしい。

「…しょうがねぇな…」

そのためにもまず、虚を全部ぶっ倒してやろう。



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