for you A
帰宅して郵便物を取ってエレベーターに向かう。
ダイレクトメールが主な郵便物の中に可愛らしいピンク色の封筒が紛れていた。
なんだろう、と見てみると住所はなにも書いてなくて真ん中に【佐枝優斗様】とだけある。
見覚えのある字に封筒を裏返すと【向井捺】の文字。
「……捺くん?」
首を傾げエレベーターに乗り込みもせずにその場で封を切った。
なんで手紙なんだろう、と不思議に思いながら便箋を広げて目を走らせ、
「……」
口元が自然と緩むのを感じた。
そして―――踵を返した。
***
夜の11時間近。
電話が鳴りだして見れば優斗さんからだった。
一気にテンションがあがると同時に、ちょっと不安が沸きあがる。
「もしもし」
緊張しながら出れば「捺くん、こんばんは」って優斗さんの優しい声が耳に響いた。
「こんばんは。もう家?」
「うん。10時には帰ってきたよ」
「そうなんだ。お疲れ様デス」
「ありがとう。ところで、捺くん」
「……なにー……?」
うあー。あの事かなあの事だよなぁ。
実優ちゃんたちに書かせられて、優斗さんのマンションにまで持っていったラブレターのことを思い浮かべる。
もう見てる、よなぁ。
電話越しで俺の顔なんて見えないだろうけど、恥ずかしさで顔が熱くなってこっそり頭を掻きむしる。
「いま時間ある?」
「へ……? あるけど?」
「少し出て来れないかな? いま捺くんちの近くにいるんだけど」
「……え!? い、行く行く! すぐ行くね!!」
まじで?、って焦って、その辺に落ちてたパーカー羽織ると家を飛び出た。
俺んちから数分のところにある小さな公園の傍に優斗さんの車が停まっていた。
「優斗さん!」
車に寄りかかって待っていた優斗さんはスーツ姿だ。
今日は会う予定なんかじゃなくて土曜に泊まりにいく約束してた。
予想外に会えて嬉しくて抱きついてしまった。
夜だし人いないしいいよな?
そんな俺を目を細めて優斗さんが抱きとめてくれる。
「ごめんね、夜遅くに」
「ううん、全然平気! 俺すっげー寝るの遅いし! でも優斗さんこそ大丈夫なの? きつくねーの?」
「大丈夫。捺くんにどうしても会いたくなったんだ。伝えたいこともあったし」
俺を抱きしめたまま顔を覗き込んで優斗さんがほほ笑む。
「伝えたいこと?」
なんだろう。
俺の頭の中からはすっぽりとあの事が抜けてた。
優斗さんは「うん」と頷いて―――ちゅ、と俺にキスして。
「俺も捺くんに会えて幸せだよ。一番、大好きだよ」
って、幸せそうに言った。
「……」
ぽかんとしたのは一瞬で顔がまた一気に熱くなる。
「あ……っと……。う、うん」
優斗さんがくれた言葉は俺が書いた―――恋文の返事。
なに書けばいいのかわかんなくって、内容はすっげぇ普通っていうかありきたりぽいものだった。
めちゃくちゃ恥ずかしかったけど。
ぎゅーって抱きしめてくれてまたキスして。
こうして予定になく会えることができたのなら書いてよかったな、なんて思ってしまった俺だった。
それから1時間くらい一緒にいて、
「今日はねキスの日でもあるらしいよ」
なんて優斗さんが言うから、ずっとキスしてた。
【END】
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