Sweet Birthday 1


放課後のざわついた教室でひとつの声がやけに鮮明に聴こえた。

「え―――、誕生日なの」

それに対する俺の素っ頓狂な声もやけにデカく響く。
俺の隣の席は羽純ちゃんでそこに実優ちゃんが鞄片手に立っていて、この後優斗さんの家に夕食を作りに行くっていう話をしてた。

「うん。ゆーにーちゃん今日お誕生日なの。仕事が忙しいらしくって遅いみたいだから夕食だけでも作ってあげておこうかなと思って」

帰りに寄るんだ、って可愛い笑顔を浮かべてる実優ちゃん。

「そ、そうなんだ」
「うん。どうかした?」
「え? い、いや、なんでもない。じゃ、じゃあまた明日ね! 和! ゲーセンでも行こう!!」

実優ちゃんは優斗さんの姪で、いまは松原と一緒に暮らしてたけど前は優斗さんと一緒に暮らしてた。
優斗さんは実優ちゃんんことを好きだったっていうか二人は付き合ってた―――わけだけど、優斗さんはフラれて。
でもって俺も実優ちゃんにフラれたわけだけど。
……そんな俺と優斗さんが偶然出会って……セフレみたいなーっていうかセフレだなんて実優ちゃんに言えるはずねぇ!!

「金ないから行かねぇ」
「いいから! 行くぞっ!」

そっけない和を引っ張って、変に動揺してるのを実優ちゃんたちに悟られる前に俺は教室を後にした。
だけど「引っ張るな、ボケ」って和に叩かれ「まっすぐ帰るからな」ってあっさり俺は切り捨てられ―――数十分後俺はひとりでうろうろしていた。

言葉通りうろうろだ。
メンズショップを覗きながらうろうろ。
いや、今日優斗さん誕生日だなんて知らなかったからプレゼントなんて用意してない。
だから買っておこうかと思ったんだけど。
いや、ていうかそもそも会う約束もしてねぇんだけど。
いや、つーか、そもそも俺渡していいの、プレゼント?
夏の終わりに優斗さんと知り合って、で、なんか流されるままエッチして、そのあと毎週会って毎回エッチして―――ってもうマジで数えれないくらいヤってんですけど。
そんな俺と優斗さんの関係ってなに、やっぱセフレだよな。
セックスフレンド、フレンドってことは友達だし、友達にはプレゼントやるし。

うん、あげたいし……。
でも先週会ったとき全然誕生日の話でなかったよなぁ。
言ってくれれば俺お祝いするのに。
でも優斗さんの性格的に言わないか?
それに仕事忙しいって言ってたし。
あれ、じゃあ今買ったところで渡すの週末だよな。
別にいいんだけど……。
とりあえずお祝いメールでも送る?
実優ちゃんから誕生日だって聞いて、とか。

「―――様」

電話のほうがいいかな。
でも、だけど、なんとなく直接会って―――って、変かなぁ。

「お客様」
「……へっ!?」
「なにかお探しですか?」
「え、あ、えと」

店の中でぼーっとしすぎてたらしい。
いつのまにか隣に女性店員が立っててにこやかに訊いてくる。

「……あ、えと……知り合いが誕生日で」
「お友達ですか?」
「……はぁ、まぁ」
「クラスメイトさんですか?」
「……え、っと」

いやー12歳年上のイケメンリーマンなんですよー、って言いたいけど、接点なんだよって感じだし。
つーか、別に言っても変じゃないのかもしれねぇけど、どうしても優斗さんとのこと思い出すと妙に挙動不審っつーか、なんか動揺しちまうっていうか、落ち着かない。

「……少し、年上で」
「そうなんですね。それじゃあこれなんかいかがですか」

店員のオネーサンがいろいろと見せてくれる。
アクセとか革素材の小物とか。
俺が少し、って言ったからかそもそもいまいる店自体が優斗さんのイメージとはちょっと違うところで。

「あー……っと……出直して来ます」

すんません、って店員さんに謝って店を出た。
ぶらぶら歩いて辿りついたのはデパート。
俺はあんまり……っていうかほとんどこない店をうろうろしてみる。
いいなーって思った財布があったけど値札見てちょっと引いて、自分の財布覗いたら当然足りるわけなくて却下。
そして―――

「……俺、ショボイ」

なんでこんなに悩んでんだよ!
って自分にツッコミいれながら2時間近くうろついて買ったのはハンカチ二枚だった。

「……しょーがねぇじゃん!! いま金欠なんだよ!!」

自分にいい訳を叫んだ途端、ぐーっとお腹が鳴って俺はため息をついて近くにあったファーストフードに入っていった。


***

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