疑問と問題
先日の徳川さんの一件以来、石田さんがなんだかおかしい。
今までは昼休みに食堂で一緒にご飯をするか、図書館やその道のりでたまたま会うだとか、それぐらいしか会うことは無かった。
だけど何故か、徳川さん以来、石田さんとの遭遇率が高すぎる。いや、遭遇率だとかそういうものじゃない。石田さんがキャンパスの前で私を待っているのだ。
只でさえお昼を一緒にしているというのに、帰りまで一緒となると周囲の視線が痛い。
石田さん本人は気が付いていないのかもしれないけれど、石田さんは周りの女の人に意外と人気があるのだ。
そんな石田さんと私が一緒にいるのを見た女の人達がよく話し掛けてくる。影があるところが良いとか、一匹狼なところが素敵だとか、そんなことを言っていた。
彼女達からすれば、私は地味で目立たない存在で眼中にもない。だから、石田さんとの障害にはならないと踏んでいるため、被害はない。
だけど、だけどだ、この数日は毎日一緒に帰っている、もとい図書館へ行っている。つまり目立ってしょうがない。なにより、あの女の人達の対応が日に日に怖くなってきているのだ。
何故こんなことになったのかはさっぱりわからない。だけど石田さん本人に聞いてもなにも教えてくれない。
と、言うわけで、石田さんが席を外している隙をみて大谷さんに聞いてみることにした。
「ふむ…つまりぬしは、三成につきまとわれるのが嫌と」
「違いますよ…」
「そうかそうか、ぬしは三成が嫌いか…そう伝えておこう」
「ちょっ、やめてください」
「ヒヒヒッ!冗談よ、ジョウダン。アレを傷付けたくはないからなァ」
聞いたは良いけれど、大谷さんはずっとこの調子ではぐらかされてばかりだ。もう慣れているから多少の戯れは諦めているけれど。
「それで、石田さんは徳川さんと会ってからずっとああなんですけどどうしてなんですか?」
「…知っての通り、三成はあの男に良い感情を持っておらぬのだ。まぁ、われもあの男は好きではないがなァ」
「でも徳川さんっていい人そうでしたよ?」
「ぬしにはあの男の本質はわからぬ。…なんにせよ、三成は好いておらん」
「はあ…」
とりあえず、大谷さんと石田さんが徳川さんを嫌いだと言うことはよくわかった。
「じゃあ、どうして石田さんは私に構うんでしょうか…」
「それは三成本人に聞くのが筋であろ?」
「聞いても教えてくれないし、無言になるんです。少し不満そうと言うか…答えたくないって表情ですし」
「…成る程なァ」
一瞬、大谷さんがにやりと笑った。
その笑みに、今までの大谷さんから受けた仕打ちを思い出して少し顔がひきつった。
「三成はぬしをあの男に近付けたくないのであろ」
「徳川さんに?でもなんでそんなこと…」
「三成はあの通り、友と呼べる者が少ない。だが、一度信頼すればとことん信頼するようなやつよ」
「はあ」
「折角の玩具を他人に奪われるのは癪。それと同じことよな」
「その言い方だとまるで私玩具みたいなんですが」
「ヒヒヒッ!例えよ例え。われからすればぬしは玩具であるがな」
一言多い大谷さんではあるけれど、なんとなく理由はわかった気がする。
自惚れていいのかはわからない、けど大谷さんの言うことを信じると、石田さんは私を少しは信頼してくれているということだろう。
そう考えると、ほんの少しだけ嬉しいようなむず痒いような、変な気分にさせられた。
「さて、話は終わった。われは書でも読むとしよう」
「い、痛い痛い!大谷さん踏んでます!」
「おぉっと、つい勢いがつきすぎた。すまぬなァ、ヒヒヒッ」
本を取るとかで、車椅子の方向転換をするついでのように私の足を引いていく大谷さん。明らかにわざとだった。
…会うたびに毎回毎回攻撃してくるのは本当にやめてほしいと思う今日この頃。
(121101)
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