眠れぬ夜A | ナノ

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「は……支倉…?」

完全に逃げ腰の体勢のまま、響也は辛うじてその人物の名前を呼ぶ。暗闇で細部までは見えないが、支倉はこの状況に、口の端を上げてニヤリと笑った……気がした。

「何だ、壁に張りついてみっともない。私を幽霊か何かと勘違いしたのか?」
「ううう、うるせぇ!ほっとけ!…そんなことより、お前こんな時間にどうしたんだよ」
「そうだな。………眠れなくて、な」
「え、……あ、あぁ、そうかよ」

支倉から意外にしおらしい反応が返ってきて、僅かばかりの戸惑いが響也の中を駆け抜ける。ただ、それを悟られるのは気に食わないので、出来るだけ何でもないような受け答えをしてみた。

「たまには一人で星を眺めたい時もあるのさ。君こそ、怖がりのクセに真夜中の庭に出てくるなんて……どうかしてるな」
「うるせぇな!……俺だって、一人で考え事したい時だってあるんだよ」
「今のは一応君をからかったつもりなんだが……手応えがないのは面白くないぞ」

ああくそ。何なんだ、このお互いの腹をさぐり合うような会話は。――どうせ、知ってるんだろ……かなでとのこと。

支倉はかなでの親友で、基本的に二人の間には隠し事はないはずだ。というか、かなでの態度を見たら、察しのいい支倉が気付かないわけがなかった。

それに先日、形はどうであれ自分がかなでをどう思っているか――その気持ちを知られた相手であるから、諸々の報告をする義理はある。

支倉のよそよそしい態度がむず痒くなった響也は、意を決して口を開いた。

「あのな、支倉。俺――」
「告白」
「えっ…?」
「告白、したらしいな。小日向に」

ちょうど自分が触れようとした話題を先にされてしまった響也は、呆気にとられて目の前の少女を凝視する。暗闇に目が慣れてきたのか、先程よりもはっきりとその整った顔が見えた。

「眠れないのも、大方色々考え込んでいるからなんだろう?こんな場所で出くわしたのも何かの縁だ、愚痴の一つや二つ、聞いてやってもいいぞ」

そう言いながら、支倉は響也にゆっくりと歩み寄る。そして、響也はかなでの困った笑顔や、自分を避ける様子を回想する。

確かに、モヤモヤした感情は胸の内にあって眠れないのは事実だ。しかし……。

「愚痴ることなんて……一つもねぇよ」

 響也は、自分の素直な感情を口にした。

「そうなのか?ずっと好きだったクセに、やけにさっぱりしているな」
「まぁな。あいつに告白して、色々気付いたこともあるし」
「というと?」
「つまらない話だぜ。……ああ、そうだ」
「?」
「愚痴はねぇけど……俺の独り言くらい、付き合えよ」
「……ふふ、承知した」

響也は月明かりに照らされた中庭のベンチに腰掛けると、ニアもその隣にゆっくりと寄り添った。

よくよく見たら、支倉は羽織るものも何もなく半袖のTシャツを着ている。まだ九月だが、流石に深夜も三時になると寒そうだ。響也は自分が今着ている薄手の長袖パーカーに手をかけた。

――何なら、これでも着るか?

そう言いかけたのだが、自分の真横にある支倉の顔を見たら、喉の中で詰まって声にならず……。パーカーを掴んだ手も、何でもない様にストンと落とした。








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