綺麗なお姉さんは好きですか?@


「trick or treat!」

リビングのドアを開けたとたん、優斗さんの声が飛び込んできた。
いまは夜の11時半。
従兄のマサ兄が経営してるバーで今日バイトのひとが急に休んで、それでマサ兄に頼まれて代理で少しだけ出てきた。
帰るときに今日はハロウィンだからってケーキをもらったから、お菓子かいたずらかって言われれば、お菓子を渡せるんだけど。
だけど、だ。

「……ゆ、優斗さん?!」

ただいまーって玄関あけても何の反応もなかったから風呂でも入ってんのかなーって想いながらリビング来たら突然の優斗さんからのtrick or treat!。
驚いたけど、俺はさらに優斗さんの姿に驚いた。

「捺くん、trick or treat!」

固まってる俺に優斗さんが首を傾げてもう一度言ってくる。
その仕草にふわりと長い髪が揺れた。

「……え!?」

長い髪、だ。
でもって美人なお姉さんがいる。
いや、紛れもなく優斗さんだってことはわかる。
目ぱっちりで長い睫毛、うるうるな唇に、白い肌。
真っ黒さらさらな長い髪に真っ白でフリルのヘッドドレス。
黒と白の―――アリスっぽいデザインの服はミニスカだ。
ミニスカだよ、おい。
ミニスカからすらりとした脚が覗いていて、それにニーハイ。
可愛い服に、美人で―――……ていうか。

「え?! 優斗さん?!」

どうしたの、と俺はようやく叫んだ。
優斗さんは恥ずかしそうに長い髪を耳にかけながら俺のそばに立つ。

「やっぱり似合わないよね。気持ち悪いだけだって思ったんだけど」
「い、いや似合ってる!! めっちゃ似合ってる!!! すっげぇ美人でビビった!!」

冗談抜きで、綺麗で見惚れる。

「そう? お世辞でも嬉しいな」
「お世辞なんかじゃないよ!!」

優斗さんの手を取って、大きく首を横に振る。
本当にマジで綺麗なんだけど。
いやでも―――。

「なんで……女装?」

しかもアリスコスプレ?
優斗さんの女装をまさか見る日がくるなんて思いもしなかったんだけど。

「……こんなことさせるのひとりしかいないと思うんだけど」
「……智紀さん?」
「そう」

そういや先週の金曜に優斗さん飲み行ってたな。
俺は用事あっていけなかったんだけど、思い返してみれば帰宅した優斗さんがやけにため息が多かったような気もする。
それに―――その翌日、智紀さんからメール来てたな。

『ハッピーハロウィン!』

って、一言だけ。
まだハロウィンじゃないんだけどって思いつつ、そっくりそのまま返信して終わったメール。
あれにはこんな深い意図が隠されていたのか!

「先週飲みに行ったときに、利きワイン対決しようとか智紀が言いだして。……俺勝てる要素なかったのになんでしたんだろう」

ふっと遠い目をする優斗さん。
物憂げな表情が妙に色っぽくて見つめてしまう。

「それで、罰ゲーム」
「うん」
「メイクは? 衣装とかは智紀さんが用意したんだよね?」
「そう。メイクもプロにしてもらうとか言っていたんだけど、俺が捺くん意外に女装なんて見られるの絶対嫌だったから断った」

俺だってこんな美人お姉さんな優斗さん智紀さんたちに見せたくない。
絶対セクハラされそうだし!!

「てことは、自分でメイクしたの?!」
「うん。雑誌見ながら適当にだけど」
「……いや充分ばっちりだよ」

アイメイクもちゃんとしてるし、濃いってわけじゃないけどムラなんてまったくなく、うん綺麗。
驚きも落ちついてくれば目の前にいる美人お姉さんな優斗さんに触れたくなってくる。
むずむずしてぎゅっと優斗さんの手を握ると優斗さんは俺の気持ちに気付いたように顔を近づけてきた。

「trick or treat」

唇同士が触れそうになる直前で優斗さんが囁く。
俺はちょっと笑って訊いてみる。

「お菓子あげなかったら悪戯してくれんの?」

優斗さんは淡いピンク色の口紅をひいた唇を緩めると、

「そうだよ。悪戯するよ?」

さらりとウィッグの長い髪が俺のほうへと流れてくる。
俺は手にもっていたケーキの箱をそのままに、じゃあ悪戯して、と長い髪を指に巻きつけ軽く引っ張った。
目を細めた優斗さんが瞼を閉じる。
ブラウンのアイシャドーが新鮮すぎる、なんてちょっとテンション上がりながら触れてきた温もりに俺も目を閉じた。

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