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かなでのこと、ガキの頃から好きだったんだ。今となっちゃ、いつから好きだったのか分からないくらい、ガキの頃から。あいつが隣にいるのが日常で、俺があいつの隣にいるのが当たり前で。俺の中で、女子ってのは「かなで」か「かなで以外か」だったんだよ。……改めて口にするのは、こっ恥ずかしいけどな。
けれど、かなではそうじゃない。俺は、男の中の一人でしかなかったんだろうな。まぁ、あいつにとっては幼なじみの男っつったら律も入るし。
それでも俺は……かなでのそばにいられるだけで良かった。一番あいつを分かっているのは俺だっていう自信を、変わらず持ち続けていたかったんだ。そうしたら、いつか俺を好きになってくれるんじゃないかって。
けど、あいつと横浜行きを決めてからはっきり気づいたことがある。
かなでは、変化を恐れていない。
星奏に来るのだって、決めたのはあいつ。俺はあいつの側にいる「当たり前」を変えたくなくてついてきただけ。
かなでは、田舎に閉じこもった狭い世界から抜け出したかったんだよな。――そこら辺、かなり律の影響を受けてるんだろうけど。
律は変わっていた。
かなでも変わった。
変わるのを恐れていたのは俺だけ。あの心地よい閉鎖感のある世界を変えたくなくて、しがみついていたのは……俺だけ。
嫌だったんだ。俺ばかりがあいつのことが好きで、あいつは俺の気持ちなんて知らないで別の男を見ていて。
かなでがあんな表情をするなんて知らなかった。あんなに幸せで甘い、表情豊かな音を出すなんて、想像できなかった。
誰よりかなでを知っているつもりでも、いつの間にか自分を知らないかなでが増えていたことに苛立った。ぶっちゃけて言うと、ただかなでをとられるのが耐えられなかった。そんなの、幼稚園児並みの独占欲でしかないのにな。
――そんな自分とは、早くおさらばしたいって思う。
「八木沢がいたからとか、タイミングが悪かったから、じゃない。俺が振られたのは、かなでに俺は無理だったから。俺を選ぶなら、かなではとっくに選んでる。それに気付いたら、妙にスッキリしたよ。……って、何言ってるんだろうな、俺。本当、カッコ悪いな……」
「あぁ、カッコ悪いな」
「おまっ…そこはフォローするところだろうが!」
「お生憎様、私は嘘はつけないタチでね」
「あーはいはい。お前に期待した俺が間違っていたよ。つーか、今のは全部独り言だから、別にお前の感想はいらねぇんだよ!」
自分勝手なことを言っている自覚はあったが、こんな自分の胸の内をさらしているのがいたたまれなくなり、プイッと支倉から顔を逸らす。支倉はクスクス笑いながら「悪い悪い」を謝っているが……時既に遅し、だ。
顔を赤らめて拗ねている響也だったが、視界の端にエメラルドグリーンの髪が見えたかと思うと、急に支倉の顔が耳元に近づく気配を感じて。
「確かに今の君は最高にカッコ悪いが……自分をごまかしてカッコつけている君より、100倍カッコいいぞ」
「………っ!」
反射的に、支倉との距離をとる。
吐息交じりに耳元で紡がれた言葉は、響也の心臓の鼓動を急激に加速させた。
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