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柿崎隊


よいしょ、と優希が資料室で借りてきたデータを抱えなおす。先日から、少しずつではあるが、ランク戦をやるように頑張っている。といっても、まだ数人としかやっていないが、前よりは随分とした進歩である。というわけで、戦う可能性のある同じ正隊員たちのデータも調べることにした。さすが正隊員というだけあって、データはたくさん存在する。自分の実力に一番近いであろうB級の下位から調べていっているのだが、こうも多いと調べがいもあるというものだ。存分に研究させてもらおう。

えっと、次は、と次の隊員を見ようとして、その名前に「おお」と思った。柿崎さんだ。文香ちゃんのところの、隊長さん。なんでも照屋はこの柿崎を支えたいとボーダー入隊前から思っていたらしく、思い入れも強いそうだ。いい人なんだろうなあ、と嬉しくなる。広報活動で見ていたときも、いい人そうだった。ふふふ、と笑いながらノートを書いていく優希は、たぶんはた目から見るとかなり変である。

「隊長、ここ空いてます」
「お、ラッキー!」

ふと、聞こえてきた声に聞き覚えがありひょい、と座ったまま背伸びをする。すると、むこうも気づいたのか「あ!」と笑いかけてくれた。

「優希!」
「文香ちゃん……!」

照屋とこうして会うのは久しぶりだ。任務で同じシフトになっても、巡回区域が違うためあまり顔を合わせていなかった。

「どうした?」
「あ、ちょっと友達が……」

照屋の口から出てきた友達≠ニいう言葉にぱああっと優希の顔に笑みが浮かぶ。うふふ、友達だって。ふふ。優希がへらへらとしていると、「おーい」と男の人が声をかけてくれた。あ、あの人、柿崎さん……。

「ひとりならお前もこっち来るか?」
「ひ、ひ、え……!?」

思わぬ展開だ。む、無理だ。そんな、4対1じゃないか。照屋がいるとは言え、半分以上が知らない人の状況で食べるなんて。優希が狼狽えていると、「ちょっと、人見知りな子なので」と照屋が柿崎に断りを入れていた。ああ、文香ちゃん、本当に大好きだ。





「なあ」
「ふ、ひっ……?!」

食事を終えたのか、柿崎隊の一同が近くにまで来ていた。集中してそれに気付いていなかったため、かなり近くに。「それおれらだろ? ほんと勉強熱心なんだなぁ」柿崎の言葉に、先日の米屋との会話を思い出した。本当に、知ってるんだ……。

「あ、あの、あ、ごめ、なさ……」
「え、なんで謝んだよ。すげーじゃんまとめて」
「あ、あの隊長優希は……」
「あっ……! 人見知りなんだっけか……悪い、集中してたのに声かけて」
「い、いいいい、いいいえ……」

こちらが悪いだろうに、気を使って謝ってきた柿崎に申し訳なさが募る。すると、柿崎は「おれが柿崎で、こっちが巴、宇井だ」と簡単に紹介してきた。

「どうも」
「あ、あのあ、ど、どうも……」

優希からも頭を下げる。

「もし今度どっかで会うことあったら、気軽に声かけてくれ。おれらもお前と話してみたいし」
「あ、あの、あ、あり……」
「じゃあな」

優希がおろおろとしている間に柿崎は手を振って去ってしまった。他の隊員も優希に会釈して、照屋に「じゃあね、優希」と言われたので、それにはかろうじて「じゃ、じゃあね……」と返すことができた。残された優希は、先ほどの会話を思い出しながら、手元にある柿崎隊のデータを見た。

す……すごくいい人だった……。優希の中で、柿崎さんはいい人、というのが深く刻み込まれた瞬間だった。