媚薬なHONEYA
『すいません』
朱理くんからかかってきた電話の最初にまず謝られた。
不安が過って、捺くんになにかあったのか、と相当焦った。
『今日飲み会だったんですけど、途中で捺がトイレに立って……それでしばらく戻ってこなかったんです』
怪我とかじゃありません、と俺の動揺を察したのか朱理くんが前置きしてからいきさつを話してくれた。
『今日の飲み会結構人数多くて、俺が把握できてなかったのもあるし……。クロにちゃんと言ってなかったのもあるし……すいません』
何度も謝る朱理くんに、君のせいじゃないよ、と何回か言った。
実際朱理くんも、それにクロくんも悪くない。
捺くんも―――、たぶん。
『トイレで会ったのか捺、他のテーブルで……友人の沢崎ってやつとふたりで飲んでて。それでその沢崎が……』
いつもサバサバとしている朱理くんが歯切れ悪く、悪い予感はどんどん増していく。
けど最悪の状況は免れはしたんだけども。
『俺が捺遅いって言って、それでクロが沢崎とふたりで別テーブルで飲んでるってこと教えてきて、慌てて……』
要約すれば―――
沢崎くんというのは捺くんの友人だけど、捺くんをそういう"目"で見ていたらしい。
それは朱理くんしか気づいてなくてクロくんも捺くんも知らなかった。
そして今日の飲み会で、おそらく沢崎くんが誘って別テーブルで飲み―――。
強めの酒を飲まされ、さらには―――そのお酒に……
「ゆうとさんっ、ちゅーしよー……? おれもーがまんできない……っ」
どうやら催淫剤、いわゆる媚薬が入っていたらしい。
かなり酔っぱらった上に媚薬まで飲んでしまった捺くんはもうヤバイ状態で、危うく居酒屋を抜けだそうとしてたところを朱理くんとクロくんに助けられた―――ということだった。
「……家に帰ってからね」
後ろからクロくんたちの視線を感じる。
顔が引きつりそうになるのを耐えながら捺くんに手を伸ばす。
「いまがいいっ。おれも……がまん……できない……もんっ」
いつも以上に甘えた眼差しで見上げてこられる。
いつもなら可愛いと思うし目まいがするくらいに放出されてるフェロモンに俺だってキスしてあげたい、と思う。
けど、
「……」
「……もんって、なんだよ」
それは二人っきりになってからだろう。
クロくんがボソッと呆れたように呟くのが耳に入ってくる。
早く帰ろう、タクシー呼ぼう、そう思ってもう少しで触れれると思ったとき、捺くんがふらふらと立ちあがったかと思うと俺に体当たりしてきた。
いや、正しくは抱きついてきた。
だけど酔ってるわりにものすごい力で抱きつかれて不意のことにバランスを崩してしまう。
やばい、と思ったときには俺はアスファルトに倒れ込んで、
「危ねぇ!」
どうやら俺たちふたりを助けようとしてくれたらしいクロくんが、タイミング的に捺くんだけを抱き止めた。
「大丈夫ですか、優斗さん」
「あ、うん」
クロくんと朱理くんが心配してくれる中―――
「ゆーとさんっ」
「……は? うっ!? ッッ!!!!」
「……」
「……」
捺くんが叫んだかと思うと、キスをした。
最初からハイペースな明らかなディープキスを。
「……っ、ん」
―――……クロくんに。
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