Mother's Day D


「おかゆいところはないですか?」

指の腹で丁寧に力加減も気をつけてわしゃわしゃと丁寧に優斗さんの髪を洗う。

「ないです」

気持ちいいよ、と笑みを含んだ声が湯気の充満したバスルームに静かに響いた。
いつもならソープごっこな気分だけど、今日の俺は美容師気分だ。
上がったらドライヤーもプロ気分でかけてあげるつもり。
泡立ったシャンプーを流してトリートメントつけて、そうやって優斗さん洗ってあげて、俺も優斗さんに洗ってもらって湯船に向かい合わせて浸かった。
ちょうどいい湯温にいっきに力が抜けて、はー、なんてオッサンくさい声が出る。

「あー気持ちイイ」

ミルク色のお湯をすくって顔洗う、ってオッサンくせーな俺。そんな俺を優しく見守る優斗さんにきゅーんとして向かい合わせなんてあっという間に解消して擦り寄っていった。

「今日、楽しかった?」
「とても」
「次は父の日だなぁ。優斗さんプレゼント考えてる?」
「んー。ネクタイピンにしようかな」
「じゃあ俺、ネクタイにしようかな」

優斗さんの首に手を回して抱きついて視線を絡ませる。

「いいね。一緒に買いに行こうね」
「もちろん!」

ふふ、と笑いあって体勢をかえた。優斗さんに背を向けてもたれかかる。後から抱きしめられて、優斗さんの肩に頭のっけて天井を見上げた。
――父の日。そして今日の母の日。
お袋とふたりで買い物に行って、"お義母さん"と呼ぶようになって。
じわじわといまさら嬉しい。最初からうちの家族は優斗さんのこと大歓迎だったけど。俺のこと抜きにしても優斗さんが本当の家族になってたんだって実感した。
優斗さんにとって俺の家族が本物になってくれてるのならすげぇ嬉しい。

「……ゆーとさん」
「なに?」

湯気で白んだバスルーム。お湯も適温で心地よくて、優斗さんの腕の中も心地よすぎて癒される。

「――お母さんに会いたい?」

あんまりその話をすることはない。高校のとき俺がバカみたいな嫉妬したときにちょっと聞いてあとは大学生なって……少しだけ、聞いた。
お姉さんのお墓参りに行ったときとかに。

「いいや」

どこかに優斗さんを生んでくれた人がいる。
きっと探そうと思えばできるだろう。

「そっか」

優斗さんは優しいからきっと探すことはしないだろうけど。
ふっと首筋にキスされて、顔を上げ優斗さんを見た。

「いまが幸せだよ」
「うん。俺も」

いつか優斗さんが望むことがあれば俺はいつだってその手助けをしてあげたい。
いまもこれからも俺が、俺の家族が傍にいるんだし。

「優斗さん。家族旅行楽しみだね」
「楽しみだよ、本当に。計画たくさん立てよう」
「ぎっちぎちにスケジュール組んで遊びまわろ!」

優斗さんの頬に頬すり寄せて、すり寄せられて。湿った肌がやわらかく触れうのが心地いい。
あったかくて手を伸ばして触れて、唇を触れ合わせて。
優斗さん大好きだよ、って毎日言ってることをいつものように言って。
俺も大好きだよ、って毎日伝えてくれることをいつものように聞いて。
ゆっくりと特別な一日は終わってくけど続いてくんだろう。


【おわり】

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