煙草と焼餅



現ぱろ。のはず。
シチュエーションとか何だか良く分からない。











一つ、煙草を吹かした。あぐらをかく俺の膝を枕にして丸くなる男の白銀の髪を、ふわり撫でる。
「また、それか…」
「ん?」
俺のくわえる煙草を指差す。これは煙を嫌う。その指が無気力に満ち、気だるい顔をしているのは眠気故か。そういえば声も掠れている。最後に男の寝顔を見たのはいつだったか。鉄製灰皿に煙草を押し付け、煙が絶つのを確認してから男に視線をやる。明らかに不機嫌なご様子である。
「悪い悪い、そういやあんた、煙嫌いだったな」
何回も謝罪を試みたが、男の不機嫌は治りそうに無かった。一度気を悪くすればなかなか治らないこの男の性格故に苦い思いを多々経験した俺だ。対処法くらいは心得ている。その俺の経験上、こういう時は拒否されても黙って男の側にいてやるに限る。
柔らかくも鋭い印象を与える髪を撫でながら、男の機嫌が良くなるその時をただただ待つ。15分くらい経っただろうか、頑固男がようやく口を開いた。
「…貴様は、それ程煙草に依存しているのか」
「んー…、まぁ、煙草ってのはそんな物だしな、一度吸ったら止まらなくなっちまうんだ」
はにかんで笑ってみせると、今まで逸らされていた男の視線とかち合う。碧空を写した薄緑の瞳は、月を思わせる柔らかい琥珀色を孕んでいる。髪と同色の長い睫毛が、時折小さく震える。
「…煙草、止めりゃあいいんだろ」
愛しの煙草とお別れするのは名残惜しいが、愛して止まない男とお別れする方が酷である。少し自棄気味に吐き出してやったが、不思議と禁煙に抵抗は無かった。しばらく視線が合った後に男が口を開く。
「そんな物より、私に溺れてしまえばいい」
「…あんた、そんな恥ずかしい事言う奴だったっけか?」
きょとんとした様子の男の顔を見て、笑みが溢れた。成る程。古くからの親友に、嘘の吐けない馬鹿正直者と言われるだけはある。
「何故笑う」
「いや、あんたがあまりに男らしいもんだからよぉ」
「…意味が分からん」
ふてくされて布団に顔を埋めた男に微笑み、数本残った煙草の箱を握り潰す。
「俺も時々あるからなぁ」



それ、嫉妬って言うんだぜ。





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