05
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「怖い……。兄さんは守とうまくいかなければ俺のところに戻ってくればいいって言ってた。でも、でも、兄さんに俺より特別なヤツができたら? 兄さんが俺を一番に考えてくれてるってわかってる。守に惹かれてるのに兄さんが他のヤツに惹かれるなんて見たくないなんてわがままだってこともわかってる。でも、でも」
それでも―――怖いんだ。
俺には兄さんしかいなかった。
ずっと俺のそばにいてくれたのは兄さんなんだ。
と、何度も言葉を途切れさせながらリュートは言い、項垂れた。
俺は、何を言えばいい?
この兄弟と知り合って半年近く。
俺はリュートたちのことを何も知らない。
守に対して言ってやれる半分も言えることなんてない。
何故リュートかここまでネイトに依存するのか、知らない。
俺にはこいつにかけてやる言葉がない。
もしかすれば守なら言葉なんかなくてもこいつを元気に、笑顔にすることができるのかもしれない。
でも俺にはできない。
"だけど"。
「……おい」
「……」
「とりあえず腕、ほどいてくれないか。痺れて痛い」
ハッとしたように顔を上げたリュートと目が合う。
最初のころの激情はすっかり鳴りをひそめ、どうすればいいのかと戸惑っているようにも感じれた。
「それともまだ俺とスるか?」
問えば、息を飲むのが伝わってくる。
「……スるならするでもいいから。先にほどいてくれ」
涙の膜が張った瞳が揺れ、俺を凝視してくる。
ため息一つついて待っていると少ししてから俺の上から退くと、拘束をとってくれた。
ずっと縛られていたからじんじんと痺れている。
腕をさすりながら気まずそうに俯いているリュートの横顔を見つめる。
「それで、どうするんだ?」
「……っ……あ」
勢い任せならともかく、今の状況でこいつが俺とするっていうことはもうないだろう。
中途半端に脱がせられてたズボンを履き直していく。
「しないなら、お前も履けよ」
ベッドの上に投げ出されていたズボンを指さすと、さっと顔を赤らめ慌てて履いていた。
焦っているその横顔は、だけど不安が解消されたわけでもなんでもないから暗いままで。
ぎゅっと唇を噛んで顔を背けるとベッドから降り、
「……帰る」
ぼそりと呟き部屋を出ていこうとする。
「待てよ」
ドアノブに手が触れかける寸前、呼びとめ、近づいた。
俺が近づくたびに、怯えるようにその華奢な肩が震える。
「……頬が痛い」
そう言えば、またリュートは肩を震わせ、少しして振り返った。
「……殴りたいなら殴れ」
「言うことはそれだけか? いきなり押し掛けてきて好き勝手して」
実際のところ頬の痛みはもうそれほどなかった。
少しひりつくくらいの頬を手で押さえながら冷静に言い返せば、リュートはまた唇を噛みしめる。
不安や怯えの色を隠すように俺から視線を逸らしながら、それでも声だけは少しだけいつものように強気なものを出してきた。
「好きに……すればいい。謝る気はない……。兄さんに近づいているお前が嫌いだ。だから謝らない……けど、お前の気のすむようにしろ」
「……」
ため息が出る。
謝る気はない。
それは本心なんだろうが、言葉の端々で、時折ちらりと俺を視界に入れる視線で、後悔しているということも伝わってきていた。

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